2013年6月　記

あもんは山陽本線で広島駅から西へと向かっていた
2013年5月6日の瀬戸内海沿岸は無風快晴であった
時折見える瀬戸内海の穏やかな風景があもんを心懐かしくさせてくれている
『今日は晴れて穏やかだ…穏やか過ぎる』

今から69年前の秋、同じ路線で瀬戸内海を眺める青年がいた
彼らはあもんより若い。２０歳になったかどうかの若者だ
『晴れの日は、何日後、何年後に来るか知らない。しかし、必ず来る』

カープ列車というのか？広島色の濃い電車を見つけた

昨日は久々に実家に泊り、家族とTVでカープ戦を観戦した
悔しくもジャイアンツに僅差で負けたが、家族とのカープ観戦が平和だと思った
『平和だ…平和すぎる』

今から６９年前の日本はアメリカに負け続け、敗戦の兆しが濃厚になっていた
瀬戸内海を眺める青年はなんとしても勝利をそして、日本国に平和をと願っていた
『国家存亡の秋、じっとしておれないのです』

あもんは徳山駅で電車を降り、徳山港に向った

徳山港からフェリーに乗り大津島へと向かった
徳山港は周防灘に面しており波穏やかで水深のある天然の良港で
戦前には日本海軍燃料廠が置かれ、戦艦大和の沖縄特攻作戦にあたり本土最後の燃料補給地となった
現在はそれが発展し瀬戸内業地域の石油コンビナートとして重要な役割を担っている

以前は徳山市として市制を行っていたがは平成の大合併により周南市となった
フェリーに揺られ約40分、その独特な瀬戸内風景を眺めながらあもんは思った
『すっげーなんか、カッコイイな！』

今から６９年前の１９４４年、終戦より１年前に大津島に渡った青年は１３００人を超えていた
彼らは赤紙を貰って召集された訳ではない
彼らは情熱を燃やして自ら志願しこの島に渡ってきた
『我々はこれからの日本を背負わなければならぬ。我々がやらねば、誰がやるのだ！』

あもんは大津島、別名“回天の島”へ上陸をした

回天とは太平洋戦争末期、“天を回らし、戦局を逆転させる”という願いを込めて作られた人間魚雷である
魚雷に大量の爆薬を搭載し、隊員自らが操縦して敵艦に体当たりすると言う特攻兵器である
酸素魚雷である九三式魚雷の中央部に一人の乗員の為の操縦室を取り付けたのが回天である

驚くことにこの人間魚雷の創案者は二人の青年士官だった
黒木大尉（当時２２歳）仁科中尉（当時２０歳）はこの構想を軍に提案した
『七生報国』

この言葉は古く楠木正成の言葉である
この精神を幕末の長州藩が受け継ぎ、大東亜戦争時代の陸軍が受け継いだ
満州事変から１２年、日本国の軍事教育はここにきて成果を挙げた

『国難を救うためには青年の情熱による、肉弾的活動以外、方法は無いと思うのです』

軍司令部は一度はこの構想を却下するが、戦局悪化に伴い考えを改め、乗組員の脱出装置を装備するという条件付きで試作品製造の許可を下した
しかし、脱出装置が未完成のまま、特攻兵器として回天は誕生をした
そして、ここ大津島に回天基地が作られ、若者は訓練をするためにこの島に降り立った
回天はハッチを閉めると、操縦席は電球一つの暗い空間である
身動きの取れない密室で、回天を操るのは困難を極めた
回天は水深５ｍで航行して目標に接近、一度浮上して目標物の位置を確認する
この時、敵から発見されないようにわずかな時間で確認することが求められた
その後何も見えない中、コンパスと時計だけを頼りに突き進むのである

訓練では海中に突入したり、エンジンが止まるなど事故が続出
実戦を前に１５名が命を落とした
その殉職者の一人に回天創案者の黒木大尉がいる
時化によって訓練用回天「一号的」が波に叩かれ、急激なダウンによって水深20mの海底の泥に突き刺さり、救助までの間に艇内の酸素がもたず
約10時間艇内に閉じこめられたことによる酸欠で死亡していた
艇内に残された10時間の間に報告書と遺書を綴っている

１、波浪大ナルトキ浅深度高速潜航ノ可否ハ実験ヲ要ス、確タル成果ヲ得ルマデ厳禁ヲ可ト思考ス（若干処置ヲ誤リシハ当所ノ水深ヲ十二ト判断シ、実深ヲ知ル能ワザリシニヨル）

