メールアドレスを変更した日 | 俺の夜遊び雑記帳~いつもお世話になっております~

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27年間の夜遊び(風俗・オッパブ・たまにキャバクラ)での出会いと別れを徒然に。

2002年の末、俺はKちゃんと過ごした一年以上の日々にピリオドを打った。その直前俺は、「もしKちゃんが俺に連絡を取りたくなった時に、旦那(になる人)に感づかれないようにしよう」と彼女に提案し、俺の携帯のアドレスを、Kちゃんや俺のイニシャル等を含まないものに変えた。そして彼女はそれを女性の名前で自分の携帯に登録した。

それから8年以上…俺はKちゃんからの来るはずもないメールに備え、携帯のアドレスを変えずにいた。どんなに迷惑メールが来ても変えることはなかった。その日までは…


2011年5月中旬の日曜日。新宿の某デリヘルで俺についたのはモエカちゃん(21歳、仮名)。入店してまだ2日目だった。

フリーで入り、受付で「比較的待ち時間が少ないのはこのコとこのコと…」といって出された3~4枚の写真、その中から選んで決めた。可愛いがどことなくぎこちない微笑みの彼女は、いわゆる完全業界未経験(風俗の経験は体験入店も含めて過去に全くない)だった。

受付から歩いて3分ほどの場所にあるラブホテルに入り、待つこと約20分でノックの音と共に彼女がやってきた。

彼女はスリムで小柄、かなり緊張した面持ちだった。俺はTVをつけ(AVではなく地上波)、お笑い番組を一緒に見た。画面ではちょうどザキヤマが濃いギャグをかましていたが、彼女はザキヤマが好きらしく、それを見てかなりリラックスしたようだった。

彼女は21歳で、ある専門学校の2年生だが、通うのは3年目だという。実は彼女は諸般の事情で留年してしまい、1年下の後輩と一緒に半年通って、取り残した単位を取る必要があるという。「最初の試験ではクラスで一番だったけど、かえって恥ずかしかったよ」といい、苦笑いを浮かべていた。しかも、留年の件で親と大喧嘩をしてしまい、絶縁状態だという。この店に勤めたのも、残りの学費は勝手に自分で稼げ…と言われたから、らしかった。

しばらく雑談したのち、シャワーを浴びるため二人は各々衣服を脱いだ。彼女は恥ずかしがり、自ら部屋の明かりを暗くしてから浴室に向かった。彼女は浴室でも、少し照れながら俺の局所を洗ってくれた。

ベッドに移り、横たわりながら雑談を続けた。彼女のいままでの経験人数は、1人だそうだ。その彼とは1年半前から3ヶ月前まで付き合っていたらしかった。彼はえつちが上手くて、彼のお陰でえつちが大好きになりました…彼女は嬉しそうにそう言っていた。

俺は、元カレと比較されるかも…と考えるとちょっと萎えそうになった。そこで“自分は自分でしかない。出来ることをやれ”と、まるで受験直前期の励ましのような言葉を自らに言い聞かせながら、彼女に対して虚心坦懐に攻めさせていただいた。幸いその結果、彼女もかなり感じてくれていたようだった。

彼女は「もう…したくなっちゃったよ…」と俺を見ながら囁くので、慌てて枕元の常備物を探そうとしたら、「…でも、お店の決まりだから、ダメだよ!」と一転撥ね付けられてしまった。

ベッド上にも関わらず路頭に迷った俺の「俺」は一時うな垂れてしまったが…結局迷子になる直前、彼女の手指により無事目的地まで導かれ、事なきを得た。

もう一度シャワーを浴び衣服を着てから、二人並んでベッドの縁に腰掛けた。伊勢丹の地下で買ったプリンを冷蔵庫から取り出し食べながら、残り時間おしゃべりをした。

今月末に彼女は誕生日を迎えるが、「プレゼントをくれる人がいないんだ…」と、彼女は寂しそうな顔で呟いた。参考までに何がほしいのかを尋ねると、PSP本体だという。

俺は話を聞いているうちに、短期間で彼氏とも家族とも離れてしまった彼女に同情してしまった。

彼女の孤独感は、いかばかりだったのだろうか。俺は彼女を元気付けたくなり、こう提案した。「…じゃあ、モエカちゃんの時間のあるとき、ヤマダ電機かどこかに一緒にPSPを買いに行って、その後に誕生日会をしようよ。」彼女ははじめはびっくりしたような顔をして「うそ?まじ?」などと言っていたが、そのうち満面の笑みに変わり、その提案を喜んでくれた。

