以下の文面はフィクションです。
実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の一致です。
ですので、どっかに通報したりチクったりしないでください★
・・・、頼むよ、マジで (ToT)
それと追加注意。
今回は直ちゃんとユッキーナのお話です。
惚れた晴れたの話ではありませんが、二人が随分と親密にしてる内容です。
そうゆうのが駄目な人、見たくない人はこっから先には行かないでください。
ちゃんと注意したので、あとは自己責任でお願いします。
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付き合い始めたばかりの彼氏がやたら野久保直樹贔屓なので理由を聞いてみたら、
「だってお前、野久保のこと好きやろ?」
と、突拍子もない答えが返ってきた。
「はぁ?なに言っちゃってくれてんの?」
呆れる意外に反応のしようがない。
本気で野久保直樹のことが好きだったら、この彼氏と付き合うわけがないじゃないか。
「ちゃうって。そうゆうヤラしい意味とか違うて、気を許してるっちゅうか、本当のアニキみたいに慕っとるやん。あっちもお前のコトを、変な含みなしに可愛がってくれとるし、あいつとおると、お前楽しそうなんやもん」
「・・・、普通、そう思ったら嫉妬するところじゃね?」
「やーかーら!そんな空気を出さんから、尚更あいつのコトがエエ奴に見えるんやんか!」
面白い見解だなぁと感心しながら、有る事無い事無駄に勘繰られるよりはマシだと、見た目よりもずっと『乙女』な彼氏の、大人な対応を有難く思った。
確かに、直樹と居ると自然と安らぐ。
気持ちが落ち着くというか、気張らなくて良い感じがする。
異性の前だといつもいらない強がりをしてしまうのだが、直樹には素直に甘えたり飾らずに話したり出来るのだ。
女性に優しいけど下心が無くて、正義感が強く運動神経も良い。だけどどっか抜けている直樹は、女の子が憧れる理想のお兄ちゃん像に近いのかもしれない。
あれで頼りがいがあれば完璧なんだろうけどね。
自分よりずっと年上ではあるけれど、他の二人と合わせると『末っ子』のイメージが強い直樹なので、そんなに年齢の壁を感じない。だから余計に気安いのだろうけど。
直樹とはいつまでもこんな関係で居られると、例えば、お互いに恋人が出来たり結婚したりしても、ちょっと許される間柄でいられると、そんな風に思っていた。
友達じゃなくて恋人じゃなくて、仲間よりももう少し踏み込んだ、だけど不用意に気持ちを押し付けたりしない、そんな二人で居られるんじゃないかって、本気で思っていた。
あの日まで。
「ナオタン」
分刻みで追われるタイムスケジュールと、スタジオ内を右往左往する人ごみの間を縫って、やっと青いTシャツの背中に追いつけたのは、彼らが急遽東京に戻ってきてから随分と時間が経ってからだった。
居るはずのない人気者が戻ってきたことによる出演者と番組進行の調整で、現場の慌しさはさらに増している。
こうなったら出来るだけ彼らをテレビ画面に出して視聴率を稼ぎたいのが製作側のホンネだろう。
「残念だったね、福岡」
「ああ、でも仕方ないよ。本当に行けるかどうかも分からなかったし、向こうでは被害に合われてる人も居るからね。ライブとかって言ってる場合じゃないでしょ」
いつもと変わらない穏やかな笑顔が、今日ばかりは優樹菜の胸をぎゅっと締め付けた。
きっと彼が一番行きたかったはずだ。
自分を応援してくれるファンに直接会って、最後のお別れをしたかったはずだ。
それなのに、どうしてって思ってしまう。
「なんだか」
えっ?と優樹菜は驚いて顔をあげた。
彼から話を始めることが珍しかったのだと、今になって気がついた。
いつだって直樹は、優樹菜が話し出すのを穏やかに微笑んで待っていてくれてたのだ。
「ユキちゃんと落ち着いて話すの、久し振りだね」
今だって全然落ち着けるような状況ではないのだが、こんなふうに向き合って二人きりで話をしたことが最近はめっきり減っていた事を思い出した。お互い、世間を騒がすことをしでかしてたので、外への対応に追われてそれどころではなかったのだ。
