赤信号研究所の一角にあるデータ管理室。
研究員のおえらい先生方は戦闘で損壊したバトルスーツの解析に集中している。
剛士は病室の直樹の元へ行ったようだし、変に勘の良い雄輔は訓練室に閉じこもってる。
崎本はそれでも周囲を気にしながら、管理室の保存庫の前に立ちはだかった。
ここには普段は使用されてないが、お台場戦隊の秘密事項がいろいろと保管されている。
緊急時において全権委任されてる崎本すら勝手に開閉する権限を与えられていない、いわば戦隊の機密情報が詰まった場所なのだ。
自分を信頼してくれる全ての人に心の中で謝罪し、ロック解除の手続きを遂行する。
最後の暗証ナンバーは毎週のように変更されているが、たった4つの数字を導き出すなんて崎本にかかれば赤子の手をひねるようなものだった。
超合金の重たい扉がゆっくりと開く。
その中央に納められた目的の箱にも、また独自のセキュリティーがかけられている。
崎本は慎重にその箱を取り出して、記憶している暗号と手順を打ち込んでいった。
ピンッ!と小さな音がして、箱のロックが外れた。
震える手を押さえて、上部の蓋を取り外す。
その中に収納されていたのは、ヘキサレンジャー変身ブレスのプロトタイプであった。
試作品と侮るなかれ。
ほぼ完成形にちかいそれは、身に付ければ常人を逸した力を手に入れる事が可能である。
またヘキサレンジャーの秘密解明にも繋がる貴重な品なのだ。
このブレスの開発時点から関わっていた崎本は、試行の時点でプロトタイプを身に付けたこともあった。
剛士達のように機能全てを有効活用できるかはともかく、使用法くらいは心得ている。
これさえあれば・・・。
手に入れたそのブレスを抱え、部屋から逃げ出そうとした。
「やめなさいサッキー。それは危険な物だって、彼方も知っているでしょう」
腕組みをして一部始終を見ていたのは、まいだった。
彼女は渋い顔をして、不機嫌そうなため息を漏らす。
彼がこんな行動に走ることを、きっと誰もが予測していたのだろう。
「里田さん・・・」
「知ってるよね、それの変身時間が30分しか持たないことを。
敵との戦いのど真ん中で変身が解除されることがどんだけ危険か、分かってるでしょ?」
「分かってます、充分理解してます。でも、僕が行かないと、兄の僕が行ってあげないと・・・!」
「じゃあさ、サッキーが危険な目に合うのを、私たちに黙って見てろって言うの?
剛パパがなんでサッキーを戦いの現場に連れて行きたがらないか、考えたことある?
サッキーは真面目すぎるんだよ。絶対に自分の事を一番後回しにしちゃうでしょ。それが恐いの」
それは、いつだったか直樹にも忠告されたことだった。
崎本は自分よりも剛士の安全を優先させてしまう、だから戦いの場に連れて行かないのだと。
「それは、そうかも知れません。でも、今回は事情が違いすぎます!
僕の妹なんですよ?僕がちゃんと明奈を守っていてあげたら、こんなことにならなかったのに」
「・・・、どうしても、行きたい?」
「お願いします!」
普段は自分の意向を無理に押し通すことなんてしない崎本が、喰らい付くように訴えてくる。
無茶をされるのは嫌だ。堅実で居て欲しい。
だけど、誰だって命をかけても守らなくてはいけないもの持っているのだ。
「分かったわ。明日は私たちも一緒に出動するつもりだから、剛パパに頼んであげる。
その代わりブレスは置いていって。訓練をうけてない人間が変身するのも、慣れてない『力』を持って戦いの場に行くのも危ないわ。
自分の力を弁えて、それ以上無茶をしないって約束してくれるなら連れて行ってあげる」
不用意な力に振り回されるほうが、生身でいるよりよっぽど危険だ。
賢い崎本なら、己の力が及ぶ範囲を正しく理解できるだろう。
「約束、します。絶対に自分の分を越えた行動はしません。
だから、どうか僕も連れて行ってください・・・!」
縋るような言葉に、まいはいつもの『にっこり』という文字が浮かびそうな笑顔で答えてあげた。
「よし、じゃ、明日は安全対策をばっちりして付いてきてね。
と、その前にどうやって剛パパのりょーしょーを得ようか?」
「え?何か策があるんじゃないんですか??」
「あるわけないじゃーん。剛パパ、何気にサッキーを猫っ可愛がりしてるからな~。
あの人を落とすのは難しいかもよぉ?」
「そんなぁ!お願いしますよ、里田さ~ん!」
大抵のまいのお願いなら喜んで聞いてくれる剛士だが、今回はちっと厳しいぞ?
なんたって箱入り息子のサッキーを戦場に連れ出すって言うんだから。
でも、と、不安げに眉を八の字にしている崎本の顔をチラ見する。
常に完璧な崎本に頼りにされるなんて滅多にない機会だから、一肌脱いで剛パパを説得してみるか。
不謹慎にもクスクス笑い出してしまったまいを、崎本は祈るような気持ちで眺めるのであった。
続く。