エリザベート 1878

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オーストリー・ハンガリー帝国の実質的には最後となった皇帝、フランツ・ヨーゼフ1世(フロリアン・タイヒトマイスター)に、16歳で嫁いだエリザベート(ビッキー・クリープス)。バイエルン公国の王家の傍系の出身で、比較的自由な幼少時期を送ったとか。

それが皇后となって国民の注視を浴び、憧れの象徴「麗しき皇后」たらんと務めてきた。1878年には40歳を迎える。この年齢になれば、美貌にも陰りが見え始める。この時代の女性の平均寿命は40歳だったと医師は言う(今や日本女性は倍以上の86.39年!)。この1年の彼女の日常を追って淡々と描いていく。

原題は「Corsage」つまりウエストを締め付けて体系を整えるコルセット。彼女の窮屈な、締め付けられる生活、彼女の美に捉われた心の象徴か。いきなりギュウギュウ締め付けるシーンから始まる。食事も薄くカットしたオレンジだったりと、ダイエットにも気を使う。

エリザベートは病院の慰問などにも努めるのだから、何も美貌だけでない心の深さを示すのでも十分と思うのに、そこまでなぜ表面の美に拘ったのか。そして宮廷の窮屈さから逃げるように旅に出る。

史実としてもオーストリー贔屓で厳格な姑のゾフィー大公妃と、ハンガリー贔屓のエリザベート、この軋轢を避けてあちらこちらの旅に出て、宮廷に落ち着かなかったらしい。

面白かったのは、発明されたばかりのキネマトグラフの撮影で、馬に乗ったり、飛び跳ねたりする姿が、当時の技術だからモノクロでぎくしゃくとした映像が挿入される。当時は「声は入らない」のですね。

旅先のジュネーヴで、無政府主義者のイタリア青年に刺されて亡くなる61歳まで、ずっと彼女はほっそり体型を保ったとか。172㎝と背が高く、ウエスト51㎝、体重43~47㎏、つまりBMI(体重㎏÷身長²)は15くらい。18~24くらいが適正体重だから、もう絶対に痩せ過ぎなのにダイエットするって、強迫神経症的。
*BMIはここで計算できます。

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皇后の窮屈さとエリザベートの自由に羽ばたきたい心情はよく分かったが、それが煙草を吸ったり、入れ墨や、コカインに頼ったり、気に入らない男の言葉に気を失ったふりとか、指を立てて侮辱したり。こうした行動も、自分の美貌にこだわる姿もなんとも我儘で愚かしく哀れに見えてしまう。


結局は年齢とともに失われる若さと美貌の自縄自縛から逃れ得なかったエリザベート。彼女の心の拠り所がほかに見出せたならもっと心安らかに、そして厳しい時代を統率しなくてはならない夫を支えて過ごせただろうに。息子や娘の方がずっと立場をわきまえているように描かれてもいた。共感も応援もし難い人物像だったのは残念。

ヴィッキー・クリープスは同じ40歳だとか。あいにく美貌とは思わないけれど、誇り高さと、もてあます不安定な感情など濃やかな表情で適役だったと思う。ウエストはもともとあんなに細かったのかしら?


コルセットは、若い頃は私も鯨の口髭を何本か入れてあるような胸からヒップ迄まであるものやショートコルセットなどを持っていて、お出かけ時には使用していた。そういう時代だったのね。確かにウエストはほっそり、お腹は出ないし、今の方が必要だけれど、あの窮屈さは今さら我慢できないな。