エレジー。54 | くる*くるり

くる*くるり

ふたりといっしょ

いつまでも






「  ご…ごめんなさい…僕… 」


右脚、左脚…
必死で前に出しながら ひたすら
歩いて。



『  はっ…はっ…  』



部長がついてくるとも思っていない。
けど 彼から 少しでも遠のきたかった。



「   …ユノさん…もう…  」



緊張しながら歩いたせいか ふたり共
息が切れるのが早く とくにチャンミンは
早朝からの移動で 疲れていたんだろう、
汗を滲ませ 苦痛に顔が歪む。



その時初めて 脚を止め 振り返った。



『   …大丈夫…  』


大丈夫なのはわかっている。
目で見て声に出して確認した。
数メートル先に 自販機を見つけ
ちょっと待ってて、と 植え込みのブロックに
チャンミンを座らせ 走った。


ペットボトルの水をぶら下げ
戻ると 肩で息をしていたチャンミンが
少し楽そうに呼吸していた。



『  ほれ。』



額に冷えたペットボトルをあててやると
きゅっと肩を窄め 気持ちいい、と。


『   …嫌な思いばっかりさせて ごめん。』



チャンミンは黙ったまま 
頭を横に振った。



『  ここがどこかわかんないけど、
なにかテイクアウトして ホテル帰ろうか。』



「   …クス、  はい。」



とにかく 人目のない場所で
落ち着いて話がしたかったから
チキンやなんかを買って チャンミンの
道案内で 無事ホテルに帰り着いた。


ここは ホテルといっても 観光用というより
出張中のビジネスマン向けの 要は
長期滞在型ビジネスホテルだから
小さくてもキッチンもあるし
ただ ベッドが それほど大きくないのが
残念である。



「   綺麗にしてる!」



チャンミンの第一声だ。


『  帰って寝るだけだし。 』



「   …思い出します、初めて
光州に出社した日、ふふ。」



…笑った。

ソウルに来て 辛いこと続きで
ずっと強張った表情だったチャンミンが
俺の部屋が綺麗だって笑った。



『   さ、食べようか。 』



「  はい、  あ、手洗って? 」


『  ん。』


「  うがいも。」


『   うがいも?』


「  うがいも。」





食べ終わっても チャンミンは
忙しなく動き続ける。
あちこち開けては 洋服を畳み直したり
カーテンを開けたり 閉めたり。


『   なあ、座ったら?』


「  あ、うん。    カーテン開けとく?
それとも、」



『 どっちでもいいよ、 おいで、ここ。』


「   …ん。」



ふぅとため息を吐いて チャンミンは
諦めたように ベッドの端に腰掛けた。



「   …いろいろありすぎて… 」


『   そうだな。 ほんと悪かった。
ネクタイなんか頼んだばっかりに。』


カバンから 細長い袋が 顔を出している。
それを見つめて 俺も ふぅと 鼻から
長い息を吐いた。



「    …行きつけ、だったんですね。 」



『  ん、あいつの な。  俺は たまに
ついて行った程度だけど…  』



「   …ネクタイ…もったいないな… 」



『   いくら言っても 着けないからな。』



「   …わかった。」




その時 チャンミンは 思っていたそうだ。
自分より あいつが選んだネクタイの方が
俺に似合うんだろうな、と。

そして あんな報道が出たせいで あいつの
身のこなしは 堂々としていた、と。
ネクタイを押し付けられて 断った時
お前にやるんじゃない、と 言われたそうだ。
それで そうだな…って 受け取ったと。




『   …今度 俺に選んでくれる?
光州のモールで。』



「  モールで?」



『  ん、 俺はブランドなんて どうでもいい。
お前が俺のために選んでくれるなら
それが俺にとってハイブランドだよ。 』



「  ユノさん…   嬉しい、  って!
良いものはいいんですよ?  ふふ。」


『  わかってる。でも どうせ デスクの書類に
埋もれるんだから。』




「  そうだ、挟まってた!」


丸くて大きな瞳が揺れている。
俺より小さな手が 笑うたび
口元を覆って…



『   チャンミン、  キスしていい?』


久しぶりに会ったのに 口づけることすら
忘れるほど 多くのことがあった。
そして 口づけた後 いよいよ俺は
話を切り出した。


『   …聞かなきゃ駄目なんだ…
イ部長のこと。』



「    … はぁ…   」




両手で顔を覆うと今度は大きく
ため息を吐いて。

息を吐き終わった後 顔を上げて
口を開いた。




「     …僕を忘れられない、 って…  
勝手だよね、ほんと…に…  」








つづく。







おはようございます。


今日も もくもくした雲は分厚そうです。
昨日は 長時間 手芸をしてたら
楽しくて。
やっぱり 好きだなーと思いました。
でき上がったら また見てね。


今日は火曜市だなぁ。
すごい人だろうなぁ…
でも 冷蔵庫が空っぽなんだなぁ…


それでは。
今夜は 大家さんちを 覗いてみましょう(笑)

いつもありがとうございます。

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