御閉帳の日   ~ アナザー ストーリー ~ | 善住寺☆コウジュンのポジティブログ☆ 『寺(うち)においでよ』

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 11月21日。 

この日を御本尊大日如来様の御閉帳の日に選んだのは、お大師様のご縁日だったから。

御開帳から半年後に当たるこの聖日にお扉を閉めよう。

 そう住職と話し合って決めた、御開帳と並ぶもう一つの大切な日。

 

 2年ほど前に定められたこの日程は、多くの人たちの脳にも記憶され、特別な意味を持っていた。

 

 

 僕たちは50年に1度の大行事である御開帳、御閉帳へとあわただしく突き進んでいた。

 

その間に僕は結婚もした。

 

 3月のある日、お腹に小さな命を授かったことを知る。

 

ほのかに広がり来る嬉しい気持ちと共に、ささやかな驚きも添えられていた。

 「予定日は11月21日だって。」

 

 「副住職がいないなんてあかん。御閉帳法要は重大な行事だから。もしその日に重なったら、他の人がついておいてあげるから。」

 

 そんな家族の言葉と、僕の中にあるそばに付いていてやりたいという気持ちが交錯する。

 もし予定日に生まれたりしたら、僕はどうすればいいんだろう。

 

 そんなとまどいを打ち消すかのように、「だいたい予定日通り生まれるなんてことはないよ。」といういろんな方の経験談に励まされて、僕はホッとした気持ちになっていた。

 

 

 御閉帳の日はいよいよ迫っていた。

 

いまだ産気づくことなく毎日が経過していく。

 

そして、11月20日の就寝を迎える。

 

なにごともなく床につく。

 

 これは明日も大丈夫だろうな。

 

 

 しかし、物語はここから一気に展開する。

 

まさにこの日の始まりは、ドラマティックなものだった。

 

 日付が変わってすぐ。深夜1時45分ころだっただろうか。

 

「あ~、あ~。。。」と泣きそうな声をもらす彼女の声で、僕も目が覚めた。

 彼女は、突然破水した。

ドラマで見たことがあるように、ベッドの下の床に立ち尽くす彼女の下には大量の水が流れ出していた。

 

 僕はどうしていいかわからなかったが、犬用の吸収シートがあるのを思い出して取りに行った。

 

 それから、親たちに知らせようと思った。

僕たちは今、お寺から50メートルほど離れた物置の2階に住んでいる。

僕は無我夢中で走った。

 

 電灯もなにもないその道を、懐中電灯さえ忘れて走り出したのに、行き先が明々と照らしだされている。

 

 少し顔を上げた僕の瞳には、光り輝く美しい満月の姿が映し出された。

 なんて特別な日なんだろう。

僕は、重なり合った偶然になにかを感じずにはいられなかった。そして、その満月の優しさに、僕は少し落ち着きを取り戻したような気がする。

 

 病院に電話すると、すぐに来て下さいと言われた。

 

服を着替えた彼女を連れて家を出る。

 

あ、ちょっと待てよ。

 

僕は思いだした。

「御本尊様のお姿を、最後に拝んでいかないとな。 水晶にさわって、お願いしよう」

彼女はしっかりと水晶のお力をいただいた。

この巡り合わせの不思議を、体いっぱいに感じながら。

 

 片道50分ほどの道を鳥取にある病院へ向う。

 

いつも以上に安全に運転で、一時間を越えてしまった。

 あわてることはないよ。

満月が語りかける。

 

 病院につくと、ベッドに横たわされた。

 

午前3時半。

まだまだ全然子宮口がひらいていないようだった。

 

 長期戦になる、それは初産の場合覚悟しなくてはならないことのようだった。

 

それに彼女にまだ陣痛がほとんどない状態だった。

 

 母さんも別の車で駆けつけた。

 

そして先生から様子を聞くと、しばらくして家に帰っていった。

母さんは御閉帳という大行事になくてはならない存在だったし、まだまだ陣痛というような痛みにもなっていないようだったから。

 

