第一話『起』
引き摺るほどの長いマントを翻し立ち構える直樹の周囲に
不吉な黒い装束を纏った幾人もの『敵』が次々と出現する。
完全に取り囲まれた彼は、腰に装備してある電子ブレードを手にした。
起動してない状態ではグリップのみの姿をしているが、戦闘時にはレーザータイプの剣身を発動させてサーベルの形に完成させる。
某有名映画の『ライセイバー』を想像してもらえれば近いだろう。
ちなみにこのグリップに付属パーツを取り付けてレーザービーム銃としての使用も可能だ。
じわじわと距離を縮める敵を前に、直樹は青い光を放つブレードを起動させた。
顔の前に構える剣の光が、直樹を青白く照らす。
『右前方45度、動きます!』
崎本の指令が、メットに内蔵されたマイクから直接耳元に響く。
彼の言葉に従って直樹は右前方に踏み込み、目の前の敵を一刀した。
ざっと消えてなくなる敵の姿。
『そのまま左を倒して、直後に右ターン。後方の敵に対処してください』
ひとつ敵を倒したからと安心は出来ない。
次々と襲い掛かる敵に、崎本の指示通りに動いても追いつけない。
それどころか続けざまの指示に頭と動きが一致せずに混乱する。
『ちがう!そっちに避けたら敵が!!』
崎本の助言も間に合わなかった。
振りかぶった敵の大きな鋼の刃が、容赦なく直樹に襲い掛かる。
咄嗟に攻撃をかけることも身を交わすことも出来ず、思わず直樹は
硬直したままで目を閉じてしまった。
周囲が一瞬にして真っ暗になる。
そして。
『はい、直ちゃんゲームオーバー』
コンクリで囲まれた部屋に、剛士の声が響いた。
白熱灯の光にさらされた部屋で、直樹が罰が悪そうに指令ルームを見上げる。
指示を出していた崎本が呆れたように頭を抱えていた。
地下に作られたシュミレータールーム。
ここで実戦経験の無い直樹や雄輔は、近く始まる戦いに向けての特訓を受けていた。
「野久保さん、これで何回死んだと思ってるんですか」
「ごめんごめん、崎本くんの指示通りに動こうとは頑張ってるんだけどね」
「いずれはご自分の判断だけで戦ってもらわなくちゃいけないのに、
自分から敵に突っ込んでどうするんですか?」
崎本のお小言は、年下のわりにきつい ・イジイジ( ´・ω・`)σ"
(命と世界平和が掛かっているんだからそれも当然なのだが)
「仕方ないな、お兄ちゃんがお手本を見せてあげよう。
雄輔、お前が好きなように演習プログラム組んでいいから、
オレが下に下りるまでにセットしておいて」
オレ?と雄輔は驚いたようにしていたが、こんな大掛かりな『おもちゃ』を弄くれる
機会はあまりないので、崎本に使い方を教わりながら好きにプログラムしていった。
剛士が困っちゃうようなのがいいな~、なんて、遊び心を含ませながら。
「おーい、準備はいいかぁ?」
実演場に着いた剛士に向って、雄輔は特大の笑顔で『○』と示した。
全く、何が楽しいのだかと、崎本が指令用のインカムをつけてブースに入る。
「はじめるよ♪」
雄輔の言葉と共に、先程の直樹のときと同じように複数の敵が出現にした。
新たにプログラムを組み合わせているので、どんな動きでくるのかは剛士も崎本も知らない。
実践に近い状況での二人の対応を見れるわけだ。
『動きます、まずは目の前から左、右で攻撃。左に一身避けてからさらに前進左です』
崎本の早き指令にも遅れず、いや、指令が下るのとほぼ同時に剛士が動く。
軽やかに的確に相手の攻撃を交わし撃退していく様は、まるで剣舞でも見ているようだ。
『右ターンで一歩退いてから左30度、正面、右60度。さらにターン、隙間を抜けてください』
『そのまま敵が来るのを順に。左90度注意して。後ろはノーガードで大丈夫です』
『一歩寄ってから屈んで、下から切り上げて前進、右に固まっています』
剛士の動きもさることながら、崎本の完璧な指令に直樹も雄輔も感服して言葉が出ない。
彼の判断が完璧だからこそ、剛士も疑いもせずに指示されたとおりに動けるのだ。
『ラスト、大物です。先に脚を打って動きを封じて、避けた右から入ってください』
剛士の動きは、ほとんど崎本の声に添って行われている。
まるでそれは音声コントロールされるゲームのキャラクターのように忠実で、
正確さと迅速さ、そして二人の間の絆を見せ付けているようだった。
最後の敵を横っ腹から切り倒しすと、部屋のライトがオールアップされた。
打ちっぱなしのコンクリの壁に照明が反射して眩しいくらいだ。
「つーのさん、すっげー!」
パタパタと子犬のように、人懐こい笑顔で雄輔が剛士に近づく。
もちろん隣には感服しきりといった表情の直樹も居る。
ちょっと苦笑いした剛士の目の前に、当たり前のように二人が並んだ。
上から眺める崎本の視線は冷めている。
侮蔑、と言っても良いくらいに冷ややかだった。
そんな彼の視線の意味を知ってか知らずか、剛士は煌々と光を放つブレードを握る手に力を篭める。
わずかに、雄輔が首を傾げた瞬間だった。
大きく振りかぶられた剛士の電子ブレードが、無防備な二人を一刀両断したのは。
続く。