「日本酒の旨さを教えてくれたのが大将だったなぁ」
「そうそう、飲んで帰ってきたらしっかり銘柄メモってきて酒屋へ探しに行ったわね~」
「知らなかったから勉強も兼ねて、それもこれもお前のせいだ」
「わたしのせい?おかげじゃなくて?」
「晩酌ごっこ・・・ぷぷぷ」
「え~~、憶えてないよ~」
「冷やなのにおちょうしに入れないと怒るんだよお前」
「お父さんのおちょこが空くと待ってましたって」
「じっと見てたもんな」
「わたしは楽でしたけどね」
「もっとくぃ~っといきたくてもおぼつかない手つきでのお酌がじれったくってなぁ」
「そんなこと言って!結構楽しそうでしたよ」
「子供の好奇心を満たしてやるのが親の務めだからな」
「いえいえ、一緒に楽しんでました!」
「あの、どっちでもいいんですけど」
「どっちでもよくないだろう」
「ね~子供の教育方針とかでもめる親の方がカッコいいよ」
「そんなもんでもめることはなかったわ」
「じゃ、何でもめたの?」
「お父さんが、人様の前じゃいかんが家ならいつ頃から飲ませてもいいかで」
「・・・げっ」
「外で隠れて飲むより、家で飲んだ方が健全だろう」
「まぁ、わたしもあなたがお友達誘って飲み出したりしないかほんの少しだけ心配だったわね」
「ちょ、ちょっと待った!」
「何よ?」
「わたし、6年生の時だったよね日本酒初めて飲んだの」
「そうよ、それまでもちょびちょび舐めてたけどね」
「何で?」
「アレがきて大人になったお祝い」
「でもおちょこに一杯だけ」
「そう、それからお誕生日の度に一杯だけ・・・美味しいって飲んでたわ」
「うん、美味しいって思った」
「お父さんはほらみろって喜んだけど、お母さんは反対だったから」
「じゃ何?もめたのはわたしが小学校の時?」
「そうなの、まあねあの頃急に背も伸びて胸も、そしてアレがきて」
「そーゆー時は性教育をどうするかでもめるのが普通じゃないの」
「悪かったわね普通じゃなくて」
「友達はうざいって言ってたから、今じゃわたしもうちは野放しで楽だったと思うけど」
「野放しじゃなくて自由に伸び伸びと・・・」
「ちょっとお父さんは口はさまないで下さい」
「おお、怖っ」
「お母さんこそどうしてもっと飲みたいって言わなかったか不思議でよくお酒の残量を確かめてたわ」
「隠れて、こっそり飲んでるじゃないかって?わたしどんな子供よ」
「お前ならやりそうだ・・・くく」
「お父さんっ!少しだけ黙ってて下さい」
「なんだか、母さん昔のお前に似てきたぞ」
「何それ?」「何ですかそれ?」
「わたしね・・・大人になったらいっぱい飲んでやるって決めてたから」
「中1の夏休みに一年先輩がBBQでビール飲んで急性アルコール中毒で病院運ばれたの憶えてる?」
「ああ、そんなことあったわね」
「あの運ばれた先輩にね、憧れてたの」
「中1!つ・付き合ってたのかっ?」
「お父さんっ!憧れてたのって言ったでしょ」
「憧れてただけか・・・」
「お父さんホントに黙っててくれませんか」
「先輩ってリーダー格でちょい悪ぶってるとこがカッコいいなって・・・」
「ふ・不良かそいつは?」
「お父さん!怒」
「憧れがふっとんじゃった、だってカッコ悪いじゃん、わたしは大人になってからちゃんとお酒飲もうって」
「そうだったのね・・・」
「うん、お父さんと二十歳の誕生日に一緒にお酒飲むんだって」
「ん、お父さん?どうしたんですか?」
「うるさい、黙ってろってい・・・くっ」
「泣いてるよ、お母さんが泣かせちゃった」
「あら、わたしじゃないでしょ」
「お待たせ~~」「ありゃ、おとっつぁんどうした」
「大将いつもすみません、お父さんは目にゴミが入ったみたいで」
「そうか、年とると目にゴミが入りやすくなるってもんですよ」
「おじさん、そんなの初めて聞いたよ」
「そっか、年寄りの中では定説だぞ」
「あはは、でも今日のもみんな美味しそう!」
「特製魚卵ずくし・・・子供の頃からの大好物だ」
「ああ~この博多人形のような滑らかで艶っぽい白子・・・あっ、これは卵じゃなくてあっちなんだよね」
「そうでござい、中校生の頃に俺が教えたなぁ・・・性教育も兼ねて」
「あ~!旨ぁ~い!極楽極楽」
「お父さんより、あなたが言うようになったのね~」
「お父さんは慣れちゃってこのありがたみがわからないのだ」
「いつでも帰ってきていいんだぞ~」
「ちょっと、お父さん何言ってるんですか」
「別に、冗談だよ」
「お父さんが言うと冗談に聞こえないんですよ」
おしまい
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