必然的なのか、崎本の陰謀なのか、何故だか芸能活動が活発な羞恥心であったが、
本来のお仕事は悪と戦う正義の味方である。
今日も番組の生放送中に出動要請が下り、そのまま番組内容が
『無敵艦隊 羞恥心VS悪の一派サバンナ』になってしまったのだった☆
(それはそれで、普通は出来ない番組になったとスポンサーは喜んだが)
それでもどうにか敵を撃退し、無事に基地への生還を果たした三人だった。
「あーおかえりー。番組見てたよ~」
「リアルにテレビ放送されると、本当に特撮映画だね」
「ちゅーかサバンナごときに、手間掛かりすぎじゃね?」
疲れた身体を引き摺ってどーにかこーにか帰ってきたのに、
茶飲み会談しているPaboのこんな出迎えをうけたのでは披露も倍増である。
「おまえら、気楽だなー!」
「いーじゃん、女子は労わりなさいよ。・・・てか、のっくんは?」
「直樹は脚を痛めたみたいだから、西川先生のところに行かせてる。
あいつ放っておくと医局に行かないで我慢しちまうからなぁ」
聞き分けよくて素直かと思うと、妙なところが意地っ張りだったりする。
そのくらい芯の強い部分があったほうが良いのだが、身体の不調を隠されるのは困り者だ。
「ナオタンってさぁ、怪我すること多いよね」
「そーそー、絶対にどっか怪我してくるの~」
「のっくんってもしかして、苛められキャラ?」
「わーかーるー!ヾ(≧∇≦*)。ちょーからかいたくなる!!」
「ユッキー、それ、ホントにしちゃ駄目だよ(-"-;)」
「でも~、可愛さ余って憎さ百倍?って言うじゃん。苛められるのも愛情表現だよね」
お嬢さん方、敵に攻撃されることの何処が愛情表現なんですかヾ(=_=;)オイオイ
若い子のお喋りには付いていけないな~と、こんなときに年齢の差を感じる剛士であった。
「すみません、遅くなりました」
お嬢さん方のお喋りが白熱する中、件の直樹がようやく戻って来た。
右の足首に包帯がしっかりと巻かれている。
やっぱり挫いたか傷めたかしてたのか。
「ナオタン、もっと強い子にならないといつまでも苛められっ子のままだよ?」
「はいぃ?ユキちゃん、何の話???」
「のくぼっちもぉ、もっとたけパパやゆーすけみたくぼーじゃくぶじんにしてないと、
敵に目を付けられちゃうってことだよぉ」
「スザンヌの言うとおりだわ。あの二人見たくずーずーしくしてたら苛められないわね」
「もっと逞しくなって、苛められっ子を卒業するんだよ、ナオタン!
・・・、ユキ的には、からかいたくなるキャラのほうが好きだけど☆」
「図々しいのくぼっちって、なんか変だモンねー」
「えーと、それって何の話なの?僕、いままでイジメに合ったことは無いんだけど・・・」
「実体験の話じゃなくて、のっくんの性格の問題かなー」
本当に話が見えないんですけどぉ(o^冖^o;)
どう聞いても的を得た答えを貰えなくて、硬直した笑顔のまま絶句するしかない直樹だった。
この状況に真っ先に痺れを切らしたのは、堂々巡りの話と女子の甲高い声に懲りた雄輔であった。
「あーもー!お前らうーるーさい!!
