以下の文面はフィクションです。
実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の一致です。
ですので、どっかに通報したりチクったりしないでください★
・・・、頼むよ、マジで (ToT)
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朝、目が覚めると外ではセミの大合唱がすでに始まっていた。
注意して聞いてみれば何種類かの鳴き声が混ざっているのだと分かるが、さすがに固体判別までするのは無理である。
きっと剛にぃなら全部分かるんだろうな。
とは言え、不用意にそんな質問をしてしまったら、物まね付きの講習会が始まってしまうのは目に見えていたので、セミはセミのままで終らせておこう、と直樹は決め込んでいた。
他人の家の時計というのは、どうにも時間が読み取りづらい。
万国共通のアナログ式だというのに、長針が中途半端な場所を指していると何時代なのか自信が持てなくて、何度も時計の短針の位置を確認してしまった。
8時20分。
もうこれで間違いなさそうだ。
心地良さそうに惰眠をむさぼるココの家主を起こすのに丁度良い時間だろう。
「雄ちゃん、そろそろ起きないと朝ごはんの時間がなくなるよ」
軽くむき出しの肩を揺すると、彼はイヤイヤと首を振って抱きかかえていた肌掛けに顔を埋めてしまった。
本当なら、許される時間の全てを睡眠や休息に使わせてあげたかった。
直樹は軽いジレンマを感じながら、再度雄輔の身体を揺すって彼を目覚めさせようと努力する。
「ほ~ら、雄ちゃん昨日お風呂に入らないで寝ちゃったでしょ?ちゃんと出掛ける前にシャワーくらい浴びなきゃ駄目だよ。もう若くないんだから」
「・・・・、ひっでー。オレ、つーのさんじゃねーもん」
「大人なんだから身なりは綺麗にしなさいって言ってるの。剛にぃのほうがよっぽど気を使ってるよ」
それは身の回りの世話を焼いてくれる奥さんがいるかどうか、にも大きく影響されるのだが。
いい加減埒が明かないと判断した直樹は、雄輔からタオル地の肌がけを取り上げ、無理矢理に身体を起こして目を覚ますように促した。
「起きるよ、おきますっ」
直樹の強引さに折れたのか、雄輔も半ば焼け気味にそう叫んで起き上がった。
パサパサの髪にあっちこっち寝癖が付いて飛んでおり、頬にはシーツの跡が残っている。
まるで夏休み中の中学生みたいだ。
「朝ごはんの代わりにおじや作っておいたから、それくらいなら食べれるでしょ?」
熱すぎても食べ辛いだろうと思い、すでに器に盛ってテーブルに並べてある。
ペットボトルから出しただけの麦茶には氷は入れない。
寝起きに冷えすぎていると、身体に良くないからだ。
「え?ノックが作ってくれたの?」
「あるもので作ったから、大したのは作れなかったけど」
雄輔の、というか、こういった仕事をしている人間はいつ食事が出来るか分からないのが当たり前だ。
夏の疲れも出てくる時期なので、可能な限りは仕事に出る前に食事をして欲しい。
たぶん朝食なんて摂る習慣のないであろう雄輔の胃袋を気遣って、ニラタマのおじやにした。
これなら最低限の栄養は取れるし、身体にも優しいはずだ。
「好みでオカカを乗ってけて。味が薄かったらお醤油足してね」
「うわぁ、めさくさ嬉しいんだけど!ね、これさ、キムチ入れても美味しいかな?」
「たぶん、そんなおかしいことにはならないでしょ」
「じゃ、納豆は?」
「・・・・・(-"-;)(そっか、こうやってあのカレーは出来たのか)。両方入れるのは止めたほうが良いんじゃない?朝なら納豆のほうが身体に良い思うよ」
直樹の忠告を素直に聞き入れた雄輔は、冷蔵庫からパックに入った納豆を持ち出し、嬉しそうにおじやに加えた。
「ノクも納豆入れる?」
「僕はこのままで良いから」
準備が整うと雄輔はパン!と手を打ち鳴らして『頂きます!』と元気に唱えて粘るおじやを口に運んだ。
本当に幸せそうに食事をする人だなぁと、思わず自分の箸の動きを止めて彼の気持ちよい食べっぷりに見惚れてしまう。
昨晩何人かで一緒に食事をした後、車で来ていた直樹が雄輔を自宅のマンションまで送ったのだが、浮かれて酔っ払った雄輔にしつこく『泊まっていけ!』と言われ、結局そのまま一泊することとなり、現在に至ってる。
あのときはしきりに『二人きりで語ろう!』なんて言っていたのに、部屋に上がってものの十数分で彼は睡魔に襲われてベッドの上でダウンしてしまったのだった。
『眠いんでしょ?僕は帰るからゆっくり休んでね』
そう伝えると、彼は夢の世界に片足突っ込みながらも『駄目!』と袖を掴んで離してくれなかった。
