純と薬 - クロザピン導入の功労者

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読者のみなさまは、クロザピンという向精神薬をご存じだろうか?

向精神薬でも、抗精神病薬(メジャートランキライザー)と呼ばれ、その中でも、非定型抗精神病薬と呼ばれるものである。非定型抗精神病薬は、"第二世代"抗精神病薬とも呼ばれ、それまでの定型抗精神病薬("第一世代"抗精神病薬)よりも副作用が少ないと製薬会社などが喧伝しているが、実際はそんなことなく、酷い副作用を有しているものが多い。

クロザピンというのは、その非定型(第二世代)抗精神病薬であり、商品名「クロザリル」として、ノバルティスファーマ社から発売されている。

1971年にヨーロッパで使用が開始されたので、実は、割に古い薬である。
当初、定型(第一世代)抗精神病薬で問題となっていた遅発性ジスキネジアが発現しにくいという触れ込みであったが、生命を危険に晒す深刻な副作用があるということで、製薬会社側の自主判断で販売中止に至った問題のある薬剤である。

重篤な副作用だけでも、
・血球障害(好中球減少症、無顆粒球症、白血球減少症)
・心筋炎、心筋症、心膜炎、心嚢液貯留
・高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡
・悪性症候群
・てんかん発作、痙攣、ミオクローヌス発作
・起立性低血圧、失神
・循環虚脱、肺塞栓症、深部静脈血栓症、
・劇症肝炎、肝炎、胆汁うっ滞性黄疸
・腸閉塞、麻痺性
(すべて、ノバルティスファーマ社が公表した内容である)

特に、無顆粒球症は、副作用の中でも特に深刻なもので、生命の危機を招く。
無顆粒球症とは、白血球の一種である好中球が極端に減少し、感染症、特に日和見感染症を引き起こしやすくなる病気である。
日和見感染症といえば、エイズ(HIV感染後の発症状態)における有名な症状である。30年くらい前には、その画像、映像で、多くの人々に言いしれない恐怖感を植え付けた、あの症状の数々と同じものが発症するといえるだろう。

しかし、「難治性統合失調症」とされた、他の抗精神病薬などの薬物療法では効果の無かった症例の治療における切り札として、なぜか、見直されることになった。
1989年にアメリカで使用が再開され、20年後の2009年には、日本でも承認された。
1989年といえば、「エイズ騒動」の記憶も濃厚な時期で、まだ、今日のようなエイズ治療法が確立されていない時期でもあったが、エイズと同じような致命的な症状を副作用として持つ薬を、なぜ承認するに至ったのか、理解に苦しむところではある。日和見感染症の治療が、現在の抗HIV療法の主流として、薬剤を複数併用するいわゆる「カクテル療法」に先立つこと確立されたのを割り引いても、なお、理解しがたいところである。

ノバルティスファーマ社では、この重篤な副作用への対応として、処方した時は、定期的に血球数や血糖値をモニターすることを義務づけている。
そのため、クロザピンを使用する医療機関、医療従事者、薬局は、クロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)への登録が必須事項である。
すなわち、使用できる医療機関は、日本全国でも非常に限られている、と言える。


ところで、このクロザピンを日本で承認、導入されることに尽力した「立役者」とされている人物がいる。

昨年まで東京女子医科大学神経精神医学講座(科)主任教授であった、石郷岡純氏である。氏は、精神薬理学の権威といわれ、日本精神神経学会評議員を経験したほか、現在では、日本神経精神薬理学会理事、CNS薬理研究会副会長のほか、東京の開業医(クリニック)「代々木メンタルクリニック」で診療活動も行っている。

さて、この石郷岡という珍しい姓で、もう、想像がつく方が多いだろう。
そう、准看護師が患者の青年に不当な暴力を振るい、その後、死に至らしめることになった舞台である、あの千葉市の石郷岡病院の現理事長である。
最近、千葉地裁での第一審で、被告側に軽い罰金しか科されず、事実上の被告勝訴(原告敗訴)となった、法曹の歴史でも稀にみるような酷い判決だった、あの事件にも深く関与する人物である。

事件当時は純氏の弟、寛氏が理事長であったが、2012年から純氏が理事長に就任した。長く、北里大学、東京女子医大など、外で"活躍"してきた純氏が「帰郷」した理由は定かではない。いろいろと憶測もされている。

しかし、クロザピンを日本で承認、導入されるのに尽力した「功労者」である純氏のことである。自分がオーナーである石郷岡病院でも、クロザピンを使用できるよう、資格取得や環境整備、患者・家族への売り込みに没頭するのは、自明の理であろう。

実際、石郷岡病院は、その日本でも数少ないとされているクロザリル患者モニタリングサービスの認定医療機関である。
それどころか、純氏自身が、ノバルティスファーマ社が"第三者委員会"として委嘱している、クロザリル(クロザピン)の販売、処方などを監視する「クロザリル適正使用委員会」の委員を務めている。
穿った見方をすれば、純氏がその気になれば、他の委員を言いくるめて、まだ、スキルや環境面で十分な実力を持っているとは言えない医師や看護師などのスタッフにクロザピンを使用できる権限を与えられることも考えられる。

石郷岡病院は、精神医療界に権威を誇る純氏が理事長ではあるが、一地方の私立精神病院に過ぎない。しかも、准看護師による暴力事件を引き起こし、医療機関としての資質が問われている。それなのに、危険なクロザピン使用の許可を与えられた。しかも、許可の権限をオーナー自身が自分で与えているようなものであり、はなはだ茶番である。


石郷岡純氏の東京女子医大における後任教授である西村勝治氏は、公式ホームページのあいさつで、純氏のことを次のように述べている。

「2004年に第五代教授に就任した石郷岡純は難治性統合失調症治療を期してクロザピンの本邦導入に尽力し、当講座を日本屈指の洗練された薬物療法を行う場として育成しました。同時に心理教育に代表されるチーム医療を推進しました。」

洗練された薬物療法、って何だろう?
そもそも、薬物療法ってものが、本質的に洗練されるようなものなのだろうか?

いくら、事件当時の理事長が彼ではないとはいえ、後継の理事長は純氏その人であり、薬物療法だけでなく、病院の環境や患者への待遇を「洗練された」ものの出来ているのだろうか? 彼の病院における精神医療は、「洗練された」ものなのだろうか? 少なくとも、その努力がなされているのだろうか?


ちなみに、嶋田和子氏のブログでは、クロザピン使用時は、その激烈な性質のため、他の向精神薬をすべて断薬して使用すると述べられている。そうなれば、一応「単剤」となるわけである。たしか、純氏には「単剤」を推奨するような言動があったが、それが副作用も酷く、生命の危機を覚悟して使うクロザピンというのであれば、まさに皮肉としか言いようがない。

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