お台場戦隊 ヘキサレンジャー 【episode ZERO】 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

第一話 『出会い、一歩前』






 貸切東京ドームのマウンドいっぱいに集まられた運動自慢の男達の中で、野久保直樹は本当に自分がここに居て良いのかどうか未だに迷っていた。


 掲げられて垂れ幕には『第一回 正義の味方選抜大会』なんてふざけた文字が躍っている。


 テレビの特撮ヒーローの出演俳優の面接会ではない。


 本物の『悪』と戦う正義の味方をここで選ぼうというのだ。


 呼び出されているのは、まだ芽が出ていないが各方面で運動自慢の若者ばかりで、直樹が知っている顔もちらほら見れる。自身も高校時代は野球でその名を知らしめた実績を持つが、こんな大掛かりな大会に呼ばれるほどの選手でもなかったはずだ。


 第一、運動の世界からはとっくに足を洗っているのに・・・。


 周囲はこれから何が起こるのかと盛り上がっているようだが、人見知りのある直樹は気軽に周りの人間に声もかけれず、独りで小さくなっていた。


 そもそもこの選抜大会から招待状が来た時点で自分は辞退するつもりだったのだ。


 それが友人の高橋光臣も出る、というので、ならば一緒 にと参加を決めたのだが、直前になって高橋の都合が悪くなりたった一人きりでの参加になってしまった。

『わりぃ、直樹。本家のほうのオーディションに受かっちまったんだ』

 そういって高橋は一足先に正義のヒーローになってしまった。

 お子様向けテレビ番組の。

『はい、お集まりのみなさん、お待たせいたしました。これより『第一回正義の味方選抜大会』を実施いたしま~す』

 直樹がこっそりと帰ってしまおうかと思っているときに、明るいアナウンスが会場内に響いた。

 まるで人気局アナのように爽やかな女性が、中央の台の上でマイクを握っているのが見える。

『え~と、それでは人数が多いので簡単に振り分けたいと思います。こちらに金のプレートと銀のプレートが用意してありますから、お好きなほうのブロックに集まってください』

 その指示に従って、マウンドに散らばっていた男衆が、一斉に二つのブロックに向かって動き出す。

 それぞれ適当に分かれているようなので、直樹も手近な銀のブロックに入ろうとした、そのとき。

「やっぱりお日様の金色だろ♪」

 騒がしい群集をかき分けて、誰かの言葉が鮮明に直樹の耳に入ってきた。

 慌てて後ろを振り返ってみたが、右往左往する人に紛れてしまって、もう誰が呟いたのかはわからない。だけど、なんだかその言葉が気になって、直樹は金のブロックに行くことにした。

『は~い、それではみなさん、ブロックの中に入りました?』

 まるで子供にでも説明するみたいな話し方の、にこやかな女性の次の所作に注目が集まる。

『それでは覚悟を決めてくださいね。・・・・はい!』

 彼女が勢い良く右手を上げた瞬間、銀のブロックに集まっていた人が纏めて消えた。

 正確には足元の地面が開いて2メートルばかり下に埋め込まれたプールに落とされただけのことなのだが、咄嗟に事態が理解できなかった直樹を始めとした一同は、血の気が引く思いだった。

「な、なんだこりゃ!!」

「突然何すんだよっ」

 飛び交う怒号や非難の声など物ともせず、彼女は鉄板の笑顔を浮かべたままで趣旨説明をし始めた。

『これは本気で命をかけて平和を守る正義の味方を探すオーディションです。ヒーローになるには、知力体力ももちろんのこと、時の運を持っていなくては戦いに勝ち残れません。よって、みなさんにはこれから意味の無い2択に挑戦して頂き、運のない方はプールに落ちてもらいます。もちろん、プールに落ちた方は失格になりますので、予めご了承下さい』