甘えられてるのか心配されてるのか分からない。
分かっているのは、どっちにしろ彼の優しさだということだけだ。
朝食の終えた雄輔を、直樹は有無言わさずに浴室に突っ込んだ。
いくらなんでも芸能人が飲んだまま風呂にも入らず現場に行くのはどうかと思う。
その間に直樹は使った食器を手早く片付ける。
溜まった洗濯物、非常食と飲み物しか入ってない冷蔵庫、荒れ放題の部屋。
A型で世話好きの直樹としては片っ端から片付けたくて仕方なかったが、そこらに散乱する物を寄せ、脱ぎ散らかした衣類を畳むくらいに留めておいた。
雄輔の身の回りの世話をしてしかるべき女性、が万一いたとして、直樹が余計な手出しをしたら後々面倒なことになるかも知れないと思ったからだ。
ただしこれは直樹の杞憂だと断言できよう。
そんな女性が存在するなら、もっと彼の室内は綺麗な状態で保たれてるはずである。
そこらへんの推察力の足らなさが、また直樹らしいところでもあった。
時計を見る。
もうじき雄輔のマネージャーが迎えに来る時間だ。
直樹は帰り支度をすませ、忘れ物がないか軽く身の回りを確認し始めた。
「え?もう行っちゃうの?」
頭から雫をポタポタ垂らしたまま、慌てて浴室から出てきた雄輔が寂しそうに声をあげる。
まるで直樹が帰ろうとしたのを察したみたいなタイミングだ。
この人の無意識の勘の鋭さは、たまに嫌になる。
「うん、車をコインパーキングに停めてるし、剛にぃみたいなことになる前に取りに行きたいんだ」
「そっか・・。ごめんな、無理に引きとめて」
「ううん、一緒に居れただけで楽しかったよ。久し振りに雄ちゃんの寝顔も見れたし」
努めて無邪気に笑って見せると、雄輔はあのお日様みたいな笑顔をくれた。
いつでも雄輔のこの笑顔を見るだけで、もっと頑張れるような気持ちになった。
雄輔のこの笑顔が見たくて、無理なことでも踏ん張って乗り越えてきたのだと思う。
みんなが、一瞬にして虜になってしまう雑じりっ気なしの笑顔。
涙が出そうな、眩しい笑顔だった。
雄輔のマンションから程近いコインパーキングは平日の朝ということもあって他に人気はなかった。
その一角に大きな樫の木が植えられている。
深い緑の影を落とす足元に、無数のセミの死骸が転がっていることに直樹は気がついた。
中には出入りする車に轢かれたのか、アスファルトの上に真っ平に引き伸ばされたむごたらしい姿に変化してしまったモノまである。
今もけたたましく鳴き続けるセミたちも、夏が終わればこうして短い生涯を閉じる運命なのだ。
ああそういえば。
去年の今頃だったと思う。
雄輔が3つ並んだセミの抜け殻を見つけて『羞恥心!』と喜び勇んでメールを送ってきたのは。
セミマニアの剛士なんて、そのまま自分のブログに貼り付けて公開してしまったくらい、それは希望に満ちた明るい画像だった。
でもあのセミたちも、夏が終わればこうして儚く散っていってしまったはずだ。
熱い季節の最中で、声の限り叫び太陽を目指して大空を駆け巡り、そして、力尽きて死んでいったのだ。
その姿はどこか自分の現状に重なって思えて、直樹は深くため息をついた。
諦めたわけじゃない。だけど・・・。
アスファルトの上に朽ちた亡骸が土にも還れないのはあまりに可哀想だったので、直樹は無傷なセミの躯を拾って樫の木の根元においてやろうと手を伸ばした。
ひっくり返って投げ出された脚に直樹の指が僅かに触れた、その瞬間。
「・・・・・・!」
死んだとばかり思っていたセミが、羽を多きくはためかせ空に舞い上がって行ったのだった。
驚いて声も出せない直樹の前で、それは幹にしがみ付くと再び大声をあげてがなり始めた。
まだここで生を持って存在していると、己を主張するかのように・・・。
「もっと徹底的に足掻け、ってことなのかな?」
空を見上げると、そこにはまだ夏の名残を色濃く残した太陽が輝いていた。
まだ終ってない、終らすわけにはいかない。
強くその思いを募らせながら、直樹は車に乗り込んで走り出した。
今日もまだ、暑い一日になりそうだ。
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いつもの『ヘキサレンジャー』と雰囲気を一新してお送りいたしましたが・・・。
み、みなさん、付いて来てますか~(^o^;)
完全に私の妄想の産物ですので、彼らのイメージを壊してしまった内容だったらごめんなさい☆
実は通勤途中に車に轢かれたセミの死骸をいくつも見てしまって、周りではまだ他のセミが元気に鳴いてるのに切ないな~と思ったのが話の発端でした。
エンディングは、『アブラゼミ♂ 東京バージョン (fromエアバンドfeat.雄&直)』でお願いします。