暗殺の森
1970年/イタリア/107分
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミニク・サンダ、ステファニア・サンドレッリ、ピエール・クレマンティ、エンツォ・タラシオ、他
おすすめ度(5点中) → 4.5点
――― あらすじ ―――――――
若い哲学講師のマルチェロは少年の頃、彼を犯そうとした男を射殺した罪悪感に今もさいなまれていた。その苦しみから解放されるためファシズムを選択した彼に、パリ亡命中の恩師である教授を調査するよう密命が下る。ハネムーンを口実にパリに赴いたマルチェロと妻ジュリアは、快く教授に迎え入れられた。だが、恩師の若妻アンナには目的を悟られてしまい、敵意を抱かれると同時に深い仲にもなってしまう。やがて、別荘に向かう教授夫妻は、マルチェロの目前で暗殺されるのだが……。(allcinemaより)
――― 感想 ―――――――
けっこう前ですが、やっと良心的な値段で今作のDVDが出たので購入!やっぱ名作だー!
主人公マルチェロ。彼は幼いころに経験した出来事から、「正常な人生」を送るためにファシズムを選択する。
▲マルチェロ。ジャン=ルイ・トランティニャンの“何か抱えた”ような表情がたまらない。
▲マルチェロが子供の時経験した出来事。それは自分を犯そうとした軍人リーノを拳銃で射殺したことだった。
ファシズム台頭の時代にそこに身をおく保身的な態度、なにか大きなものに浸かっている絶対的な安心感、与えられた任務に服従する一見献身的な姿勢……。
マルチェロが選択したファシズムという生き方は、正しいのだろうか?
彼は、反ファシズム運動の中心人物・クアドリ教授に接触する役割を自ら申し出る。
実はクアドリ教授はマルチェロの大学時代の恩師だったのだ。顔見知りだからこそ、接近も容易というもの。さっそく彼は結婚したばかりの妻・ジュリアとの新婚旅行の道中に、計画を実行していくのだが……。
▲マルチェロと妻のジュリア。新婚旅行に向かうこの列車のなかで、ジュリアは自分が処女でないことを告白し、マルチェロと愛し合うのだ。
ジュリアという女性は金持ちの世間知らずみたいな登場をするけれど、実は未成年のころ6年間も60歳ぐらいのおじさんと肉体関係を続けていたっていう女なんです。でもこの告白をきいて、マルチェロは欲情しているんですよね。それは小さいころに殺人を犯してしまった自分とジュリアが、“罪人”として同じ立ち位置にいるのを確認したからなんじゃないでしょうか?「この雌豚め!大好きだぁ」って感じですかね(笑)。
ファシストのマルチェロ、反ファシストのクアドリ教授。光と影でつづられる映像は、その人物の状況を示唆しています。光に位置するクアドリ教授、しかしマルチェロがみるクアドリ教授の表情は暗く見えない。
▲マルチェロの友人イタロ。
彼もファシストなのだが、イタロは盲目という設定なんですね~。
先述したクアドリ教授とマルチェロの光と影の関係からも分かるように、生きる目的を見定めているものと見失っているものの対比が見てとれますね~。イタロは、マルチェロの盲目性が形を帯びたものと考えることもできます。
▲しかしながら、マルチェロはクアドリ教授の妻・アンナに恋をしてしまう。
実はこの時点でマルチェロの目的は組織の命令により変わっているんです。
クアドリ教授の動向調査ではなく、クアドリ教授本人を直接殺せ。これがマルチェロの任務だったのだ。
▲クアドリ教授は殺さなければいけないが、アンナは好きだからどうしよう???
マルチェロは任務と情愛の狭間で、なかなか殺害へと踏み切れないんですね~。
▲そんなマルチェロの見張り役ともいえる、マンガニエッロ(左)は、「グダグダやってないで、はよクアドリ教授を殺さんかい!」とマルチェロをたしなめる。
彼はマルチェロを夢から現実に引き戻すファクターなんですね~。これが映画においてメリハリを生んでいて大変気持ちいいんですよ。
▲あまりにも有名な、ダンスシーン。うっとりしますな~。
▲そんな状況のなか、クアドリ教授は旅行に出かける道中、4人の男たちに暗殺される。
▲その状況をじっと見守るマルチェロ。
クアドリ教授が殺され、残されたアンナは必死に逃げる。逃げる途中、彼女はマルチェロに助けをもとめるが、マルチェロは助けもしないし、持っていた銃で何かを解決(アンナを自らの手で殺す。またはアンナを救うために暗殺者4人を追い払う)するわけでもなく、傍観しているだけなのだ。
これぞ順応主義者の生き様。自ら何かをするわけではなく、大きなものに抗う勇気を持たない。
そんな腑抜けに愛想をつかしたマンガニエッロは一人毒づいているんですね~。
ちなみに、クアドリ教授とアンナ殺害のこの雪山シーンですが、素晴らしい映像です。
あたかも自分が雪の中にいるかのような臨場感があるんですよね~。
こうして、クアドリ教授は死に、アンナも死んでしまうんです。
そしてそれから何年かして、ファシズムが崩壊してしまうんですね~。
▲ファシズム崩壊を受けて、いよいよ自分の旦那(マルチェロ)の立ち位置は厳しくなるな~、っていうかクアドリ教授とアンナを殺害事件に絡んでいたのも私知ってるんだからね、でも私はあなたについていくって決めてたし……。みたいな思いで、とても正視できないほど厳しい表情になっているジュリア(文章ながいっつーの)
いや~、この映画はアンナを演じたドミニク・サンダに注目がいきがちだけど、ジュリア役のステファニア・サンドレッリも相当美人ですよね~。
んで、マルチェロはファシズムをともに信じてきた友人イタロと街であうんですが……。
▲なんと、街で自分が子どものときに殺したはずの軍人リーノを発見するんですね~。
この瞬間、彼の行動原理の根っこが崩れてしまうんです!
殺人をしたことが原因で、正義だと思い込んでいたファシズムに身を置いていたマルチェロ。
しかし、そんなファシズムも崩壊したし、リーノは生きていたし……。俺の拠りどころはどこにあるんだ~?
▲最終的には友人であるはずのイタロまでも裏切って、マルチェロは保身を図る。
一体彼の人生は何だったんでしょうか?
不安定でうつろいやすく、何も残らなかったマルチェロの生き様。
そんな彼が最後に目を合わせるのは、リーノがさっきまで口説こうとしていた少年である。
少年は幼き日のマルチェロのイメージと重なり、そして現在のマルチェロは当時マルチェロを犯そうとしていたリーノのイメージと重なっていく……なんとも深い余韻を残して映画は幕を閉じてしまいますね~。
29歳でこんな大傑作を撮ったベルナルド・ベルトリッチもすごいですが、僕はやっぱり光と影、耽美主義者が発狂しそうなほどに美しい映像を撮りあげたヴィットリオ・ストラーロの功績が一番大きいと思います。