前回の記事から、間があいてしまい、すみません。申し訳ない

今回は、施設職員が語られた向精神薬投与の具体的内容をアップさせていただきます。

(論文「児童養護施設の職員が抱える向精神薬投与への揺らぎとジレンマ」吉田耕平 著 福祉社会学研究10 133頁~136頁 4.2体罰と向精神薬 より引用)



※論文の引用は太字としてます。


※論文以外の引用はピンク太斜め文字とします。


※長文ゆえ、論文のみアップするつもりでしたが、あまりに突っ込みどころありすぎですので、最後に奈々草の感想等を青字で入れます。


※薬品名にリンクを貼りました。


※気になる部分は、赤太字にしました。




4.2 体罰と向精神薬



Aさん(20代:男性)は、他の施設で3年の勤務経験があり、

「以前、私が勤めていた施設でも落ち着かない子どもは薬を飲んでいたね」

「特に落ち着きのない、多動の子どもやね」

と医師から向精神薬投与を受けていた子どもとかかわってきている。



そんなAさんは児童指導員歴5年目の職員である。

施設Xで、Aさんは医師から朝・夕食後の2回、注意集中や多動、衝動性の改善に効能があるといわれているコンサータ (メチルフェニデート塩酸塩徐放錠 中枢神経刺激剤)という向精神薬を処方された子ども(小学校中学年)の担当である。



筆者が施設Xに入った8月は学校が夏季休業中であったため、昼間にも施設に子どもたちがたくさんいた。

Aさんが担当する子どもは夏休みに入って施設で生活する時間が多くなってから、他児に嫌がらせをしたり、落ち着きがなかったりと、Aさんは指導の難しさを感じはじめ、子どもを医療機関に連れて行き相談をしていたところであった。


8)攻撃性はAD/HDにおいてしばしば観察されるが、本
剤の投与中にも攻撃性の発現や悪化が報告されてい
る。投与中は、攻撃的行動の発現又は悪化について観
察すること。
<コンサータ添付文書 2.重要な基本的注意の8)より引用>


そして、Aさんは担当医師から向精神薬を増やすかどうか施設で検討するようにといわれたところであった。

翌週、筆者が施設Xに入ったときに、その子どもはコンサータに加えて、医師から気持ちの高ぶりや不安感を鎮めるほか、停滞した心身の活動を改善する作用があるといわれているリスパダール の投与がはじまっていた。


7 .小児等への投与
低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性
は確立していない(使用経験がない)。

リスパダール添付文書 7.小児等への投与 より引用>


子どもに向精神薬を使うことについての問いかけに対して、Aさんは次のように説明をはじめた。

「投薬について基本的に反対ですね」と向精神薬の使用は良くないという。

そして、Aさんは「〔医師が子どもの様子をみて判断しているというよりも〕(筆者補足、以下〔〕は同様)職員の意見だけで投薬が決まってしまうことに疑問を感じるときがあるんよ」と医師の判断よりも施設職員の意見が優先されているのではないかと捉えている。


つまり、Aさんは医師が施設での子どもの様子や学校での様子など実際の「生活場面をみていないし、みようともせず」、施設職員の観察記録や意見に頼っていることに疑問感じていた。


疑問を感じながらも、Aさんは「集団の中で生活することができない落ち着きのない子どもは、問題行動になってあらわれてしまうし、投薬して落ち着かせることは必要なんよ」と、向精神薬で子どもが暴れ出さないように予防していることもうかがえた。


その理由として、Aさんは過去に「薬を飲まさないと他の職員から日々の処遇に差し障りが出るといわれたこともあるんよ」といい、自身は反対でも施設職員に迷惑かけてしまうのであればと割り切って、医師から勧められた向精神薬の投与を行っている。



続いて、Bさん(30代:女性)は施設Xで心理療法担当職員として6年ほど勤務しており、子どもの心理療法と施設職員のアドバイザーとして相談・助言などを行う業務を担っている。



