(再)お台場戦隊 ヘキサレンジャー【episod ZERO】③ | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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第二話 『未完成な二人(前編)』




「お前、興誠高校の野久保だろ?うわぁ、すっげぇ偶然じゃん!」


 握った手をブンブンと振り回して、彼は目をキラキラと輝かせていた。

 そうか、高校球児時代にどこかで対戦でもしたことがあったのか。

 これでうっすらとしか記憶に残ってなかったことも頷ける。


「オレ、お前より2つ上で横高にいた上地雄輔。

直接おまえのとこと当ったことはないけど、部の資料で野久保のこと見たことがあったんだ♪」


 にこにこと話し続ける男の自己紹介を聞いて、直樹は思わずあっと声を上げそうになった。

 横浜高校、幻の正捕手上地雄輔。

 あの松坂大輔とバッテリーを組んだことでも有名で、

直樹世代の野球少年の間ではちょっとした顔なのだ。

 どうりで見覚えたあったはずだ。


「もしかしたらお前も横校に来てたかもしんねーって話し聞いててさ、

なんとなく気になってたんだ。今も野球はしてんの?」


 無邪気にそう問われて、直樹は一瞬返事に詰まってしまった。

 よくある質問、いや質問といいうより当たり障りのない世間話みたいなもんだ。

 だけど素直に答えるのに、少しだけ躊躇してしまう。


「今は・・・、趣味程度です。草野球とか」

「ふ~ん、じゃ、野球は続けているんだ、良かった♪」


 彼は満開の笑顔でそう言うと、ほぼ初対面の直樹の肩に腕を回して親しげに引っ付いてきた。

 まるで、古くからの親友のように。

 雄輔の馴れ馴れしいほどの人懐っこさに驚きながら、

直樹は彼が何故『良かった♪』と言ったのかが気になっていた。

 直樹の学生時代の活躍を知っている大概の人は、

彼が野球に本格的に関わっていないことを勿体ないという。

 自身がどんな思いで野球に見切りをつけたのか、考えもせずに。


「オレも今、草野球のチームに入ってんだ。今度試合でもすんべ♪」

「でも僕のチームはそんなに強くないですよ」

 かつての直樹の栄光から、へんに期待されても困るとそう思った。だけど。

「オレんとこだってそーだよ。商店街のおっちゃんたちが集まったようなもんなんだからさ。

べつに楽しく野球できればそれで良いだろぉ?」


 楽しく、できれば。

 何故だろう、彼の当たり前の一言に、救われたような気がしたのは。

 心にいつまでも残っていた重いしこりが、取れて開放されたような気分になれたのだ。



『はい、それでは次の質問です。野球とサッカー、どっちにしますか?』


 この質問に、二人は顔を見合わせてにっかりと笑い合った。


「そりゃ、もちろん」

「野球だべ!」


 そしてかつての野球小僧は、肩を並べるようにして走り出して行ったのであった。






 いまどきオペラグラスを片手にして、剛士はめぼしい選手のチェックに余念がない。

 自分と組んで戦う相手を探しているのだから、必要以上に慎重にもなるもんだ。


「ん?」


 例のキラキラ男が、またも誰かを捕まえて話し込んでいる。

 今までにも増して親しそうに戯れているのだが、様子が今までと少しばかり違う。

 相変わらずキラキラは止まらないのだが、その色が変化してる。

 これまでのようにただ光っているだけではない。刻々と鮮やかに色を付け、

さながら虹のように彩度を変えながら輝いているのだ。

 何が影響しているのかと要因を探ろうとさらに集中して観察していると、

どうやら彼本人よりも隣の男がきっかけになっているようであった。

 肩を寄せる。耳打ちをする。背中をどつく。

 そんな接触が繰り返されるたびに、七色の光が二人の間から生まれるのだ。


「崎ちゃん、77番のプロフィールもちょーだい」

「77番・・・、野久保さんですね。

さっきの上地さんに加えて小栗さんに半田さん、城田くんに櫻井くんと・・・。

つるのさんはイケメンがお好きですか?」


 いつもの爽やかに済ました崎本の笑顔に、ちょっとばかし皮肉の色が混じっている。

 顔の良し悪しで選べるならこれ以上楽なことはないが、

そんな基準で命を預ける相手を選ぶほど剛士だってお気軽ではない。


「ま~正義の味方だから、見てくれが良いに越したことはないけれど、

うちのサッキーが一番可愛いからねぇ。それ以上の奴を探すのは大変だよ?」

「えっ?・・・、な、何言ってるんですか!男が可愛いなんて言われても嬉しくないですよ!」


 言葉とは裏腹も崎本の顔は真っ赤である。

 まだまだ若いわね~と心の中で突っ込んで(本当に言うと、またしつこく反論されるので)から、

剛士は77番の資料に目を移した。

 貼り付けられた写真より雄輔の隣で笑っている現物のほうが可愛い、というか、幼い顔をしている。

 彼一人でいたときは何も感じられなかったのに、雄輔と引っ付いた途端に奴のキラキラを増幅させ、

あまつさえ己までもが光り始めた。

 相性ってことか?それにしても極端な奴らだなぁ。

 それも大事だが、もう一個、気になることがある。


「ねー紳助さん。下のやつらはまだ気がついてないのかな?」


 また中村から何か質問が出されたのだろう。

 会場に残った勇士たちがモーゼの十戒のように綺麗に二つに分かれていく。

 その躊躇ない動きは頼もしいのだけれど・・・。


「これって右左左、右左左、って繰り返して底が開いてんでしょ?

法則性とかまったくの無視で未だに本能だけで分かれているよね」


 確かに勘が冴えてるのも大事なのだが、少しはそういう察しのつく人間が残ってくれないと

この先苦労しそうだ、と、剛士は眉間の皺を深くして若武者たちの動きを傍観していた。





 そんなオチがあるとは露知らず、ヒーロー候補生たちは必死に勘を働かせ、

ドボンしないように駆けずり回っていた。

 正しく、体育系の行動である。


『では最後の質問で~す。海と山、どっちにしますかぁ?』


 やっと聞けた最後、と言う単語にどこからともなく安堵のため息が聞こえた。

 とりあえずこれが終ったら、ドボンの恐怖から開放されるのだ。

 ココが勝負と、今まで以上にみんな迷って選んでいる。

 そんな中・・・。


「ぜってー空!だって太陽があるもん(^▽^)」


 自信満々に答える雄輔の声に、やっぱりあのときのお日様色の人は彼だったと、

直樹は確信して、その人自体がお日様みたく笑っているのを見詰めた。

 なんとなく、彼が選んだほうが『正解』な気がする。

 そもそも彼の助言に従ってなかったら、直樹は第一問でドボンの運命だったのだから。


「上地さんは空ですか」

「うん!」

「それじゃ、ここでお別れですね。僕は海に行きます」





次回『未完成な二人(後編)』に続く!