第四話『無敵艦隊、誕生!』
「気持ち良さそうに寝てるところ悪いんですけど、そろそろ起きてください」
やたら聞き取りやすい高音の中村の声に、直樹は慌てて目をこじ開けた。
正義の味方の選考会中に眠りこけるなんて有り得ないと、冷や汗が背中を流れ落ちる。
が、
自分の目の前に広がる光景に、今度は驚愕して言葉を失った。
元気に走り回っていた子供達が、直樹を中心にしてすーすーと寝息をたてている。
その数は全体の半分近くになっていたが、なにより驚いたのは
空いていた左の太ももに頭を乗っけて誰よりも気持ち良さそうに寝ていたのが
あの上地雄輔だったからだ。
「ちょっと、上地さん!何やってんですかっ」
「・・・んんん?もうちっと寝かせて。。。」
「じゃなくて!起きてくださいよ。選考会の途中ですよっ」
人の事を言えた義理ではないが、こんな大きな子供に甘えられても恥ずかしいだけである。
痺れそうな左足から彼の頭が退くと、直樹は小さくため息をついた。
「なんで僕の膝枕で・・・」
「だってみんながお前の膝枕で寝たいって言うから、喧嘩にならないように独占したの」
「・・・(-"-;)。だから、なんで上地さんが?」
「オレのが先にお前と知りあってるから (=^▽^=) 」
正論のような自分本位の言い訳のような、とにかく雄輔の思考回路を読むことは
そうとう難しいことだと、このときに直樹は悟ったのだった。
「では全員が起きたようなので、移動してください。
この後、選考結果をお知らせいたします」
中村にエプロンを返しながら、これでようやく終るのかと直樹は胸を撫で下ろした。
雄輔はもしかしたら正義の味方に選らばれるかも知れない。
でも自分はココまでだろうな、と諦めていた。
諦めていた、と言うよりは、選ばれたら困るだろうと正直思っていた。
だって、こんな『弱い』僕が、世界平和のためになんて戦えないよ。
チラッと後ろを振り向いた。
今まで遊んでくれていたお兄さんたちが帰ってしまうので、子供達は寂しそうにしている。
中には懐きすぎて泣いている子までいるようだ。
わんさかいる子供達の中から、直樹は唯一自分の元に来てくれた男の子を探し出せなかった。
最後にさよならとありがとうを言いたかったのに。
いざというときに、引きが悪い。勘が冴えない。
それが自分なのだと、充分に分かっていた。
直樹と雄輔を含む最終選考に残った7人は、会議室みたいな部屋に通された。
東京ドームにこんな部屋まで設置されていたとは、野球少年だった直樹も知らなかった。
(というか、私の都合よいフィクションだ)
中には偉そうなおいちゃんと派手なにいちゃん。若くて綺麗な男の子と、
何故だか派手な女の子が三人、待ち構えていた。
「ホントだぁ。イケメンばっかし残してる!」
「たけパパってば、基準がいやらしいですぅ」
「え、でもさ、やっぱサッキーのがかっこよくね?」
その派手な女の子達がヒーロー候補生を見つけて口々に騒ぎ出す。
・・・・・。
なんなんだ、この娘達は・・・・( ̄◇ ̄;)
「これこれPaboさんたち。これから大事なお話があるんだから静かにしてなさい」
それからコホン、とひとつ咳払いをして、
派手なにーさんがヒーロー候補生たち一人ひとりと改めて視線をあわせた。
深いダークグレーの瞳。
人の心を見透かすような、真に迫る迫力がそこにあった。
「ま、個人的に見知った顔もあるんだが、まずは自己紹介と状況説明から。
俺の名前はつるの剛士。君たちと組んで正義の味方になる男です。
で、こっちに居るのが紳助さん。そもそも正義の味方を作ると言い出した張本人で、
これからはこの人の指示で戦うことになります。その覚悟はしておいてください。
それとあの娘さんがたは『アイドル戦隊Pabo』のみなさんです。
俺らと一緒に戦うことになりますが、けっっして手を出さないように。これ、厳重注意ですよ。
俺の隣にいるのが崎本大海くん。直接戦いの現場には行く予定はありませんが、
俺らの戦いのサポートをしてくれます。」
礼儀正しく頭を下げた青年に、睨まれたように思ったのは気のせいだろうか?
