ゆりかごにそっと

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熊本慈恵病院「こうのとりのゆりかご」に託された母と子の命

ゆりかごにそっと

 

蓮田太二著         方丈社

 

 

レビューブログとしては、連続の「こうのとりのゆりかご」関連になってしまいましたが、今回は創設にご尽力された、蓮田太二さん自らの言葉で綴られた一冊を読ませて頂きました。

 

「こうのとりのゆりかご」の利用者の背景に見えてくる問題(母子ともに危険な孤立出産、虐待死、親権と施設養育の関係、愛着障害、家庭のあり方、命か出自か、など)は、子どもの最善の利益について、社会全体で真剣に考えてくれという、子どもからの声なき声のように感じます。

 

蓮田太二氏の病に侵されながらも,この問題に,まさに命をかけて取り組んでおられる姿が本書に刻まれています。

 

なによりも命を救う事。

 

 

<母子ともに危険な孤立出産>

孤立出産とは、妊婦が一人で出産に臨むことを指すが、それはとても危険な行為だ。

未熟児だったら?

呼吸をしなかったら?

逆子だったら?

へその緒が巻き付いていたら?

母親が大出血を起こしたら?

清潔ではない場所で、墜落死の可能性もある中、さまざまな危険と隣り合わせだということは容易に想像がつくだろう。

なぜそのような状況が生まれてしまうのか。

 

パートナーから出産を反対されている。パートナーが音信不通になってしまった。親。家族から反対されている。妊娠していることさえ話せない。天涯孤独で頼れる人がいない。病院はおろか行政や民間団体にも,家族や職場、学校に知られるのではないかと不安で相談できない。など、当たり前の協力が受けられない人たちが一定数いるという現実がある。

個々が繋がりあえず、孤独が広がるこの現代で子育てをできない妊婦、事情を抱えた妊婦に対して,社会は「非難」以外に何ができるのかを考えるべきではないだろうか。

 

「おめでとう」と祝福される妊婦がいる一方で、妊娠に苦しむ妊婦がいる。

どちらにも尊い命がそのおなかには宿っている。

どの命も等しく、安心できる環境で取り上げてもらいたいと思う。

 

 

<0歳0ヶ月の虐待死>

2016年の1年間の虐待による子どもの死亡は親子心中を除いて49人。

そのうち、0歳が32人。

その中でも0歳0ヶ月が16人と最も多い。

死の原因を作ったのは9割が実母だという。

2018年、5歳で虐待の末、天国に旅立った結愛ちゃんはやせ細った12キロの身体で

「もうおねがい ゆるして」とノートに記した。

誰かひとりでも彼女を抱きしめてあげられる大人はいなかったのかと、心の底から悔しく思う。

 

育てられないのなら、虐待してしまう心の闇を抱えているのなら、特別養子縁組で愛情あふれる家庭へと託すことは、親としてできる最後の愛情ではないだろうか。

 

日本には現在、養子を迎えたい家族が、民間団体に7500組登録されていると、本書に記されている。

潜在的な数も含めたら相当な数になるだろう。

しかし、特別養子縁組の成立数は年間500〜600組。

血縁へのこだわり、母性神話、特別養子縁組への理解が進んでいないことが、原因ではないだろうか。

日本の社会養護下の中で、家庭養育の割合は1割程度なのに対し、児童福祉先進国の国を見てみると、オーストラリアでは9割を超え、アメリカで8割弱、隣国の韓国でも4割を超えている。

 

 

<親権と施設養育と愛着形成>

専門家によると、親(養育者)との愛着形成におけるもっとも大切な時期というのは生後3ヶ月までだということをご存知だろうか。

「子供が3歳になるまでは母親は子育てに専念すべきであり、そうしないと成長に悪影響を及ぼす」といった、三歳児神話というものがあるが、前述の専門家によると、男性、女性にかかわらず、また生みの親でなくても、特定の大人との間に愛着関係を持つことが重要だとしている。

このことから、養親でも、施設の職員とでも良好な愛着関係を築くことは可能だということになる。

しかし、ここで問題になるのは、育てることはできないが、親権を放棄はしない親の存在である。

もちろん、やむを得ない事情から施設に預けることもあるだろう。

だが実際には、親がいながら18歳まで施設で暮らし、そこから社会に出て行く子供たちもいる。

 