２、早急ニ過酸化曹達ヲ準備スベシ

３、事故ニ備ヘ、用便器ヲ要ス（特ニ筒内冷却ノ為）

４、実験ヨリシテ二人乗ハ七時間ヲ限度トス

５、『ハッチ』啓開ヲ試ミシモ開カズ

空気量不足ト思考セラルルニヨリ只今（１９：５５）ヨリ睡眠ス
黒木大尉は自らの命を捧げ人体実験をすることになった

辞世の句

男子やも我が事ならず朽ちぬとも
留め置かまし大和魂

国を思い死ぬに死なれぬ益良雄が
友々よびつ死してゆくらん

２２：００壁書ス、

呼吸苦シク思考ヤヤ不明瞭手足ヤヤシビレタリ

０４：００死ヲ決ス心身爽快ナリ、心ヨリ樋口大尉ト万歳ヲ三唱ス

死せんとす益良男子の悲しみは
留め護らん魂の空しき

所見万事ハ急務所見及至急務靖献ニ在リ同志ノ士希クバ一読、緊急ノ対策アランコトヲ十九－九－七

０４：０５絶筆樋口大尉ノ最後従容トシテ見事ナリ

我又彼ト同ジクセン

０４：４５君が代、斉唱

神州ノ尊神州ノ美我今疑ワズ莞爾トシテユク

万歳、

０６：００猶二人生存ス、相約シ行ヲ共ニス万歳
同乗した樋口大尉の辞世の句

後輩諸君ニ
犠牲ヲ踏ミ超エテ突進セヨ

“無念”としか言えないであろうが、二人はそうは思っていない

この二人が殉職した翌月の1944年10月25日
関行男大尉率いる神風特別攻撃隊がレイテ湾で最初の特攻作戦を敢行した
そして同年同月、回天作戦も決行された
特攻隊員の出撃が決まると隊員は一時帰宅が許された
しかし、国家機密である為、訣別の言葉は言ってはいけない
その夜、彼らは遺書を綴っていた

『御国のお役にお役に立ち得たる事を喜んでやって下さい』

『私は今、私の青春のまひる前を、私の国に捧げる』

『小生は何処に居ようとも君の身辺を守っている』

『お父さん、お父さんの髭は痛かったです。お母さん、情けは人の為ならず』

『和ちゃん。海は私です』

出撃前の壮行式
隊員達一人一人はハチマキを巻いた
神酒を司令官から頂戴し
司令長官から短刀を献上された

創始者である仁科中尉は黒木大尉の遺志を継ぐために出撃直前まで熱心に回天の研究・改良に務めていた
1994年11月8日、仁科中尉は黒木大尉の遺骨を持ってウルシー環礁へ向けて出発11月20日午前5時過ぎに黒木の遺骨を抱いたまま米国タンカーへ特攻・戦死した21歳没。アメリカ側の戦死者は63名だった

大津島での訓練は1945年8月15日音玉放送まで続けられていた
回天作戦の結果
敵軍撃沈　３隻（正規空母・戦艦に対する戦果無し）
敵軍小破大破　５隻（駆逐艦輸送艦等）
回天特攻隊員の戦没者１０６名
この数字は確かであるとは誰も言えない
魚雷は成果が明らかにされにくいから
海は誰にも見渡せない暗闇だから
戦争の結果を特攻隊員に伝えるのは悲し過ぎる

『いたいけな子供達を護らなければいけません』

そう遺言を残した隊員さん達
いたいけな子供達の子孫があもん達です
あなた達に護られ、あもん達は生まれることが出来ました
あなた達の尊い命がここに宿っているのかもしれません
あなた達が潜望鏡から見た最後の景色
それは闇ですか？暁ですか？答えは暁です
あなた達が開けられなかった回天の出口の先には
あもん達の平和の始まりとなる終戦がありました
それは、あなた達の母国愛が導いてくれた結果でもあります
さらに、あなた達の情熱的な母国愛は新たな日本を創りました
今、穏やかな瀬戸内海を見られるのはあたな達のお陰です
家族でのカープ観戦で平和を感じられるのもあなた達のお陰なのです
申し遅れて、ごめんなさい
心よりあなた達の考動に感謝します

そして、あもんは今、こう伝える

時代は“いのち”を左右させる

平成の平和な現代で昭和の母国精神を真似する必要は無い
全ては時代が悪いのだ
戦争でしか認めることができなかった時代のせいにしよう
この時の人類は決して間違ってはいない
この時の人類の考動は、今の人類を創っている糧となっているから
人類は“いのち”を繫いで生きぬいて来た
“いのちを繫ぐモノ”
それは情熱だ
情熱こそ命だ

若者よ
“いのち”でなくてもいい
“何か”に向けて情熱を捧げよ！
その情熱を未来に伝えよ！

『いたいけな子供達を護らなければいけません』
この言葉が未来の日本を護る言葉だ

彼らは
死にたくなくて、死んで志を貫いた

我々は
死なず、死ぬ気になって志を貫こう

それが“回天”の真意だ