「自分のことでドタバタしてる間に、すっごく大人っぽくなっちゃって驚いた。始めた会ったときはヤンチャなお転婆娘って感じだったのに、女の子は変わるのが早いなぁ」
くしゃって、直樹が嬉しそうな笑顔になる。
本当はそんな顔をする心の余裕なんて欠片も無いはずなのに。
「オレさ、宮古島合宿のとき一人で先に帰っちゃったじゃない?本当はあの後の告白タイムでカップル成立三連覇狙ってたんだよね」
「ナオタンは女の子からの好感度が高いから、居たら誰とでもデートできたよ。勿体なかったね」
「そう?じゃ・・・」
すっ、と直樹が手を差し出した。
一日で陽に焼けた、逞しい男の手の平。
ああ、直樹も一丁前に男だったんだな、と違和感とも言いがたい感傷が胸を過ぎる。
「絶対にココに、みんなのところに帰ってきます。だからそのときはデートしてください。お願いします」
こんなところで深々と頭を下げる直樹を、堂々とデートの申し込みをする直樹を、周りの誰もが見えてないようにまるっきり無視して自分の仕事に走り回った。
それは、優樹菜に向けたデートの申し込みの形をしていたが、ここに居るみんなに、ファミリーと呼ばれた仲間たちへの誓いもこめた言葉だったからだ。
絶対にココに帰ってくる。
だからみんな待っていて。
公に言えない言葉だから、優樹菜にそれを受け取ってもらったのだ。
大切な、妹に。
目頭が熱くなるのを必死に堪えて、優樹菜は力一杯直樹の手を握り返した。
もっと沢山の話を、聞いて欲しかった。
もっといっぱい、甘えたかった。
もっともっとナオタンのこと、知りたかった・・・。
「おっっしゃ!約束だかんな、ぜってー元気に帰って来いよ。そんかわし、つまんないデートにしたら怒っからな」
こんなふうに直樹の前で強がるのは何時以来だろう?
だけど出会った頃の自分に戻らなくては、怖いもの知らずの跳ねっ返りの自分を演じなくては、真正面から直樹の顔なんて見れなかったのだ。
もうすぐ失わなければいけない大切な人の顔を。
「うん、帰って来る。だからユキちゃんも、オレが帰って来るまで今のまんま幸せでいてね」
不意打ちのような言葉に、優樹菜は何と返して良いのか分からずに固まってしまった。
呆然とした心持で眺めて直樹の顔が、強烈に意識の中にインプットされる。
優樹菜が甘えるのを、いつでも嬉しそうに受け止めてくれた。
暖かくって、ちょっとだけお兄さんぶった笑顔。
いつも末っ子だからね。甘えられると嬉しいんだ。
そんなことを言っていたときもあったけど。
「ノック!次に行くってさ!」
離れたところから飛び込んでくる遠慮ない声に反応して、直樹の顔に一変してあどけない笑みが浮かんだ。
「今行くよー」
返した声には、優樹菜たちに向けるときと違った張りがあって、それがなんだか妬ましく感じる。
しっかり繋いでいたはずの手を、そっと離されてしまったのも原因の一つかもしれない。
「約束、守るから守ってね」
小さく優樹菜にそう呟くと、彼は並んで黄色と赤のTシャツを着込んでいる人たちの元に帰って行ってしまった。
隣に立つと、いきなり雄輔に頭をもみくちゃにされて、なのに直樹は幸せそうに笑っていた。
そうか、と優樹菜は悟った。
あの人たちとは約束なんていらないんだ。
ずっと、彼らを取り巻く環境とか条件とかがどんなに変わっても、決して離れない絆を持っているんだ。
「約束したからには、絶対に帰って来いよ。早くしないと、お嫁に行っちゃうからな」
小さな彼女の呟きは、周囲を取り囲む喧騒に紛れて消されてしまった。
でも、と思う。
この約束は、絶対に守ってもらうから。
絶対にココに帰って来てもらって、デートの連れてってもらうんだ。
だって。
「もう二度とイケメンとデートなんて出来無そうだもんなぁ」
小さく呟いて、チラッとスタジオの隅に視線を向ける。
そこにはイケメンとは程遠いけど、優樹菜を誰よりも理解してくれて必要としてくれる人が、泣き出しそうなのを必死で隠してそっぽを向いていた。
こんなときでも嫉妬しないでもらい泣きしちゃうんだ。
ふふん、と思わず微笑みながら、優樹菜は自分の目に狂いは無かったと確信したのであった。