「ちょっ、ちょっと待てよ!」

『はい、じゃあ第二問です。パンとご飯、どっちにしますか?早く選ばないと問答無用でプールに叩き落しますよ~』

 参加者の文句なんて気にもせず、強引に進行していく司会者であった・・・。




「満点の笑顔でやることがえげつないなぁ、中村さん」

 グランドで繰り広げられる阿鼻叫喚図を、ロイヤルシート席から眺めてたつるの剛士が同情げ呟いた。

 客観的には高みの見物の立場であるが、一つ間違えたら自分もあの中に居たのかと思うと、笑うに笑えない。

「な~に他人事みたいに言うてんのや。お前の仲間を探すテストをしとんのやぞ?」

 ソフトリーゼントに背広姿という、怪しい不動産屋のようないでたちの男が剛士にぼやく。

 何を隠そう、この男こそが『正義の味方集団を組織しようと企てた島田紳助に他ならないのだ。

「でもさ紳助さん、オレなんかが正義の味方でほんっとうに良いの?」

 元を辿れば剛士が正義の味方として選ばれたのだが、彼一人で戦わせるには(体力的に)心許ないというので、今回の選抜大会が開催される運びとなったのだ。

 剛士としては自分が何の試験もせずに正義の味方に選ばれたことが不思議でならない。

「お前以上に正義の味方が似合う奴はおらんやろ」

「そうかなぁ?」

「じゃあ聞くで。赤信号・・・」

「青になるまで待ちましょう」

「落し物は?」

「交番に」

「オレの物は?」

「みんなの物」

「結婚してたら、浮気は」

「しちゃ駄目でしょっ! 」

「ほれみぃ、正義の味方の模範解答そのものやんか」

「最後はちょっと違うと思います(-"-;)」

 相変わらずの紳助の強引さに脱力しながら、この人のやんちゃに付き合わされることになったヒーロー候補生達を改めて見下ろした。

「オレの後輩も何人か居るんですから、あまり手荒なことはしないでくださいよ」

 随分と数の減った若者たちは、中村から出題される一問一問に振り回されるように右へ左へと彷徨っている。

 後輩の太陽や隼人は残っているかな、とその中に眼をこらしていると、一人の男の姿が剛士の目に止まった。

「・・・サッキー、ゼッケン2を付けてる奴のプロフィール、見せて」

 手を差し出すと、オペレーター兼情報処理係(兼マスコットボーイ)の崎本大海が、すぐに指名した男の履歴を渡してくれた。

 はっきりした眉に、黒目がちな瞳が印象的な美少年。

 一見するとたおやかそうだが、気が強い一面も隠しているだろうと剛士は読んでいた。

「お知り合いですか?」

「そんなんじゃないけど、気になってね」

 含みのある笑みを浮かべた崎本から資料を受け取り、頭からざっと目を通す。

 上地雄輔?沖縄、じゃなくて神奈川の出身か。なんだ、随分と年はいってんだなぁ。元野球少年で、今は自由人、ね。

 手元の資料と照らし合わせながら、群集に塗れる雄輔の姿を追いかける。

 彼を探す手間は殆ど掛からなかった。

 何故なら剛士の目には、上地雄輔の周りにキラキラと瞬く光を感じることが出来たのだった。

 他のヒーロー候補生の中にも、同じような光を持ち合わせている者も何人か居る。

 だが、彼ほど強烈にそして鮮やかに光を纏っている人物は他には、いや、未だ嘗て出会ったことが無かった。

 加えて。

 あいつ、誰かと話しているときのほうがキラキラが増すな。

 落ち着きなくうろうろとする雄輔は、誰彼構わず近くにいる人間に話しかけているようなのだが、そうやって人と接しているときに限って、彼から発する光の輝きが強くなるのだ。 

 おっもしれぇ奴もいるもんだ。

 不適な笑みを浮かべてグランドを見詰める剛士の姿を、崎本は、また悪巧みでもしているな、とため息混じりに眺めていた。



 心臓に悪すぎる!

 直樹は顔面蒼白になってその場に座り込んだ。

 高いところも水に落ちるのも怖くない。

 ただ、いつ落とされるか分からない、という緊張感がとてつもなく心身に良くないのだ。

「おい、大丈夫かよ?」

「あ、平気です。ちゅっとへこたれてただけですから」

 こんなことで心配されるなんて恥ずかしいなぁと、親切に手を差し出してくれた人の顔を見上げた。

 目尻にぎゅっと笑い皺を溜めて、明るく健やかに笑っている。

 とても幸せそうに見えたその笑顔に、どこかで会ったような気がして、直樹は過去の記憶を手繰ろうと、お粗末な脳内回路を必死に働かそうと試みた。

「・・・野久保?」

 先にその人に自分の名前を言い当てられて、直樹は目を丸くして驚いた。

 彼が誰なのか、まだ答えは出て来ない。

 ただ一つだけ分かったのは、先ほど『お日様の金』と囁いて通り過ぎた声は、彼の声だったということだけだった。








次週『第二話 未完成な二人』に続く( ´艸`)ムププ