右脚、左脚…
必死で前に出しながら ひたすら
歩いて。
『 はっ…はっ… 』
部長がついてくるとも思っていない。
けど 彼から 少しでも遠のきたかった。
「 …ユノさん…もう… 」
緊張しながら歩いたせいか ふたり共
息が切れるのが早く とくにチャンミンは
早朝からの移動で 疲れていたんだろう、
汗を滲ませ 苦痛に顔が歪む。
その時初めて 脚を止め 振り返った。
『 …大丈夫… 』
大丈夫なのはわかっている。
目で見て声に出して確認した。
数メートル先に 自販機を見つけ
ちょっと待ってて、と 植え込みのブロックに
チャンミンを座らせ 走った。
ペットボトルの水をぶら下げ
戻ると 肩で息をしていたチャンミンが
少し楽そうに呼吸していた。
『 ほれ。』
額に冷えたペットボトルをあててやると
きゅっと肩を窄め 気持ちいい、と。
『 …嫌な思いばっかりさせて ごめん。』
チャンミンは黙ったまま
頭を横に振った。
『 ここがどこかわかんないけど、
なにかテイクアウトして ホテル帰ろうか。』
「 …クス、 はい。」
とにかく 人目のない場所で
落ち着いて話がしたかったから
チキンやなんかを買って チャンミンの
道案内で 無事ホテルに帰り着いた。
ここは ホテルといっても 観光用というより
出張中のビジネスマン向けの 要は
長期滞在型ビジネスホテルだから
小さくてもキッチンもあるし
ただ ベッドが それほど大きくないのが
残念である。
「 綺麗にしてる!」
チャンミンの第一声だ。
『 帰って寝るだけだし。 』
「 …思い出します、初めて
光州に出社した日、ふふ。」
…笑った。
ソウルに来て 辛いこと続きで
ずっと強張った表情だったチャンミンが
俺の部屋が綺麗だって笑った。
『 さ、食べようか。 』
「 はい、 あ、手洗って? 」
『 ん。』
「 うがいも。」
『 うがいも?』
「 うがいも。」
食べ終わっても チャンミンは
忙しなく動き続ける。
あちこち開けては 洋服を畳み直したり
カーテンを開けたり 閉めたり。
『 なあ、座ったら?』
「 あ、うん。 カーテン開けとく?
それとも、」
『 どっちでもいいよ、 おいで、ここ。』
「 …ん。」
ふぅとため息を吐いて チャンミンは
諦めたように ベッドの端に腰掛けた。
「 …いろいろありすぎて… 」
『 そうだな。 ほんと悪かった。
ネクタイなんか頼んだばっかりに。』
カバンから 細長い袋が 顔を出している。
それを見つめて 俺も ふぅと 鼻から
長い息を吐いた。
「 …行きつけ、だったんですね。 」
『 ん、あいつの な。 俺は たまに
ついて行った程度だけど… 』
「 …ネクタイ…もったいないな… 」
『 いくら言っても 着けないからな。』
「 …わかった。」
その時 チャンミンは 思っていたそうだ。
自分より あいつが選んだネクタイの方が
俺に似合うんだろうな、と。
そして あんな報道が出たせいで あいつの
身のこなしは 堂々としていた、と。
ネクタイを押し付けられて 断った時
お前にやるんじゃない、と 言われたそうだ。
それで そうだな…って 受け取ったと。
『 …今度 俺に選んでくれる?
光州のモールで。』
「 モールで?」
『 ん、 俺はブランドなんて どうでもいい。
お前が俺のために選んでくれるなら
それが俺にとってハイブランドだよ。 』
「 ユノさん… 嬉しい、 って!
良いものはいいんですよ? ふふ。」
『 わかってる。でも どうせ デスクの書類に
埋もれるんだから。』
「 そうだ、挟まってた!」
丸くて大きな瞳が揺れている。
俺より小さな手が 笑うたび
口元を覆って…
『 チャンミン、 キスしていい?』
久しぶりに会ったのに 口づけることすら
忘れるほど 多くのことがあった。
そして 口づけた後 いよいよ俺は
話を切り出した。
『 …聞かなきゃ駄目なんだ…
イ部長のこと。』
「 … はぁ… 」
両手で顔を覆うと今度は大きく
ため息を吐いて。
息を吐き終わった後 顔を上げて
口を開いた。
「 …僕を忘れられない、 って…
勝手だよね、ほんと…に… 」
つづく。
おはようございます。
今日も もくもくした雲は分厚そうです。
昨日は 長時間 手芸をしてたら
楽しくて。
やっぱり 好きだなーと思いました。
でき上がったら また見てね。
今日は火曜市だなぁ。
すごい人だろうなぁ…
でも 冷蔵庫が空っぽなんだなぁ…
それでは。
今夜は 大家さんちを 覗いてみましょう(笑)
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