第一話『出会い、一歩手前(後編)』
「満点の笑顔でやることがえげつないなぁ、中村さん」
グランドで繰り広げられる阿鼻叫喚図を、ロイヤルシート席から眺めてたつるの剛士が同情げ呟いた。
客観的には高みの見物の立場であるが、一つ間違えたら自分もあの中に居たのかと思うと、笑うに笑えない。
「な~に他人事みたいに言うてんのや。お前の仲間を探すテストをしとんのやぞ?」
ソフトリーゼントに背広姿という、怪しい不動産屋のようないでたちの男が剛士にぼやく。
何を隠そう、この男こそが『正義の味方集団を組織しようと企てた島田紳助に他ならないのだ。
「でもさ紳助さん、オレなんかが正義の味方でほんっとうに良いの?」
元を辿れば剛士が正義の味方として選ばれたのだが、彼一人で戦わせるには(体力的に)心許ないというので、今回の選抜大会が開催される運びとなったのだ。
剛士としては自分が何の試験もせずに正義の味方に選ばれたことが不思議でならない。
「お前以上に正義の味方が似合う奴はおらんやろ」
「そうかなぁ?」
「じゃあ聞くで。赤信号・・・」
「青になるまで待ちましょう」
「落し物は?」
「交番に」
「オレの物は?」
「みんなの物」
「結婚してたら、浮気は」
「しちゃ駄目でしょっ! 」
「ほれみぃ、正義の味方の模範解答そのものやんか」
「最後はちょっと違うと思います(-"-;)」
相変わらずの紳助の強引さに脱力しながら、この人のやんちゃに付き合わされることになったヒーロー候補生達を改めて見下ろした。
「オレの後輩も何人か居るんですから、あまり手荒なことはしないでくださいよ」
随分と数の減った若者たちは、中村から出題される一問一問に振り回されるように右へ左へと彷徨っている。
後輩の太陽や隼人は残っているかな、とその中に眼をこらしていると、一人の男の姿が剛士の目に止まった。
「・・・サッキー、ゼッケン2を付けてる奴のプロフィール、見せて」
手を差し出すと、オペレーター兼情報処理係(兼マスコットボーイ)の崎本大海が、すぐに指名した男の履歴を渡してくれた。
はっきりした眉に、黒目がちな瞳が印象的な美少年。
一見するとたおやかそうだが、気が強い一面も隠しているだろうと剛士は読んでいた。
「お知り合いですか?」
「そんなんじゃないけど、気になってね」
含みのある笑みを浮かべた崎本から資料を受け取り、頭からざっと目を通す。
上地雄輔?沖縄、じゃなくて神奈川の出身か。なんだ、随分と年はいってんだなぁ。元野球少年で、今は自由人、ね。
手元の資料と照らし合わせながら、群集に塗れる雄輔の姿を追いかける。
彼を探す手間は殆ど掛からなかった。
何故なら剛士の目には、上地雄輔の周りにキラキラと瞬く光を感じることが出来たのだった。
他のヒーロー候補生の中にも、同じような光を持ち合わせている者も何人か居る。
だが、彼ほど強烈にそして鮮やかに光を纏っている人物は他には、いや、未だ嘗て出会ったことが無かった。
加えて。
あいつ、誰かと話しているときのほうがキラキラが増すな。
落ち着きなくうろうろとする雄輔は、誰彼構わず近くにいる人間に話しかけているようなのだが、そうやって人と接しているときに限って、彼から発する光の輝きが強くなるのだ。
おっもしれぇ奴もいるもんだ。
不適な笑みを浮かべてグランドを見詰める剛士の姿を、崎本は、また悪巧みでもしているな、とため息混じりに眺めていた。
心臓に悪すぎる!
直樹は顔面蒼白になってその場に座り込んだ。
高いところも水に落ちるのも怖くない。
ただ、いつ落とされるか分からない、という緊張感がとてつもなく心身に良くないのだ。
「おい、大丈夫かよ?」
「あ、平気です。ちゅっとへこたれてただけですから」
こんなことで心配されるなんて恥ずかしいなぁと、親切に手を差し出してくれた人の顔を見上げた。
目尻にぎゅっと笑い皺を溜めて、明るく健やかに笑っている。
とても幸せそうに見えたその笑顔に、どこかで会ったような気がして、直樹は過去の記憶を手繰ろうと、お粗末な脳内回路を必死に働かそうと試みた。
「・・・野久保?」
先にその人に自分の名前を言い当てられて、直樹は目を丸くして驚いた。
彼が誰なのか、まだ答えは出て来ない。
ただ一つだけ分かったのは、先ほど『お日様の金』と囁いて通り過ぎた声は、彼の声だったということだけだった。
次回『第二話 未完成な二人』に続く( ´艸`)ムププ