Bさんは「よく保育士から子どものこと〔精神科通院〕について相談を受けるのよ」と施設職員から子どものことで相談を受けたときの様子を話してくれた。

「投薬は進める前にできることはないかと聞くけど、保育士によっては精神科への通院、投薬を進めて欲しそうな感じがする」相談もある。



そして、Bさんによると、施設職員は「返事次第では聞き入れてくれないし、相談という相談もなく児童相談所に通所し、医療機関に通院、医師による投薬がはじまっていたことも」あったという。


Bさんは精神科通院、向精神薬の他に何かできることはないかと助言しているが、施設職員は向精神薬以外の方法では子どもの問題解決につながらないと自分で判断し、「児童相談所に通所」→「医療機関に通院」→「医師による向精神薬投与」が開始されることもあると述べている。


Cさん(40代:男性)は、「薬で子どもの行動をコントロールするのは虐待しているのと同じだと思う」と真っ向から施設での向精神薬の使用について反対している。

そのCさんは、他の児童養護施設を含め10年以上の勤務経験を持つ児童指導員である。

Cさんは以前勤めていた施設が管理主義的な体制の中で施設運営がなされていたことに疑問を感じ退職したが、施設Xの施設長に誘われ、来て1年ほどであった。


Dさん(50代:女性)は35年前の1970年代に2年ほど施設Xで保育士として勤務していた。

その後、Dさんは結婚を理由に退職したが、最近子育ても落ち着き再び同じ施設Xに復帰した。



そのDさんは過去と現在を比較しながら話を進めている。

「最近、薬飲んでいる子ども多いね」

昔〔35年前に〕勤めていた時は薬を飲んでいる子どもは1人もおらんかったけど、子どもの質が変わったというか、職員の質も変わったのかわからんけど、昔とは違うね」

「今は親から虐待を受けていたり、親のDVをみて育ってきた子どもがいたり、落ち着きのない発達障害の子どもや精神的にも、うつの子どもがいたりして大変やね」

過去の施設にはなかった発達障害、虐待、うつ、DVのトラウマ経験、などが現在では存在していることをあげている。



それを、Dさんは子どもと施設職員の質の変化として捉えている一方で、障害などの医療的な診断が「昔とは違う」という理由で子どもの処遇に変化が起きていると語っている。


Aさんの時と同様に、Dさんにも子どもに対して向精神薬を使うことについて尋ねてみた。

Dさんは「昔は暴力なんか使って力で抑えていたけど、今は虐待になるし」

薬を飲ませるのは絶対に反対やけど、施設を管理するのに必要なんよ」と、

Dさんは暴力など力による処遇が虐待になってしまうと述べており、子どもへの向精神薬投与は反対であるというが、施設の運営上、子どもを管理するための手段として向精神薬が必要となってきていると認識している。


そして、自分が子育てしていたとき病院や薬に頼らなかったというDさんは「自分の子どもだったら絶対に飲まさないねと子どもへの向精神薬について疑問を抱いていた。


ここまで、施設Xで働く4名の職員の語りをみてきて、共通していたことは向精神薬投与に対して否定的であるということである。

しかしながら、職務を遂行するうえで、施設職員が子どもを暴力など力で抑えることが虐待になってしまうことから、体罰の代替として向精神薬による処遇を行わざるをえない状況があるとみなされている。


その一方で、Cさんのように向精神薬を使うことで子どもの行動をコントロールすることも虐待しているのと同じであるという意見もみられた。

施設職員は向精神薬投与について反対であるが、施設職員自身が逸脱する子どもに対して体罰を加えないようにするためにも向精神薬がなくてはならないし、職務を遂行することができないといった気持ちの揺らぎや、ジレンマとも取れる思いが語られていた。



向精神薬以外に、落ち着きのない問題行動のある子どもをコントロールするどのような方法があると考えられているかは、後で検討することにする。



奈々草の感想等


(1)児童養護施設は誰のために、何のためにあるか?