 僕はわきにある長椅子に寝転がりウトウトしながら朝を迎えた。

 

 7時半。

僕も御閉帳に帰らなければならない。

幸い彼女はまだまだ軽い痛みのようだった。

なんだか一人で残していくことに後ろ髪を引かれたが、彼女もしっかり拝んできてと気持ちよく送り出してくれた。

 きっと不安でたまらなかっただろうに。

 

 僕が家に帰ると、もう檀家の方が集まり始めている。

 

御閉帳の最終準備が着々と進められていた。

 

 午前9時半より記念撮影。

 

10時より法要が開式される。

 僕はただ一生懸命お経を唱えた。

僕にできることは、それしかない。

 

 昼食の時、電話がかかってくる。

 

「まだまだ生まれそうもないから、最後まで勤めてくればいいよ」

僕の代わりに付き添いに行ってくれた妹からだった。

「お義姉さんのことは任せといて」

 

 妹がそばに付いてくれたことは大きかった。

 

誰が付くより安心だった。

僕は午前中のもっとも重要な法要を勤めたら戻ろうと思っていた。家族もそれだけ勤めてくれればいいと言ってくれた。

 しかし、妹の言葉で僕は午後もお勤めすると決めた。

 

 午後の御詠歌法要、そしていよいよ扉を閉じるのが午後3時。

 

最後までいようと決断した。

 

 午後も一心におつとめをする。

 

向こうで痛みと闘っているであろう彼女のことは、頭から消えていたように思う。

 

 しかし、休憩中にお話しした近隣のお寺の奥さんからは、気もそぞろだと言われた。

 

なんだか話がかみ合わなかったらしい。

 

 1時45分くらいだっただろうか。

 

お勤めの切れ目に母親から呼ばれる。

 

「もうここまでお勤めしたら十分。病院に行くよ。3時過ぎには満ち潮だから行けっておばあちゃんが。」

 

 さすがおばあちゃん。

潮の満ち引きまで調べるなんて抜かりがない。

なんでも、満ち潮の時に生まれやすいということだ。

 

 扉を閉めることはできなかった。

 

でも、それは住職と御詠歌隊のみなさんに任せて、僕と母さんは再び病院へ向った。

 

 3時前に着くと、ちょうど彼女のお母さんとお兄さんが遠路はるばる大阪から駆けつけたところだった。

 

 一緒になって部屋になだれ込むと、まだまだのようだった。

ただ、朝とはかなり様子が違う。

陣痛がだいぶひどい。子宮はそれでもまだ半分ほどしか開いていないようだった。

 

 相当に苦しそうな彼女のわきにみんなが囲んで、一生懸命励まし、全身をマッサージした。

 

それまでずっと妹が一人で腰をさすってくれていたようだった。

ほんとうに陣痛は苦しいものだと、見ているこちら側まで、ひりひりと伝わってきた。

 看護婦さんの「いい陣痛が来ていますよ~」という言葉に勇気づけられながらも、どんどん陣痛は厳しく、周期が短くなっていった。

 きっと今頃、御扉を閉めながら、最後のおつとめをしている真っ最中だろう。

みんなが未来へ望みを託して、精一杯祈っているはずだ。

 そしてここでは未来を担う命が、生まれようとしている。

 

 4時過ぎ、ついに分娩室に入る。

 

「なんだかみんなが来るのを待ってたみたいだね。あれから一気に陣痛が進んだね」

そう看護婦さんが言う。

「これは今日中に産めるかもしれないね」

 

 え?

 

今日中って、まだまだじゃないか。

そんなにも出産って厳しいのか、と僕は思った。

 

 様子見に来た先生も、「あ~これはいい感じだな~。深夜のことだと思ったけど、もうちょっとはやくなりそうだね~」と言った。

 

 

 え?