「こうのとりのゆりかご」に預けられた子どもの中にも、親の同意が得られず、特別養子縁組、里親委託ができない子どもがいる。

愛着形成に大きな影響を与える生後3ヶ月は、あっという間に過ぎてしまう。

親の同意が得られない赤ちゃんは乳児院に預けられるが、そこで施設の職員と愛着を形成していく。

しかし、2歳になると養護施設に移ることになる為、親ともいえる存在になった職員との別れが待っている。

子どもにしてみたら、生みの親との別れ、新たに親として認識した職員との別れ、わずか2歳にして二度、親と別れることになってしまうのだ。

その後、里親と出会えたとしても、彼ら彼女らは、三度目の別れがやってくるのではないかという恐怖で、里親に対して、「試し行動」を行うのだという。

この人たちは、自分を捨てないか、全て受け入れてくれるのか、と。

無理もない。

その傷ついた心を癒すことができるのもまた、無償の愛を与えてくれる、親という存在しかないのだろう。

愛着障害を引き起こした子どもは、その後の生活に支障をきたすケースがある。

さらに、その子が親になり、愛着形成が築けぬまま育った為に子どもとの愛着形成に失敗し、最悪の場合虐待してしまうケースもある。

悪循環である。

その悪循環を断ち切る為には、安定した愛情のある家庭で育つことが必要になる。

以前andfamily repo vol.2①紹介した、熊本慈恵病院の看護師長さんの「負の連鎖を断ち切りましたね」という言葉が蘇る。

 

 

<追い詰められる母と子>

熊本慈恵病院は「こうのとりのゆりかご」の運営と同時に相談窓口を設置している。

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以下、「ゆりかごにそっと」p22〜p25抜粋

 

ある時、関西から相談の電話がかかってきた。

妊娠八ヶ月。

職場の不倫での妊娠だが、男性との関係は壊れた。

妊娠も出産も、職場にも家族にも絶対に知られたくない。
さもないと、この先、生きていけない。
悩んでいるうちに、おなかがどんどん大きくなってきた。もう産むしかないのだが、産んでも育てられない。
と、相談員に早口で訴えた。

〜中略〜

毎日、悩みつつ、おなかが目立たないように締め付けてパートに出ていたことや、今月は体調不良ということでパートも休んでいることなど、ポツリポツリ話した。

〜中略〜

まずは順調だと告げて安心していただいた。
頃合いを見て、病院で診察を受けてみて、と持ちかけると、黙り込んでしまった。
それから何回も電話があって、受信を勧めたが相手は受け付けない。ひとりで出産するのは危険だから、なんとか慈恵まで来られないか、と聞くが、「お金がない」と、動こうとはしない。

〜中略〜

相談室が逼迫するのは、それから一月経ったころだった。

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以下、p25〜p32抜粋編集

 

陣痛に苦しみながら、彼女は相談室に電話をかけてきたという。

窓口にはベテラン助産師。

彼女を励まし、適切なアドバイスを送りながら、別の電話で彼女の住む市内の警察に連絡を取った。

彼女に救急車を呼ぶように促すが、「人に知られるくらいなら死ぬ」と、応じない。

その間にも痛みは激しくなっていく。

緊迫の時間が過ぎるなか、電話の奥でガタガタと音がした。

「ここだ、よし、このまま運ぼう」

救急隊員の声。それに混じって、彼女とは思えぬ野太い声。

「誰が知らせたあ〜」

これほどに隠したいのか。恥なのか。

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この後、母子ともに無事だったと本書には記されている。

母子の命が助かったことが何よりだが、危険な行為だったことは明確である。

このリアルケースには、不倫という問題があるにせよ、生まれてくる子には何の罪もない。

 

誰にも言えないとしても、行政や民間団体を信じて、相談することが、追い詰められた母と子の救いになることは間違いない。

 

妊婦自身も家族、地域、社会も、まずは子どもの命を最優先に考えられないだろうか。

その先に、愛情を持って育てたいと思っている夫婦が、この日本にもたくさんいるのだから。

特別養子縁組は、子どもにの最善の利益を守り、養親を救い、生母の新たな人生を後押しする、みんなが幸せになれるはずの制度だと、私は自信を待って伝えたい。

 

 

 

熊本慈恵病院では、危険な孤立出産をなくす為に、2018年内密出産(母親は自身の情報をしかるべき機関に預けて医療機関で匿名出産。子どもは一定の年齢になったら出自の情報を知る権利を持つ)に踏み切った。

 

そして、子どもの命を守る最後の砦として「こうのとりのゆりかご」はいつも、そっと、そこにあるのだろう。

 

 

 

&family..

千田真司