新創世紀(20話)君の名は? | anemone-baronのブログ

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落書き小説根底にあるもの!
私の人生は、「存在しなければ、何を言っても正しい」という数学の存在問題の定義みたいなもの。小説なんか、存在しないキャラクターが何を言っても、それはその世界での真実なのだ。

 

 太陽がちょうど天頂に達する頃、地域Dを横断する川から引かれた灌漑用水路のそばを、一人の旅人がロバに乗ってゆっくりと進んでいた。彼の目は、水路の技術に感心したように、水は静かに流れ、周囲の野菜畑に生命を与えていた。その構造を感心しながらに観察している。

 水路を管理していた地域Dの男(a)は、旅人の興味深げな視線に気づき、近寄って声をかけた。「おまはん、どこから来たんじゃ?」彼の声には、好奇心と暖かい歓迎の意が込められていた。

旅人はロバから降りながら答えた。「山向の山脈を超えて来たんじゃよ。この素晴らしい水路はどこの村のものかね?」彼の問いに、地域Dの男(a)は少し戸惑った表情を浮かべた。

「ドゴっちゅうぎゃね? ここじゃげんでが。ここったったの地域Dじゃげろが、そうえば正式な名前なんて付けたことがあらンだべさ。」

その晩、地域Dの男(a)は地域Dの集会所で男たちと酒を飲みながら旅人との会話を話した。
 
「名前がねえこっとに、けんねえっち気がついたじゃヶ。うちらの村にも、ちゃんと名前を付けるべけえなもんじゃ?(うっぷ)」
 
「そげなのう。最近は色んなとこから人らがきよるだろうげ。名前あっだっげえげしょうげ。(は~)」
 
仲間たちの間でざわめきが起こった。地域Dの長老が立ち上がり、提案を述べた。
 
 「みんなでかんげた名前からトーナメントガタでけつめとうじゃないげ。(あっぷ)これわいら、めんなの村じゃげ。(げっふ)」
 
「こん村んなまぇ付けらならだがいどぉ~おらんどげんから1つずつ考えて、あれだぎょう参っと発表しれ。(げっふ)」
 (略・この村に名前を付けるのだから、各家庭で一つずつ考えて次の集会で発表してくれ。)


 と続けると、皆の表情に期待と興奮が浮かんだ。男たちは「集会」という名の飲み会が終わると、すぐに回覧板を用意し、それを家々に千鳥足で回していった。

翌日、ねんど板館前の集会場に住民達が持ってきた、それぞれの地名を見て盛り上がっている。
 
「面白山村(おもしろやま)誰じゃこんなの付けたのは?」


「へ~あっしでごわす。」


「どげんしてこんな名前なんじゃ」


「家の裏の丘が白い岩肌だらけだからでごわす。」


「あ~あれ花崗岩だんべ、そんなら”花岡村”とかの方がきれいだんべさ。」
 
「”金玉落とし村”またけったいな名前考えたな~おまえか?どげん意味があんだ~!」


「ほれっ金色の木のみがぎょうさん落っこちてくる時有るだろさ。んだから”金玉落とし”」


「あれ、銀杏だんべ、だったら(おちんこ なっ村 ginkgo nut)の方がしゃれがきいてねいか?やだけど。」

 集会は楽しい雰囲気の中で続いていた。各家から提案された名前はバラエティに富んでおり、住民たちは次々と奇想天外な地名を披露していた。
 
「これ?なめ~いか?誰だぁこんな書いた奴、やたら長いんだが。」


「”こげん男の、どこよて惚れた、夜が長いと月に笑われ”ね。綺麗でしょ♡」


「それなら、拙者も”三千世界の烏を殺し、君と朝寝がしてみたい”」
 
「アホか!これ都々逸じゃね~か。すかもこれ、おめ~んとこの情事じゃね~か!駄目だこんなの。おぬしのは、高杉晋作じゃけん。この村には吉原はね~ど!アホ。真面目に考えろやっ!」
 
長老の声を遮るように、オレも私もと歌を披露し始めた。
 
私のも聞いて~と「”寝顔見たいと口説いたくせに なのにウソつき 寝かさない(村)”キャッ♡」
 
それなら私も負けてなわよっと
 「”この膝はあなたに貸す膝 あなたの膝は わたしが泣くとき借りる膝(村)”ワァーオ♡」
 
 男として黙ってられんバイと
「悋気(りんき)は女の慎むところ、疝気(せんき)は男の苦しむところでごわす。」


 長老は木の杖を振り回して「やめれーやめれーっバカモん。都々逸大会やってるんでわ。ね~べや!」と怒鳴り散らした。

 