 

いい感じでそんなにかかるんか?

僕は難産の人って、いったいどんなものなのだろうと、恐ろしく思った。

 

 だんだんに病室の空気がはりつめていく。

 

彼女の苦しくてたまらないという声に、いたたまれなくなる。

 

 僕はずっと手を握っていて、励まし続けた。

 

「ふ~っ。ゆっくり大きな息をして~。」

「赤ちゃんにたくさん酸素が送られるように。」

 

 同じ言葉をずっと繰り返した。

 

二人で車の中のCDで聞いていたソフロロジー法トレーニング。

彼女はいつもこのCDがかかると気持ちよくなって眠ってしまう。

 いつも僕はそれを見て笑っていた。

きっと僕の方が内容は良く覚えているだろう。

 

 「呼吸がすごく上手~」

 

ほめ上手な看護婦さん達に見守られて、彼女は必死に苦しい中で呼吸を頑張っている。

家族5人と看護婦さん2、3人に体をさすられながら、ついに子宮口が全部開いた。

 

 僕以外は病室の外に出る。

 

最後の力を振り絞って、赤ちゃんを押し出す。

こちらも一緒になって力が入る。

気が付くと僕の全身もなぜか痺れてしまっていた。

 

「あ~上手~。頭が出ましたよ~。500円くらい今出たよ~。」

 

 

 そこから少しずつ頭が現れていく。

 

僕は一瞬たりとも、新たに誕生しようとするいのちから目を離さなかった。

 

 新しい息吹が、ものすごい熱を帯びて、すぐそこまで迫っている。

 

女性はほんとうにすごい。。

これほどの苦しみと引き換えに、いのちを生みだすのだから。

 

 出てはひっこみ。引っこんではまた姿を現す。

 

しかし、確実に少しづつ見える部分が増えて来ていた。

 

 ぐうっと頭が飛び出した。

 

看護婦さんと先生が頭を支えた。

 

 うわ~っ。

 

 

 出てきた瞬間がスローモーションのようだった。

 

中から現れた小さな命。

 

 全部体が外に出た瞬間に、「おぎゃ~」という元気な泣き声がした。

 

やった~。思わずそう叫びそうだった。いや、実際叫んだのかもしれない。

その後、僕は「すご~い。すご~い。」とおかしいくらい連発していた。

 

「おめでとうございます。かわいい女の子ですよ~。」

 

看護婦さんたちが祝福してくださる。

 男の子。女の子。そんなのどちらでもよかった。とにかく五体満足で生まれてきてさえくれれば。

 

 うんうん。元気元気。

 

よかった、ほんとに。

 それにしても、命の誕生がこんなに素晴らしいものだとは思わなかった。

 産む方も、産まれてくる方も、とにかく一生懸命で、これを越える大きな出来事なんて存在しないんじゃないかと感じた。

 

 いろいろな奇跡が重なりあい、不思議にも授かった命が、こうして無事に生まれてくる。

 

 それは神秘的としか表現できないものだった。

感動で胸が震えた。

 

 「よく頑張ったな。ありがとう。」

 

そう彼女に心から伝えた。

「僕たち二人の子供だよ。」

そう言いかけてあわてて言い直す。

「2人だけのものじゃないな。家族みんなの子だし、仏さまから授けてもらった子だな。」

彼女も「うん」とうなずいた。

 

 2010年11月21日、午後7時3分。

 

女の子誕生。弘純と奈美に授かった宝物。

 母親になった彼女は嬉しそうに言った。

「7時3分だよ。凄いでしょ。奈、美。」

あ~ほんとだね~と笑う。これも小さな偶然。

 

 喜びをかみしめながら帰る道程。

くっきりと澄み切った夜の空には、再び大きく丸いお月さまが。

 

 満月の別名を「望月」という。

 

 

 よく生まれて来てくれたね。

 

そう、君に贈るその名前は、

 

       「望心」 のぞみ

 

 

 

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