しっかりした眉は彼の意思の強さを物語っているようで、
自分よりもよっぽど正義の味方に向いてるように思える直樹だった。
「それでは本題に入ります。
まずはこちらからの無茶なお誘いと選考に付き合ってくれたことに感謝します。
おちゃらけてるように思われたでしょうが、本気でこっちは命懸けて戦う仲間を
探している、ということだけは信じてください」
そこで彼は、ふっと言葉を切った。
ここの集まっている若者は、『戦う』ということがどんなことか、まだ分かってない。
頭に描くほど単純ではないし、真っ直ぐな気持ちだけで戦えるほど正しくも無い。
そんなものに巻き込もうとしているのだ、彼らを。
「で、これが戦うのに必要な変身ブレスです」
テレビのヒーロー達が使うような、大型の腕時計みたいな装置を翳す。
彼の左腕に一つ。そして色違いの物が右手に二つ握られてる。
「子供の頃に見ていた特撮ヒーローが使う物と同じくらいの機能を想像してもらえれば
間違っていないでしょう。細かい説明は後でしますが、受け取った人は大切にしてください。
これ一個で家が1件買えるだけのシロモノですから」
その説明にぶっっ!と思わず噴出す者も居た。
確かに『変身』なんて質量保存の法則とかを無視した機能を持つ道具だ。
それくらいの費用が掛かってしかるべきだろう。
「こーんな高価なものを預けるのに少しばかり不安もありますが・・・」
彼は、つるの剛士はため息混じりにそう呟いて、その高価なものをひょいっと放り投げた。
それは綺麗な放物線を描いて、一人の男の手の中に収まる。
「上地雄輔。あんたを羞恥心イエローに任命する」
「マヂでっ!!うわ、オレヒーロー?超すごくない!!」
まるで小学生がクラスの学級委員長に任命されたかのような反応に、
彼を指名したことに早くも後悔を覚える剛士だった・・・。
「あのな!お前、これからホンマモンの悪者と戦うんだぞ!その重要性を理解してんのか!」
「大丈夫だって。これで変身したら強くなるんでしょ?楽勝楽勝♪」
この脳天気なまでの自信はどこから来るのだろうか。
自分もポジティブさでは負けないつもりだが、あまりの根拠のない余裕に
剛士は軽い頭痛も感じ始めていた。
「とりあえず、あと一人。
こんな奴と組むのは予定外だとか嫌がるなよ、野久保直樹」
名前を呼ばれたので、はい?と直樹は首を傾げた。
まだ何か剛士が言うのかと待っているが、彼は何も言わない。
と言うより、察しの悪い直樹に向かって眉の間の皺を深くしている。
「のーくーぼなおきくん?君が選ばれたんだよ?分かってる?」
はい、と丁寧に変身ブレスを手渡されて、直樹はようやく自分の置かれている状況を理解した。
有り得ないと思っていた正義の味方に、しっかりと選ばれてしまったのだ。
「っちょ、ちょっと待ってください!なんで僕なんですか!僕よりも向いてる人がいるでしょう?
僕はドボンクイズの一問目で、上地さんが金に行くって言うのを聞いて金を選んだんです。
それを聞いてなかったら、ぼくは真っ先に失格してたんですよ?」
「んなこと言ったって、上地雄輔が正解を知ってたわけじゃないし、そもそも最後の質問は
上地のほうがお前の後に付いて行ってセーフになっただろ?」
「そうだとしても、次の子守のときに僕は一人の子の面倒しか見れなかったんです。
他の人は大勢の子供を楽しませてあげたたのに。。。
とにかく、僕なんかよりも正義の味方に向いてる人はここにも沢山います!
気紛れで選ばないでください」
普通、そういう反論は選考に落ちた人間がするもんなんだが。
落選したヒーロー候補生達は互いの顔を見合わせて苦笑するしかなかった。
そして、こんな反応をする直樹だから、あえて選ばれたのでないかとも薄々察していた。
「言わせて貰えば、こっちは命懸けてるんだ。気紛れで仲間を選んだりはしないぞ。
今のお前個人は弱いかもしれない、勘も悪いかもしれない。光るもんが無いかもしれない。
だけどな、チームバランスってのがあるんだ。
お前にはオレや上地雄輔には持ってないもんがある。
どれだけチームで補い合えるかが、磨き合えるか。そーゆーのが大事なんだよ」
でも、とまだ納得できない直樹に、それまでしかめっ面だった剛士が朗らかに微笑みかけ、
力んで強張った直樹の肩に優しく手を置いた。
「一人で完璧になる必要はないよ。みんなで無敵になれば良いんだから」
だから一緒に歩いていこう?
