(再)お台場戦隊 ヘキサレンジャー【無敵艦隊、デビュー前夜】② | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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第二話『無敵艦隊、誕生』



紳助に話しがあると剛士だけ呼び止められ、何を内緒で打ち合わせているのかと

直樹と雄輔は隣の部屋に忍び込んで二人の会話を盗み聞きしようと試みていた。

幸い、防音壁なんて立派な仕立てになってなかったので、壁に耳をひっつけていれば

二人の会話を聞き取ることが出来そうな感触はある。

さてさて、新人を追い出して、こっそり何を話しているのやら・・・。


『話しってなんすか、紳助さん』


剛士のぶっきらぼうな声がはっきりと聞こえて、思わず直樹と雄輔は

やった!と顔を綻ばせて目配せをした。


『ココまできて聞くのもなんやけどな、なんであの二人を選んだんや?

 確かにあいつらは運も人柄も良さそうやけど、それだけじゃあかんやろ』

『そんな話ですか』


剛士の言葉に苦笑が雑じっているのが分かる。

彼の答えは直樹も雄輔も気になるところだった。

どうして、自分達が『正義の味方』に選ばれたのか、

最終選考の基準は剛士しか知らない。


『ドボンクイズで残った奴らの中には、お前の後輩や自衛隊、消防隊経験者もいたやろ。

 あの二人は運動能力は高いかも知れんが、単なるスポーツの中でのコトや。

 実際の現場なんて、テレビのニュースでしか知らん奴らやぞ』


紳助の言うとおり、直樹も雄輔も、一般人として今まで生活してきた。

非常事態なんて経験はおろか、生で見たことすらない。

いわば、素人の二人を何故剛士は、『正義の味方』に選んだのだろう。


『あのね紳助さん。オレ、結婚して子供が生まれて、こいつらのためなら命をかけれるって

 本気で思ったんです。家族を守るためなら自分の命なんて惜しくないって。

 たぶん、そーゆー気丈なやつらも最後には残っていたと思いますよ。

 地球の平和のために、自分の命を投げ出して戦ってくれる奴は。

 でも俺らは死んだら駄目なんですよ。

 【ヘキサレンジャー】には複数の部隊が在籍してますが、俺らは最後の砦なんです。

 俺らが倒されたら、地球の平和はもう誰も守れないんです。

 死んではいけない恐怖って、相当なんですよ』

『そうや、お前の言うとおりや。今度お前らで編纂される部隊は最強にして最終兵器や。

 ここを破られたら、俺らにはもう手立ては残っとらん。

 せやから、戦い慣れした奴らを集めて、元の人材から最強にしておかんと・・・』

『あの二人は、全然戦いなんてそぐわない。

 あいつらだけで戦えなんて、おっそろしくて言えないですよ。

 あいつらを残して俺だけ死ぬなんて、絶対に出来ません。


 ・・・・、俺は死んだら駄目だって、あいつらと一緒ならそのことを忘れないで戦えるって

 そう、思ったんです。だから俺はあいつらを仲間に選びました。

 生きて、何があっても三人で生き延びて帰るんだって。そのことを忘れないために』


緊迫した空気が、隣の部屋から流れ込んでくるようだった。

固唾を飲んで次の展開を待っていた直樹と雄輔の耳に、

わざとらしい大きなため息が聞こえてくる。


『そう言うんやったら、絶対に死んだらあかんぞ。

 どんな困難な状況になっても、必ず三人で帰って来い』

『もちろんっすよ。あいつらは俺が責任持って連れて帰ります』


明るく答える剛士の声。

けれど彼の言葉を常に実現するには、それなりの覚悟がなければいけないのだ。

出て行ったら帰って来る。

それが普通で無くなる生活が、彼らを待っている。

「バレる前に、出よ?」


そっと、隣の部屋の上司に気づかれないように、二人は部屋を抜け出した。

もう浮かれ気分で『正義の味方』なんてはしゃいでる場合ではない。

自分達の肩にかかった『責任』の重さ、命をかけて戦うこと、そして

決して死んではいけないという責務を、現実味を帯びて噛み締め始めていた。


「あー見えて、つーのさんも深く考えてんだな」


独り言のように呟いて、雄輔が思いっきり伸びをする。

只でさえ直樹より一回り大きいので、そんな仕草をするとさらに大きく見えた。

ずっと自分の腰のあたりをうろちょろしていたので、今の雄輔のほうに違和感がある。


「あ、そうか」


居住区の自分の部屋の前まで来て、直樹は変な声でそう呟いた。


「どーかした?」

「ううん、今日から雄ちゃんは自分の部屋に帰るんだなーって思って」


それまで子供の雄輔が不憫だろうと、ずっと直樹の部屋で寝泊りしていたのだが、

元の姿に戻ったのだから、わざわざ直樹の部屋にお世話になる必要もない。

それぞれにあてがわれた部屋に戻って当然なのだ。


「寂しくなる?」

「べつにー。やっと静かに寝れるなって思っただけだよ」

「強がんなよー。寂しかったら何時でも添い寝してやっぞ」

「じょーだん!そんな趣味はないし、第一雄ちゃん、寝相が悪いんだもん」


子供の雄輔になら寝ぼけて蹴られても笑って許せるが、こんな図体の雄輔に

寝てる最中に蹴られでもしたらシャレになんない。

敵と戦う前に戦闘不能になってしまいそうだ。


「なあ、ノク」


今までふざけていた雄輔が、急に真面目な顔になって直樹を見詰めていた。

真剣な眼差しになると、彼の愛嬌ある目尻が怖いくらい鋭く見える。


「のさ、これから俺たちは世界平和のために悪の組織と戦うコトになるじゃん。

その中で、すっごく辛いこととか痛いこととか怖いこととか沢山起こると思うんだけど」


こくん、と小さく直樹が頷いた。

間の取り方の絶妙なズレ加減に苦笑しながら、雄輔は言葉を続けた。


「オレは、世界の平和を守る前に、ノクのことを守るから。だから心配しないで」

「雄ちゃん・・・」


怖かったのは、事実だ。

未曾有の敵と本気で戦うなんて想像もできないし、なんで自分がって思う。

だけど・・・・。


「ありがと。ぼくも雄ちゃんとつるのさんを全力で守るから。

 何が出来るかわかんないけど、こんな僕を『仲間』として必要としてくれた二人を

 何があっても守るから。そんでずっと三人で笑ってココに戻って来ようね」


自然と浮かぶ笑顔のままで雄輔を見上げると、彼もまた口角をきゅっとあげて笑っていた。


「ん、約束だ。

 あのおっさんが俺ら残して死ねねーって言うなら、俺らもあの人を守ろう。

 一人一人じゃ危なっかしいかもしんねーけど、三人なら何があっても大丈夫だ。

 理由は分かんないけど、なんか俺たちならやれるって自信がある」

「そうだね、不思議だけど、雄ちゃんとつるのさんと一緒なら、何でも出来る気がするよ。

 前につるのさんが『一人で完璧になる必要はない。みんなで無敵になれば良い』って

 教えてくれたんだ。僕は、弱いトコが沢山あるけど、一緒に無敵になってくれる?」

「ったりめーじゃん☆俺らは三人で『正義の味方 羞恥心」』なんだからさ」


雄輔が元気全開で笑う。直樹も穏やかに微笑む。

この二人の会話を知ったら、剛士も意味ありげな含み笑いを浮かべるだろう。

まるで違う三人。

だけどだからこそ、お互いを助け合って無敵になることが出来るのだ。




この日から三人は、『無敵艦隊』への一歩を踏み出したのだった。

長く険しい道の第一歩を・・・・・。