学生寮にて 2 | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

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探索とまではならない広さの寮の部屋にはシャワールームまで付いていた。この他に浴場が別にあることは事前に分かっていて、だから当初はそこだけを使おうかなと思っていたんだけど。





「櫻井くん!見て!シャワー付いてる!めちゃくちゃ良くない?しかも結構広いし!ちょー便利だね!」




ベッドの次はシャワー。そのワードにいちいち赤面する自分が本当に情けないと思いながらそんな事には気付きもしない相葉君がシャワールームを見て嬉しそうにする。




「部屋にシャワーなんてホテルみたいだよね!」




今度はホテルという言葉を相葉君が口にするからまた動揺で。邪で本当にごめん、と心の中で思うから許してもらいたい。だけどどうしてもこの状況に浮かれてしまっている俺は相葉君の言葉一つ一つに妄想が止まらない。




「櫻井くんはシャンプーとかこだわりある?オレ別になくてさ、櫻井くんも無いなら一緒に買って同じの使っても良くない?そしたら場所取らないし」




あーもう、同じシャンプーとか言ったらダメでしょ。色々とパワーワードが多すぎて、やめなくてはと思うのに妄想が止まらなくなる。彼が変な意味で言っている訳では無いと分かっているのに次から次へと耳に入る言葉にどうしても。




「……こだわり、俺もないよ。……同じの使う案、良いな」




どうにか出した声が喜びで震えていないだろうか。何年も何年も片思いをしていた男が目の前にいてさらに会話をし、次から次へとパワーワードまで言うんだから動揺やら興奮で。それが態度に出てないといいのだけれど。





「あ、ほんと?ならさ、一緒に買いに行かない?外出ていい時間あったよね」




「……買い物?一緒に?」



「そ!買い物!シャンプーとかさ、買えば良いと思ってオレ持ってこなかったんだよね」



「……えっと……」



「あ、ごめん!オレ馴れ馴れしいよね…。なんか知ってる奴と同じ部屋で嬉しくて浮かれてんのかも、オレ」





大変申し訳ないけれど、浮かれているのは俺です、間違いなく。目で追うだけでも罪の意識に苛まれていたのに、俺と同じ部屋という事に喜び浮かれていると相葉君が言ってくれるなんて。





「俺こそごめん、なんか暗くて。……人と話すのあまり得意じゃなくて」




「え?そんな事なくない?暗い人だと思ったことはないけどな。まぁ、でも、それならオレといたらちょうどいいかもね!うるさいオレと落ち着いてる櫻井くんとさ、一周まわって合うかもじゃん?」




なんてね、と笑う顔はずっと目で追っていたそれ。その笑顔が自分に向けられる日が来るなんて考えたこともなくて。




「あ、えっと……荷物……うん、荷物整理しちゃおうかな、俺」




もうずっと動揺がすごい。さっきから止まらない妄想と動揺と緊張で頭が熱い。本当なら荷解きなんて放っておいてこのままベッドになだれ込みたい。そうすれば少しは落ち着きそうな気がするけどせっかく相葉君と話せているのに……






「櫻井くん?!大丈夫?!」



「……え?」



「顔、真っ赤だよ?!」




通りでふわふわするわけだ。だけどそれは妄想と動揺から来る興奮のせい。でもそんな事を言ったら同室初日で俺たちの関係は終わる。だから言わないのは当たり前として、でもこの熱い頭と目眩にも似た様は少し辛い。




だけど心配そうに俺を見てくれる顔も良いな。こんな顔は初めて見る。いつも見ていた彼はいつの時も楽しげで。眉が少し下がる表情も綺麗だな、なんて思う余裕がまだあるんだから多分大丈夫。





「熱、あるんじゃない?」




心配そうな顔のままそう言って、ベッドに腰をかけた俺の方に相葉君が近寄ってくるから余計に熱くなる。




「いや、大丈夫だから。……ごめん」




これ以上はまずい。そう思って彼の動きを制御する為に手を体の前に出した。だってこれ以上近づかれるのは本当にまずいんだ。赤い顔も熱い頭も興奮で倒れそうなだけ。確かに顔もめちゃくちゃ熱いし頭もふわふわとしているけれど、あくまでもそれは相葉君と同じ部屋にいるから起きている現象だから。






「でも、見せて?」




だけどそう言って制御する俺の手を無視して額に手を当てる相葉君はきっと特別な事をしている意識なんて微塵も無い。調子が悪そうなたまたま同室になった人間への配慮の以外にないと分かっているのにする期待は虚しいのかもしれないけれど。





「あっつ!!!!」



「……え?」



「超熱いって、櫻井くん!!先生呼んでくる!」





走り出す相葉君の背中をぼんやりと見た。俺のために慌ててくれる彼の態度が嬉しいと、そんな感情が一番に来るあたり相当。




「寝てまってて!」




一度背を向けた相葉君がまた戻り、ベッドに俺を寝かせてご丁寧に布団まで掛けてくれる。それから俺に向かって、すぐに戻る、という言葉を掛けて部屋から出て行った。






「……はぁ」




部屋に一人になって現実が急に押し寄せてくる。俺のために走る相葉君の背中が、今迄俺が彼に抱いていた彼そのもので。




「やばいって、マジで」




同室初日のたった数分でこんな風になる自分が、この先どうこの部屋で彼と過ごしていくのか。




「…………幸せすぎる」




そんな妄想がまた始まりそうになった時に




「先生連れてきた!!大丈夫?!櫻井くん!?」




息を切らした相葉君が先生らしき大人を連れて部屋に戻ってきた。