そんな剛士の瞳が、直樹の迷いの奥にある願いを見抜いているようで、
自分を変えるために困難な道に踏み出したい気持ちを後押ししてくれるようで、
流されるように、直樹は頷いてしまったのだった。
「あの、つるのさん、ひとつ聞いていいですか?」
「なんでもどーぞ」
「左腕にある、その黒い星の跡って・・・」
彼の左腕の内側にある黒い星には見覚えがある。
まさかと思いながら、直樹はその真意を確かめたかった。
「ああこれ?これは救世主の身体に現れるという幻のブラックスター・・」
「つるのさん!そんなウソ言ったら、野久保さんは信じちゃいますよ!!」」
崎本が助言するまでも無く、直樹は素直に信じかけてた。
「うそっつーか、軽いジョークのつもりなんだけど・・・。
これは単なる刺青。珍しい?」
「いえ、あの、それって・・・」
「どこかで見た?」
どこまでも素直な直樹は、力いっぱい『うん』と頷いた。
あの、自分に懐いてくれた男の子。
ちょっと生意気に大人びた瞳のあの子の腕にも、同じ星があったのだ。
「それね、オレだわ」
「で、でも、そのときに見たのは・・・」
ニヤリと剛士が不適に笑う。
困惑している直樹のことを楽しんでいるみたいだ。
「子供だったって言うんだろ?あれ、オレが変身したの。
この変身ブレスの性能ってすごくてさ、老若男女自在に変身OKなのよ♪」
驚いて手にした変身ブレスと、剛士の顔を何度も見比べる。
確かに言われて見れば面影があるかも。
なによりも、曇っているようで人の深層まで覗き込んでしまいそうな
鋭く趣のある瞳がまったく同じだ。
「直ちゃんのお膝、寝心地よかったよ」
ドッカン!と直樹の顔が真っ赤になる。
と、言うことは何か?
図らずも直樹は一緒に戦う人を纏めて膝枕してたってことなのか?
(サッキーに睨まれたのは、軽い嫉妬です)
「有り得ない・・・」
「運命だよ。諦めな」
両手で顔を覆い隠して落ち込む直樹の背中を、ちょいちょいと誰かが突っついた。
なんですかと振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた場違いな子供が・・・。
「すっげーぞ、この変身ベルト!(変身ブレスです)
こんなちんまくなれた!」
「って、ええ??上地さんですかっ?」
「おーよく使い方が分かったな。まあこれで直樹も納得しただろ?」
納得も何も、目の前でこんな姿を見せられては信じる意外にないだろう。
「ねーねー、これ、どーやって戻るの?」
「なんだよ、戻り方までは分かんなかったのか?見せてみ?」
小さくなった雄輔に変身ベルトの使い方をレクチャーするため、剛士もその場にしゃがみこんだ。
こうして後ろから見ると、まるで親子みたいである。
「あれ?お前ロックかけちゃってんじゃん。暗証番号いくつで登録した?」
「そんなの登録してないよ。適当に弄ってたらこんなになったんだもん」
「って、勘かい!ここにさ、数字打ち込まなかった?」
「え~っと、4649?」
「・・・・、違う。エラーだ」
「5963?」
「これもエラー。ちゅーか、全部語呂合わせじゃねーか」
「あ、分かった1192だ!」
「ああ、いいくに作ろう鎌倉幕府って、バカ!語呂合わせ聞いてるんじゃないっ!」
「!つ、つるのさん、待って!三回エラーすると変身ブレスの機能が凍結しちゃう・・・!」
崎本の助言も、今度は間に合わなかった。
プシュ~と頼りない音を上げて、雄輔の変身ブレスの電源が全てオフされた。
不正使用をされないための防止策なのだが、まさか本人が変身している最中に
その機能を止めてしまうのは想定外の出来事だった。
「あ?」
「え?」
「・・・・、どーなるの、オレ」
雄輔の嘆きも尤もだ。
この先、自分の行く末はどうなっているのか。
期待よりも不安ばかりが募る直樹。
己の人選に一抹の不安を覚える剛士。
子供の姿になって放置された雄輔。
彼らが『無敵艦隊』を自負するのは、もう少し先のことになる。
だが確かに、この瞬間に『無敵艦隊羞恥心』は生まれたのだった。
彼らの今後に、こうご期待('-^*)/
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
音信普通なワタクシのところにお立ち寄り頂き、ありがとうございます。
数日分再放送を仕掛けておいて安心してたら、一箇所、日時を間違えてました☆
繋がりがオカシイ順番で公開してしまったよ・・・。
(修正済み)
もうちっと音信不通状態になるかと思います。
無礼が続きますが、どうかお許し下さいませ。
ではみなさま、明日からも一週間。
笑顔で踏ん張って根性で乗り越えて行きましょう(`・ω・´)シャキーン !!