崎本が装備しているインカム一体型のイヤホンに、司令室で留守番をしていた里香から緊急の呼び出しが入った。
『崎本さんですか?レインボーブリッジ近辺に『イッパツヤ』が再度出現したようです』
「状況は?」
『地元警察はブリッジを封鎖してます。大きな被害はまだ出てないようですが、このままだと交通機関他に多大な影響が及ぶことが予測されてます。『お台場戦隊』への正式出動要請もおりました、ですが・・』
「香田さんは地方巡業に出てるし、Paboは関西でのライブ中、だよね?」
そうなると『羞恥心』の出番になってしまうのだが、彼らは昨日も出動したばかりだ。
いくら主軸となる部隊とは言え、連日の出動は負担になる。
ただでさえ直樹の傷は完治もしていないのに・・・。
「いいよ、サッキー。俺らで大丈夫だって」
決断できない崎本に代わって、剛士が事態の解決策を提案した。
これしか、方法が残っていないのも事実なのだが。
「ですが・・・」
「心配しないで。何度か対戦してる相手だがら問題ないよ」
一番の気がかりだった直樹に胸を張って言われたのなら、もう腹を括るしかない。
基地を預かり、ヘキサレンジャーが動きやすいように手はずを整えるのが崎本の仕事だ。
そして彼らを信用して全てを任せることも、崎本に与えられた使命なのだった。
「里香ちゃん」
ぐっとインカムマイクを口元に引き寄せる。
「整備班に羞マッハ号のスタンバイを指示して。5分後に羞恥心が出動します」
三人の顔に、晴れやかな笑みが浮かんだ。
任せとけ!と語るその逞しい笑顔を見るたび、崎本は泣きたくなる。
いったいあと、どのくらい彼らを戦地に見送らなければいけないのだろう。
自分は付いて行くことすら出来ない戦いの場に、何度彼らを送り出さなければいけないのだろう。
どうか、この笑顔が最後にならないように。
そんな祈りを隠して、崎本は極めて事務的に指示を出すのだった。
「羞恥心の三人は直ちに第一格納庫に移動してください。今回の細かい情報は現地に付くまでに解析して送ります」
「おし、行くぞ!」
余計なことは言わない。
彼らを信じていればそれで良い。
手も振らず、背を向ける彼らを見送る。
だけど。
「行くな!」
まさに走り出そうとしていた直樹の腕を、向井は捕まえて必死になって引き止めた。
「おさむちゃん・・・」
「駄目だ、ノッキー。行くんじゃない!」
縋るように掴れた腕が痛い。
こんなふうに力ずくで彼が何かを止めようとしたことなど今までなかった。
いや、彼から懇願されたことすら記憶にはない。
「ごめん、オレが行かなくちゃいけないんだ」
「なんで!」
「なんでって聞かれると困るけど。。。
強いて言えば、僕が必要だって言ってくれた仲間のため、かな?」
剛士も雄輔も強い人だ。
そんな彼らが、どんな人物だって選べたはずなのに直樹を選んでくれた。
直樹が一緒だから戦えると、そう言ってくれた。
その想いにだけは、答えたかった。
「それにいつも理ちゃんには助けて貰ってばかりだったけど、やっと僕も理ちゃんを守れるんだって、そう思ったら頑張らないわけにはいかないもの。理ちゃんや大事な人が住んでるこの世界を僕が守れるんだよ?すごくない?」
地球の平和なんて壮大すぎて実感がない。
でも君を守るために戦うのだと思ったら、挫けたりしないから。
「行って、来ます」
そっと向井の手を外して、直樹は先で待っている剛士と雄輔の元に駆けて行った。
大丈夫だよ、この人たちと一緒なら僕は『無敵』の一員になれるんだ。
直樹の自信に溢れた声が、聞こえてきそうな背中だった。
「・・・・」
もう、居ないんだな。
いつでも自分を頼ってきてくれた、あの頃の気弱な野久保直樹は・・・。
「向井さん、僕らも移動しましょう」
いつまでも直樹らが去っていったほうを眺める向井に崎本が声をかけた。
彼の寂しさに似た気持ちも、崎本には分かる気がしたから・・・。
「本当に特例ですよ」
紳助さんにばれたら怒られるかな?
しょーもないやっちゃって笑って許してくれるかな?
ここまで来たら、と覚悟を決めて、崎本は向井を伴って司令室へ向ったのだった。
続く。