ヒラリーが勝ちま...せんでした | あもくのガンバラヤ ルイジアナだより

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あちゃあ、派手に間違えましたねえ。断言しちゃいましたからねえ。「ヒラリーが勝ちます」って。どうかお許しを。

 

まあ、言い訳をすれば、心情的にトランプに「勝ってほしい」と思ってた人以外でこの結果を予想した人は誰もいなかったわけで、唯一声高に「危機」を叫んでたのは、ミシガン出身の映画監督、マイケルムーアだけでした。僕の学部の大学院生の一人は、趣味で始めたブログでの民主党の候補予想が各州であたりまくったので、民主党から相当なお金をもらって、大学院もスパッとやめちゃったのに、かわいそうに、この結果でたぶん失業です。

  

トランプが勝った原因ってのはいろいろ取り沙汰されてますが、僕が見るところでは次の3つです。

 

1. 「不人気投票」に勝った。世論調査に「どっちも嫌いだけど、まだトランプのほうがまし」って答えた人が多かったと言います。ヒラリーは「クリントン財団」の不明朗会計やら、ウォールストリートや大企業との癒着やら、私用アドレスで「機密情報」に関するメールをやり取りした疑惑(とそれに対してメールの内容を明らかにしなかった)やらで、「信用できない」っていうレーベルがべったりと張り付いちゃった。トランプがそこを突いたから勝った、というより、この辺はヒラリーと民主党の自滅です。それに比べたらトランプの女癖の悪さや脱税疑惑なんてのは「まだまし」っていう感覚だったようです。

 

2. 経済的な不満が爆発した。アメリカでは近年失業率が下がり、公的には「景気がいい」ことになってます。ところが、一般庶民、特に地方の住民(典型的には大卒資格を持たない白人男性)の実感は全く違ってます。一昔前なら高校を出て工場で働けばちゃんとした生活ができたのに、グローバリゼーションとやらのおかげで仕事はメキシコやアジアに行っちゃって、お定まりの産業空洞化。景気がいいのは都市に住んでる人、特にトップ1%の人たちで、大企業の社長クラスになると平均的な労働者の400倍とかの年収をもらうのが当たり前。つまり平均400万円なら年収16億円です。これが普通ってありえなくね?で、ただでさえ仕事が少ない地方の町にメキシコ人やらの移民がやってきて仕事をかっさらっていく(と思った)んだから「メキシコとの国境に壁を作る」とかわけわかんないこと言っても喝采されちゃうわけですね。

 

3. エスタブリッシュメント(既成勢力、支配階級)に対する反乱。つまり、民主党も共和党も一般的な有権者が何を考えてるか、全く見えてなかったってことです。確かに人権や平等を旗印にして女性や黒人を優遇しすぎっていう面もあったわけで、それに取り残された白人男性の反乱ってのは大きなファクターだったでしょうね。エスタブリッシュメントにはメディアや大学も含まれるわけで、世論調査が軒並み外れたってのは、僕も含めて本当に恥ずかしい。もっと言えば、今回トランプが勝った理由と、選挙予想が全く外れたってのは、実は同じ理由なんですね。つまり、「分析する」側の人間が、過半数のアメリカ人が何を求めてるか、全く理解できなかった。その不満が票になったし、それが票につながるってのを読めなかった。この辺は同僚とも話したのですが、「社会学者」としては本当に情けないですね。

 

さて、それでは今後どうなるでしょうか。まず、トランプはものすごく苦労するはずです。大企業優遇を是正して庶民に富を再分配して強いアメリカを取り戻す、なんて大見得切ったけど、本来最初の二つは共和党の理想とは無縁です。で、その共和党ががっちりと議会の過半数を握ってます。つまりトランプは大統領にはなったものの、自分に投票してくれた人たちの望む政策ができるとはとても思えない。どこかでどちらかに背を向ける必要があります。オバマの2期目のように支持者に失望されるか、共和党からつまはじきにされて何もできなくなるか、どちらかになる可能性が高い。4年もたずに辞任して副大統領のペンスが大統領になっても全然驚きません。その場合、ペンスは昔ながらの共和党の政策を進めるので、トランプの支持者は離れます。

 

日本にとってはどうでしょうか?「安保タダ乗り論」とかってのは在日米軍の経費の75%だかを日本が払ってるのを知らなかったトランプのホラ話ですが、中国や北朝鮮とちゃんとした交渉ができるかどうか疑問があります。ただし、そういうのは実務レベルでの話なので、まともな人間が周りにつけば(それも疑問ですが)、そうひどいことにはならない。トランプがかっとなったら戦争になると思ってる人もいるようですが、アメリカの政治システムってのはそこまでひどくない。フェイルセーフ機能が働きます。またトランプは「アメリカが世界の警察になるのはもうごめん」と思ってますから、これも長期的な変化がちょっと早くなるくらいのものかと思います。ただ、その過程で秩序が揺らぐので、中国の覇権志向なんかもからんで面倒なことになる可能性はあります。ただし、トランプはロシアと(今の所)仲がいいので、中国を牽制する力はしばらくの間持ち続けるとは思いますが。

 

日本にとって幸いなのは、トランプは絶対にTPPの批准は許さないということです。ヒラリーも一応そう言ってましたが、あれは口先です。トランプの支持者は反グローバリゼーション=反TPPだし、トランプもこの信念は揺るがない。僕は昔から TPPは益より害のほうがはるかに多いと思ってるので、ある意味、トランプが大統領になったのは日本にとっては必ずしもマイナスではないと思ってます。アメリカ社会の分析で鳴らす堤未果さんなんかも、最近書いたものを読むとほとんどトランプ支持じゃないかと思えるくらいの反グローバリゼーションだし。グローバリゼーションってのは貧富の差を拡大し経済が政治を凌駕するシステムです。これはやめたほうがいい。同じことをEU離脱を決めたイギリス人もおそらく直感で判断したんだと思います。Brexitとトランプの勝利は密接につながってます。

 

アメリカの今後は日本とは比べものにならないくらいの苦難の道です。これはヒラリーが勝っても同じことです。都会と地方、黒人と白人、女性と男性、大卒と高卒、このての分裂がこれほど如実になった選挙は未だかってありませんでした。もともとあった分裂をトランプが引きずり出したのか、トランプがそのきっかけ、もしくはそれを助長したのかはわかりません。何れにしても、大統領選挙の結果に関わらず、アメリカ社会の軋みは1960年代の公民権運動、ベトナム反戦運動以来のものだと思います。

 

返す返すも民主党の予備選でバーニーサンダースが勝っていればよかったと思います。基本的に言ってることは経済政策に関する限りトランプとほとんど変わらない。彼が民主党の候補になってたらトランプ支持者の票を集めて勝っていたと思います。そうすればこの選挙で明らかになったアメリカ社会の分裂のガス抜き、もしくは根本的な解決ができたかもしれない。ただ、トランプが勝って一つ期待できるのは、長期的に見てプラスに転じる可能性があるということです。経済格差の縮小と、冷水を浴びた既存政党(特に民主党)がもうすこしまともな候補を立てるってことでしょうか。僕が個人的には史上最低の総理大臣だと思ってる安倍さんよりはずっとまともなことを言ってるということも確かです。

 

これから4年間、野次馬根性としては面白いですが、世界中の誰しも、アメリカの動向に関しては野次馬になれないところが辛いところです。