「退職代行サービス」に新入社員からの依頼が相次いでいるそうです。毎日新聞社の4月14日の配信で、「退職代行サービス」を提供するある会社に関する記事がありました。その会社では、新年度に入って4月12日までの「退職代行サービス」の依頼件数は計545件で、そのうち新卒者からの依頼は約80件だったそうです。2023年4~5月の52件の実績と比べると増加しています。若い人を中心に今後も退職代行の需要は増えていくのではないかとその会社では予想しています。

就職斡旋ならぬ「退職代行サービス」とは、耳慣れない言葉ですが、会社を退職したい人に代わって退職の意思表示を会社に対してするサービスだそうです。なぜ、退職の意思を本人自ら会社に対して申し出ることをしないのでしょうか?どうして、わざわざ「退職代行サービス」を使って退職の意思表示をする必要があるのでしょうか?やや、不思議な気がします。

もし、労働者と会社の間にトラブルがあるのであれば、日本には、ちゃんとした公的な機関があります。厚生労働省が提供する個別労働紛争解決制度では、労働相談を初めとして、助言・指導、あっせんの3つの紛争解決援助制度があります。労働者と事業主のトラブルを解決するために、無料で利用できます。また、もう少し身近に「総合労働相談コーナー」が、各都道府県の労働局や労働基準監督署に設置され、労働問題に関する情報提供や個別相談を受け付けています。

こういった公的機関を利用せずに、一定の費用がかかる「退職代行サービス」を利用する理由は何でしょうか?おそらく、会社に対して退職の申出をすることに伴う心理的な負担を安易に避けようとする風潮が背景にあるからではないかと思います。

日本の法律では、労働者は退職を希望する場合、原則として自由に退職できます。退職とは、労働者が労働契約を一方的に解約することを指します。憲法22条では「職業選択の自由」を認めています。「職業選択の自由」があるため、労働者は不当に拘束されることはありません。したがって、「退職の自由」も同時に保障されています。

また、民法第627条第1項によれば、期間の定めのない労働契約を結んだ場合、退職を希望する労働者は自由に退職でき、退職の意思表示をしてから2週間が経過すれば雇用関係は終了することになります。労働基準法第137条では、1年を超える有期雇用契約の労働者を対象に、契約初日から1年を経過していれば、いつでも退職が可能とされています。

「退職代行サービス」の場合、委任を受けた人が、本人に代わり「退職の意思表示」をすることです。上述のように日本においては退職の自由が保障されているわけですから、自分自身で正々堂々と「退職の意思表示」して辞めていけばいいのです。それにも関わらず、そうしないのは、どうしてなんでしょうか?どうやら今の若い人たちは、対面でのコミュニケーションに弱さがあるようです。

数年前に新卒の女性が入社したことがありました。新人の仕事は、電話とりと言われています。私の会社でも例外ではありません。ところが、その入社した女性は、自分では電話を全くとろうとしないのです。やむなく、先輩たちが電話をとることになります。見かねて、私から「先輩たちにばっかり電話を取らせちゃいけないよ。電話が3回なる前に自分で取りなさい」と言ってもなかなか電話を取ろうとしません。

後から分かったのですが、どうやら若い人たちは、LINEやSNSによるコミュニケーションには慣れていますが、電話に出て他者とコミュニケーションをする経験がないようなのです。携帯電話も家族とか友人とか限られた狭い範囲の人としか話さないので、全く知らない人からかかってくる電話に出るということに恐怖を感じるようです。

自分が子供の頃、家の人が誰もいない時に電話がかかってきた時のことを思い出しました。確かに電話をとることに勇気が入りました。しかし、だからと言って、彼女を例外扱いにする訳にはいきません。それに慣れてもらわないといけません。電話に出るように促していたところ、しばらくして電話に出るようになりました。これは、電話でのコミュニケーションの例ですが、同様の理由で、若い人たちは対面でのコミュニケーションも弱いようです。

本来、退職の意思表示は、直接自ら会社に伝えるべきものだと思います。自ら会社に退職の意思表示をすることは、確かに精神的な負担が大きものだと思います。しかし、それをしないで他者に頼むというのは、自らの成長の機会を放棄しているようなものだと思います。そういう嫌な経験もして人は成長していきます。社会では、いつも楽しいことばかりというわけにはいきません。辛いことも、楽しいこともいろいろ経験して人間性が育っていきます。

配信された記事の中で、その「退職代行サービス」の会社の社長さんが面白い発言をしていました。「新入社員に限らず、企業側は全ての従業員に歩み寄ろうとする姿勢が必要ではないでしょうか。そういう風潮が広がり、退職代行というサービスがなくなることが一番だと思っています」と。

私も、退職代行というサービスはなくなるべきだと思います。しかし、企業側が従業員に歩み寄るだけではそうはならないと思います。労働者である若い人たちも、ちょっとした障害は自ら乗り越えようとする意識を持つようでなければならないと思います。安易に他人に頼むのではなく、勇気を持って、会社に対して自ら退職の意思表示をしましょう!そうすることで、精神的な障害を乗り越えて、自ら成長していくことができます。