なんだかんだ言いながら盛り上がっていた。取り敢えず地名を決める発表会は何とか無事終了し、後はジャンケンで決めることになった。

 ジャンケントーナメントとはいえ、都々逸などは最初から外された。(当たり前だ)ちゃんと考えた住民の地名が最終選考にまで残った。
 
・黒石郷(こくせききょう) - 炭鉱が多い地域にちなんだ名前。
・水源郷(すいげんきょう) - 清らかな水が豊富な地域を表す名前。
・新墾郷(しんこんごう) - 開拓者たちが開拓した新しい里を意味する名前。
・牧草地村(ぼくそうちむら) - 酪農が盛んな地域にふさわしい名前。
・星影村(ほしかげむら) - 星がきれいに見える静かな村をイメージした名前。

長老が候補の粘土板を並べて「なかなかええなまえが据えられたべな。この中からへとつだけえらんで、おぜいでげじめるごとにしょわい。」と語った。

(略・中々いい名前がそろったな。この中から一つだけ選んで多数欠で決めることにしよう。)
 
 住民は真剣に悩んでいた。どれもふさわしい名前だ。一つ選べば残りは無くなってしまう事になるので皆頭を抱えていた。


一人の住民が長老に向かって「おくいなげが決められます。おらっちゃ決めらあんがじゃ」
 (略・長老がきめてよ。儂らには決めあぐねる。)
 
長老も困った顔して「でもねぇ〜。みんなでげじめんげあのかんべな…」
 (略・でもな~。皆で決めないと……)

 ロバに乗った旅人が、地域Dの日常を静かに観察していた。水路を詳しく調べた後、彼は地域の"炭化平炉"で炭を作る過程や"反射炉"で鉄を生産する様子にも目を向けた。

 

さらに、ねんど板館を訪れて、その中をくまなく見て回り、知識と経験に感心していた。そして最終的に、この日の集会場での激論と地名投票の光景を、一部始終静かに見守っていた。

長老は決心した様子で「やっぺり、みんなで決めるばいがいがね。こげだけばってれの意見から、ええなまえが集まるたけぇ……」

(略・やっぱり皆で決めよう。これだけ皆の意見からいい名前が揃ったんだから……)
 
すると一人の若者が「ばってれくっつけたらどがいでしょう。黒石水源新墾牧草地星影村(こくせきすいげんしんこうぼくそうちほしかげむら)てどげです?」
 
皆は苦笑していた。「ハハハ、わるげねどす、長すぎるべな。舌くち噛みそうだべさ。」

長老も腕組みをしながら考えこんで「今までも、みんなで考えて良い知恵出し合って話し合って決めてきたじゃないか……これだけのアイディアを……」と言いかけた時。
 
 ロバに乗った旅人が、「それがええで!」と大声でいきなり割り込んできた。

 

長老及び住民たちが旅人の方に振り返って「それって?……」口を揃えて言うと。
 
旅人は「アイディア(Ιδέα)だよ。」
 
「ァイディア(Ιδέα)?」住民たちが今一意味が解らず困惑していると。
 
「この地域の名前は”ァイディア(Ιδέα)” town where ideas are born”頭文字を使って”ツアイブtwiab”でもええな、アイディアの生まれる町って意味だべさ。」

「オレは、この町を見て回ってホント感心してな~、こげん進んだ村とか今まで見たこともなかったべ~。まさにアイディアが生まれる町だんべ。」
 
 長老は「んだども、皆が選んだ名前はどうすっぺか?」

「地域D全体の地名は”ァイディア(Ιδέα)”通称”ツアイブ”で、個々の集落に皆さんが選んだ地名をつければいいべ。」


長老は手を叩いて「なるほど、例えば”ァイディアの黒石郷”とか”ァイディアの星影郷”とかってかぁ~」
 
「んだ!そうれな、みんなが考えた地名も使えるべ。」
 
 この案に住民たちも大賛成して納得していた。長老も感激して旅人に感謝して「おまはんは、名前とかあるんか?」

 旅人は「オレの名は”タレス”」

 「そっか、タレスさんか。あんがとね。」
 
「よ~し、みんな~、正式な地名の記しての祝に、来週、記念祭りをすっぺ~」


「ウオ~!」


ァイディアの住民たちは、年老いても若くても一堂に会し、歓喜の声を天に向けて力強く上げていた。老若男女が踊り出すように互いに抱き合い、喜びの雄叫びを上げては、熱狂的な笑顔で地名が出来たことの幸福を祝福していた。


子供たちも大人たちが喜んでいるので、意味もわからず興奮して走り回り、親たちの目を盗んでチャッカリ、パンや肉を盗み食いしてた。

 

大人たちは手を振り上げ、声を限りに喜びを表現してその場の空気は、まるで祭りの前夜祭のような熱気と歓声で満ち溢れていたのであった。