お台場戦隊 ヘキサレンジャー【無事帰還。その後】 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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やれやれと頭をかきながら、剛士は西川女史が待ち構える医務室のドアを叩いた。

どうぞ、と例の冷たく冴えた声が返って来て、このまんま逃げちゃおうかなと大人気ない発想が頭を過ぎった。

最近は随分改善されたとは言え、元の知能指数は誇れるモンじゃない。

この知性を売りにしている女性とタイマンで話すなんて、自分には面倒臭そうな気がする。


「失礼します」


入るとやっぱりあの挿すような目で睨まれた。

悪い人じゃないってのは、分かってるんだけどなぁ。


「なんかお話があるそうで?」

「立ったままでもなんだから、そこにかけて下さる?」


こええよぉ。。。。

と、声に出したら大問題なので、剛士は素直に示された椅子に腰掛けた。


「野久保くんのことなんだけど」


行き成りの切り出しに、正直、おや?と思った。

呼び出されることに心当たりがなかったのだが、直樹の話となるとさらに分からなくなる。


「彼、ちょっと怪我が多すぎない?

戦いに出てるんだから怪我して当たり前かもしれないけれど、つるのくんより多いわ。

はっきり言ったら悪いけど、つるのくんより彼の方がよっぽど運動神経も機敏性も良いはずよ。

それがなんでこんなに彼ばっかり怪我が多いのかしら?」

「・・・、何が言いたいんですか、西川先生」


疑問を投げかける姿勢をとっているが、彼女はすでに結論を持っている。

あえて剛士が考えるように、考える間を与えるように疑問形で話しかけているのだ。


「現場で迷うから怪我をするの。

一瞬が事態を左右するのに、その判断を下すのに躊躇しているわ。

このままではいつか、取り返しのつかない惨劇を招くかもしれない」

「だから?」

「彼を一線から引き下がらせなさい。あの子には敵に面と向って戦うなんて無理よ。

いつか貴方たちも巻き込まれる。その前に辞めさせるべきだわ」


はっきりと彼女は言い放った。


「言っておくけど、別に誰が怪我しようが死んでしまおうが、私には関係ないわ。

でもね、あなた達は地球の平和を守る最後の砦なのよ。簡単に死なれたらこっちが困るの。

自分の置かれている状況を理解なさい」


冷たさだけの言葉を繕っているが、それだけが西川の本心ではないと剛士も知っていた。

でなければ、あんなに過剰に直樹に治療を施すわけがない。

組んでからすぐに仲が良くなりすぎたので、それだけで選んだと思われても仕方ないだろう。

だけど、剛士にだって思うところがあって彼を選んだのだ、戦う仲間に。


「せんせい、ウルトラマンって知ってる?」

「はあ?バカにしてるの?」


この流れでは彼女をバカにしていると取られ兼ねない話の持って行き方だが、この例えが一番納得してもらえるだろうと思って切り出した。

文句を言いながらも人の話は聞いてくれる人なので、そのまま話を進める。


「ウルトラマンは地球を侵略しに来た怪獣と戦うのがお仕事でしょ?

でっかい怪獣をやっつけるためには、大立ち回りしなくちゃいけない。

戦っているときに、足元の建物を壊したり自然を踏みつけたりしてしまう。

仕方ないですよね、そうしなくちゃ怪獣なんて倒せないんだから。

でも、人によっては地球の平和を守ってくれたウルトラマンは

大事な物を破壊したただの巨人に過ぎないこともあるわけですよ」


一度言葉を切ると、剛士は西川の冷静な視線を受け止めながら意味深に笑った。

遠回りな比喩に、才女は急かすこともなく付いて来てくれてるようだ。


「社会の正義が、個人の正義とは限らないんです。

そこを見失ったら、大義名分の裏で沢山の人を泣かせてしまう。

オレも雄輔も猪突猛進なタイプだ。

一度走り出したらわき目も降らずに一直線に行ってしまう。

その分直樹には迷っておいて欲しいんです。

俺たちは本当に正しいのか、これがベストの選択なのか。

常に思い煩っていて欲しいんです。ソレが出来る奴だら、仲間に選びました」


恐らく、その任務を知らずに背負った直樹には辛い思いをさせるだろう。

それでも彼が必要だった。


・・・、二度と、過ちを犯さないためにも。


真っ直ぐに向き合う剛士の真剣な眼差しに、西川は諦めたようにため息をついた。

戦うのに迷いが必要なんて初めて聞いた。

だけどこの話をされたら、納得しないわけにはいかない。


「分かったわ。でも無理はさせないで。

危ないと思ったら先にあなたが判断して彼を引かせなさい」


忠告をしながら、剛士はとっくにその覚悟が出来ているのだと知った。

直樹が迷う事を大前提にした時点で、発生するであろう危険を彼は背負うつもりで居るのだ。

それだけの心構えを持っていたのだ。

真っ正面からぶつけられた視線は、雄弁のその覚悟を物語っていた。


「負けたわ。死なない程度に頑張ってね。

息が残っていれば、どんな状態で帰って来ても絶対に助けてあげるから」

「そりゃ頼もしい」


ふざけたような言い草であったが、彼女への信頼が感じられた。

まったくもって、手のかかる連中である。


「正義の味方って、ハタで見てるより面倒なのね。

それにしても・・・」


彼は、今まで何処で何をしていたのだろう?

ふいにそんな基本的な疑問が沸きあがった。

紳助が見つけてきたのは知っている。

彼以上、地球を守るヒーローにうってつけの人物は居ないと豪語していた。

一体彼はどんな経験を積んで来たと言うのだ?


「つるのくん、貴方、何者なの?」


誰も聞いたことがなかった。

いや、聞く必要を感じなかっただけで、誰も彼の過去を知らない。

ココに来て始めた問われた疑問に、剛士はニヤっと笑った。

嘲笑にも似てる。

愚かさを悟った者が自嘲する様に。


「西川先生、それ、愚問だよ」


己の息を呑む音、を初めて西川は耳にした。

良く知っているはずのこの男のことを、実際は何も知らない。

恐怖と興味に紛れて身動きが取れなくなった彼女に、剛士はいつもの調子で人差し指を突きつける。


「地球を守る正義の味方。それ以上でもそれ以下でもないさ」


それじゃ、と剛士は軽く手を振って部屋を出た。

最後の横顔は、いつものお気軽な剛士だった。






その仮面の下に何があるか。

知っているのは、知ることが許されたのは至極限られた存在だけだ。

その中に、雄輔や直樹すら含まれていない。

俯き加減で廊下を闊歩する彼の面に、暗澹とした暗い影が滲む。

苦々しく歪めた表情は、『正義の味方』からほど遠いものだった。



続く。