当時、自宅の近所に母方の祖父と祖母が住んでいて、そこに皆で家出をしたことがあった。
父ひとりを家に残して。


近所の喫茶店で晩御飯を済ませ、祖父祖母の家に行き、翌日はそこから学校に通った。



頼る相手や行く場所が違っても、度々父だけを家に残して家出することがあった。


その時の母の顔もやはり悲しげで、申し訳なさそうにうつ向いていた気がする。



私達兄姉は、家族総出で家出をするなんてことが普通ではないとわかってはいたけど、誰も悲しいとか嫌な気持ちはしていなかった。


だって父から離れて、母と兄姉だけの時間。



どんなたわいのない会話も許されるし、いつもより母の心が解放されているような雰囲気も、ちゃんと感じられて嬉しかった。



それと同時に、数時間後には必ず父の居る家に戻る事になると理解していた。
あくまでも、一時的な"避難"にすぎないと。



ある時、いつもとは違い父がひとりで家を出た。

寂しいのか悲しいのか、そんなはずないのに、私は泣いて父にしがみついた。



子供ながらに"その時が来た"と感じ、
父はもう2度と戻ってこないと思ったから。







結局、父は戻ってきた。
どういう気持ちで、父を迎えたかは覚えていない。