ノックは怪我してんだから、ギャーギャー騒ぐなよ」
「なによー。私たちはのっくんのことを心配してんのよ」
心配してんだか面白がっているんだか。
余計はツッコミはやぶ蛇なので、剛士は賢明に黙っていることを選択した。
「はいはい、Paboさんたちのお喋りもそこまでにしてください。
スタジオに移動する時間ですよ」
話が壮大にややこしくなりそうだったのを見越して、崎本が助け船を出してあげた。
このまま放っておいたら、今度は雄輔とPaboのトークバトルになってしまう。
「あっ、もうそんな時間??」
「やっばーい、急がなきゃ!」
テーブルの上に広げていた小物をかき集め各々のポーチにしまい込むと、
三人は慌ただしく席を立って続いて部屋を出て行った。
最後、まいが振り返って雄輔に『べー!』と舌を出していったが。
「なんだよー、あいつら」
「まあ彼女達なりに、直樹を心配してるんだろ?」
話しの流れが全くつかめない直樹は、困ったように眉を顰めてる。
「何があったんですか?」
「直樹がね、怪我をよくするのは苛めたくなるキャラだからだって、あの子達の持論らしいよ」
だから苛められっ子とか逞しくなれとか言われたのか、とやっと納得がいった直樹だった。
と、そう言えば。
「たけにぃ、西川先生が呼んでましたよ。話しがあるって」
「オレぇ?なんかしたっけなぁ?」
「さあ?ユキちゃんたちにいろいろ言われて、危うく忘れるところでした」
「遅くなってもまた嫌味を言われそうだもんな。とっとと行ってくるわ」
今日はゆっくり休んでおけよ、と直樹に一言残して、剛士も部屋を出て行った。
途端に部屋の中が静かになる。
さっきまでの大騒ぎがうそのようだ。
「ノック、お茶、飲む?」
「あ、いいよ、自分でするから」
「いーの。足怪我してるんだから、大人しく座ってなさい♪」
それじゃ、と席に着いて待っていると、雄輔が危なっかしい手つきで緑茶を淹れてくれた。
紅茶や珈琲もいいけど、緑茶のほっこりとした香りは心から癒される。
やっぱり日本人だな~と、こんなときに思うのだった。
「足、痛い?」
隣に座る雄輔が、心配げに顔を覗き込む。
ちっちゃい子供みたいな、稚い表情が悲しそうに歪んでる。
「大丈夫だよ、ちょっと捻っただけだから」
これ以上心配しないで、って微笑むと、雄輔はもっと泣きそうな顔になってしまった。
「雄ちゃん?」
「ごめん。オレ、ノックのこと守るって約束したのに、全然守れてない。
いっつも怪我させて、痛い思いさせてる。あんなに約束したのに・・・」
驚いて、直樹は目をパチクリさせてしまった。
雄輔が悲しそうにしていた理由が、直樹を守りきれないで怪我させたから、だなんて、思ってもしていなかったのだ。
優しくて、少しだけ心配性な雄輔。
項垂れた彼の姿が可愛くて、直樹の頬が思わず緩む。
「そんなコトで落ち込まないで。僕は雄ちゃんが守ってくれるって約束してくれたから、怪我しても怖がらないで戦えるんだよ?きっと最後は雄ちゃんが僕を守ってくれる、そう信じてるから、危ないときも怪我しても、全然怖くないの。雄ちゃんが居てくれるから、僕は逃げないで戦えるんだ。このくらいの怪我、なんでもないよ」
「・・・ノック」
ニコって微笑むと、雄輔の顔が蕩けるみたいに明るくなった。
信じてる、だから戦える。
その気持ちがちゃんと伝わったと思うと、直樹も嬉しくなる。
「分かった、危なくなったら何時でもオレを頼って。絶対にノックのこと、守るから。
で、も。やっぱちょっとでもノックが痛い目に合うのは嫌だな」
「うん、僕も気をつける。雄ちゃんにこれ以上心配かけないように強くなるね」
額を寄せ合って、にっこり目尻に笑い皺を刻みながら向き合う二人。
命をかけて戦うなんて、気負わないほうが良い。
これくらい自然にしていなければ、神経が持たない。
だから戦いの場でも甘えて甘えられて、それくらいで丁度良い。
いつ終るか分からない戦いが、彼らを待ち構えているのだから。
・・・・・・・。
そう、辛いばかりの戦いよりも、こうして友情を確かめ合って過ごすほうが良いだろう。
過酷な試練に打ちのめされるよりも、イチャコラしててくれたほうがずっとマシだ。
だ、け、ど!
完全に僕の存在を忘れてるよな~(-"-;)
肩寄せあっていちゃつく二人に、取り残された崎本は深いため息を漏らすのであった。
頑張れサッキー、負けるなサッキー。
君も(一応)ヘキサレンジャーの一員だ!
とりあえず、そのバカップルに一言突っ込んでおこう!