「人の振り見て、我が振り治せ」という諺があります。




この論文を読んで、「私も自分の仕事で同じようなことを言わないように気をつけなければいけないな。」と思いました。

(ちなみに私の仕事は、児童福祉関係ではありませんので、誤解なきように。)


どんな仕事でも現場は大変です。

また、どんな仕事でもその仕事に就いている人にしかわからない苦労があります。


だから、第三者に自分の仕事関係についてとやかく言われたら、「現場がどんなに大変か知らないくせに。」「制度も何も知らないくせに・・・。」「私達は頑張っている。何もしてない人達には言われたくない。」という言葉がついつい出てきます。


言いたい気持ちは痛いほどわかります。

でも、よくよく考えてみてください。

現場は誰のためにあるのでしょう。

学校なら生徒のため、病院なら患者のため、介護施設なら入所している高齢者のため、児童養護施設なら入所している子どものためです。


現場で働いている職員のためにあるのではないのです。

その辺りをはき違えないように気を付けなければなりません。


生徒も患者も高齢者も子どもも・・・、制度がどうであろうが、職員が大変であろうが、頑張っていようが関係ありません。

職員がどうであれ、望む結果が出ればよいのです。


さて、児童養護施設入所中の子ども達は何を望んでいるのでしょう。

そして、国民は児童養護施設に何を望んでいるでしょう。


・子ども達の安全な暮らし

・子ども達の健康が守られること

・子ども達が幸せになること

・子ども達が十分な教育を受けること

・自立した大人に成長すること

でしょう。

決して、施設運営を円滑にすることではないはずです。


向精神薬を投与することで、子ども達や国民が望む事に応えることができるのでしょうか。


子ども達の安全と健康が守られ、幸せにならないなら、児童養護施設は存在する意味がありません。

職員も職務を果たしているとは言えません。



(2)体罰がダメだから、向精神薬投与?


体罰がダメだから、向精神薬投与もおかしな話しです。

向精神薬の副作用、子どもに与える影響を知れば、普通は怖くて余程のことがない限り使えないはずです。


それを心理士が向精神薬以外の方法を提示しても聞かず、安易に向精神薬投与するのは薬のことについて知らないのでしょうか。

いや、ある程度は知ってますよね。「自分の子どもには飲ませたくない」と言ってますので。

「自分の子どもに飲ませたくない」ものを、他人様から、お金をいただいて預かっている子どもに飲ませることを世間はどう見るのでしょうね?


もし、ホントに知らないとしても・・・知らないは言い訳にはなりません。

子どもの安全と健康を守るため、児童養護施設の職員は給料をもらっているのです。

子どもに与える物は、責任を持たなければなりません。

子どもに投薬する前に、副作用について、子どもへの影響について知るべきでしょう。


Cさんが言うように、向精神薬で子どものことをコントロールするのは虐待です。

体罰以上の虐待です。

その虐待が児童養護施設で行われていることが、施設職員によって明らかにされています。



(3)プロは何処に・・・はてな


子どもが嫌がらせをしたり、落ち着きなく、職員が指導の難しさを感じたことが、何故医療機関受診なのでしょう?


35年前は児童養護施設で薬を飲んでいる子どもが一人もいなかったのに、今は薬を飲んでいる子が多い・・・

子どもの性質は昔とそんなに変わったのでしょうか?

昔は薬を飲まずに対応できたのに、今では薬を飲まなければならないほど、子どもは変わってしまったのでしょうか?



Aさんは、担当医師から向精神薬を増やすかどうか施設で検討するようにと言われたということだが・・・

薬を増やすかどうか検討するのは、医師だろう。

何故、医師が施設に検討するように言うのだろう?えっ



医師が施設での子どもの様子や学校での様子など実際の生活をみてなく、みようともせずに、施設の職員の記録や意見のみで判断していること・・・って・・・


医師としてどうなのでしょう?



診断の根拠が「職員が言ったから・・・」はてな



内科の医師が「患者が胃が痛いと言ったから、胃炎と診断して、胃薬出したら・・・実は心筋梗塞だった」なんてことになったら、大問題でしょう。

外科の医師が「患者が右下腹部が痛い、盲腸かも・・・と言ったから、手術したら違っていた」と言ったらどうですか?






この論文を読み、児童養護施設関係者にプロはいないと思いました。

子どもが変わったのではない・・・プロがいなくなっただけなのです。しょぼん