そこで会う日取りを決めるため、メールアドレスを交換しようとした。彼女は携帯を一旦カバンから取り出したものの「…でも、お店の決まりだから、アドレス交換は出来ないんだ…」と、躊躇した。彼女は決まりを遵守する傾向が強いようだった。

ここで制限時間を告げるタイマーが鳴った。俺は取り急ぎ、ポケットに入っていたレシートか何かの裏側に自らのアドレスを走り書きして「じゃあ、ここに後でメールして」といい彼女に渡した。彼女は笑顔で「ありがとう!必ずメールするね!」といい、その紙片を受け取った。

その日別れてから、何となく充実した気分で帰りの電車に乗っていた。チラチラ携帯を見ていた俺は、はたと気付いた。


「やべえ!メアド書き間違えた(>_<)」


眼を閉じて思い出してみると、急いで書いたあまり、メアドに含まれる英単語のスペルを間違え、一文字抜かしていたことが確実だった。

俺は冷静になるように自らに言い聞かせながら、これからどうすればいいかを考えてみた。

このまま放置して、もし彼女が俺にメールを送ってくれたときに戻ってきてしまったら、どうだろう…彼女の悲しみや落胆はかなりのものだろう。

今日の彼女の勤務時間はもう終わっているし、現時点では次回以降の出勤の予定もまだ入っていない。お店の人に伝言を頼む訳にもいかないだろう。


…その時、ふと俺の頭に「そうだ!アドレスを変更すればいいんだ!」という考えが浮かんだ。

躊躇している時間はない。俺は、一文字欠けたスペルの英単語を含んだ間抜けなアドレスを新しいメールアドレスに設定し、「メールアドレスを変更しました」のタイトルと共に、Kちゃんを除く登録してある全員に送信した(Kちゃんの旦那はメールチェックをしまくるので、こちらからは送ることを禁じられていた)。


間に合った。その日の夜にモエカちゃんからお礼のメールがきた。俺はほっとして、迅速にメアドを変更してよかったな…と胸を撫で下ろした。その後何度かメールをやり取りし、翌週火曜日の夜に会うことになった。

おれは、プレゼントを買った後に行く予定のレストランも押さえ、電話予約の際には彼女が誕生日である旨を伝えておいた(そうすると誕生日メッセージがかいてあるデザートプレートをサービスしてくれるらしかった)。


準備が整った前日の夜、彼女から一通のメールが届いた。

「ごめんなさいショック!急用ができて明日はどうしてもいけなくなりましたしょぼん

俺は多少のショックを覚えながらも大人の対応で「了解しました。また後で連絡するか、お店に行くね!」と文面上は平静を装い返信し、彼女も「本当にすいません」と再び返信してくれた…これが彼女からきた最後のメールだった。


その後は彼女はお店には全く出勤しなくなり、2ヶ月後にはお店のHPからも姿を消してしまった。同様に俺の送ったメールにも全く返事が来なくなり、3ヶ月か4ヶ月後にメールを送った時には、「次のあて先へのメッセージはエラーのため送信できませんでした。」という文面が即座に帰ってきた。

俺は「あーよかった。PSP代もレストラン代もお店の代金も浮いて、よかったよかった。」と、脳内で嘯いた。と同時に「彼女はきっとご両親と仲直りでもして、風俗に勤めなくてもいい環境になったに違いない。俺みたいな店で知り合ったような人脈は、切って正解だよな…」などと考えて自らを納得させた。少しだけ、切ない気持ちになった。

そして半ば意固地になった俺は、間違ったスペルの英単語を含んだ間抜けなメールアドレスを、今日も使い続けている。