「まっ赤じゃないですか」
ピピのおしっこを見たお医者は、おおきな声を出しました。
「たまねぎを食べさせたでしょう」
「いいえ」
わたしだって、たまねぎが犬のからだに悪いことくらい、知っています。
「きのう、魚の煮つけを食べましたけど、ねぎは入っていません」
ピピは、ドッグフードの他に、時々ほんのちょっとだけ、わたしと母のお相伴をするのです。
お医者は、少し考えていました。そして
「おたくは、水場(みずば)の山の近くですか? Mさんちの?」
と、わたしに聞いたのです。
「はい」
水場というのは、うちがある場所の、となりの地域の名前です。
お医者はピピの血をとり、顕微鏡にかけました。
そして、こう言ったのです。
「バベシアという原虫(げんちゅう)がおこす病気です。
この原虫は、限定された地域・・水場の山もそうですが、ある地域に特有のダニが媒介します。
Mさんちのパグも、これにかかりました」
原虫というのは、たった一つの細胞でできた生物のことです。
そして、このバベシアという原虫は、ダニによって運ばれる。
さらに、どこにでもいるというわけではなく、限られた場所だけにいるというのでした。
そういえば、このごろ、ピピは母につれられて水場のロッキーの家へ出かけていました。
その裏山の、くらい藪(やぶ)でいっしょに遊んでいたのです。
母の話によると、手術から回復したピピは喜びいさんでロッキーを追いかけ、毛をむしりとったりしてひどくはしゃいでいたそうなのです。
「治りますか」
わたしは、それだけを聞きました。
「治ります」
お医者が、答えました。
「まだ元気なうちにわかったし」
これで、わたしはほんとうにほっとして、診察台の上のピピの頭をなでました。
「よかったねえ、ピピ。なおるって」
こうして、ピピはその日、背中と腰に一本ずつ注射をしてもらったのです。
そして、明日は日曜日で、病院はほんとうは休みの日なのだけど、朝の八時に行けば二度めの注射をしてもらえるのでした。
つづく月曜日にも、注射をします。
ただ、この注射の薬はバベシア虫を弱らせますが、ピピ自身にも副作用がひどく、三日以上はつづけられません。
たから、そのあと、十日おきに三回ほど注射をします。
するとピピのからだの中のバベシア虫が減り、ピピは治っていく・・
という計画なのでした。