身の危険を感じた瞬間ベスト1 | 世界一周行ってきます!と果たして言う事ができるのだろうか
外国を旅していると、身の危険を感じることがある。


過去に訪れた国は二十カ国あまり。
僕が一番身の危険を感じた瞬間…


それは、
強盗多発国ボリビアで夜を明かした時。

ではなく。

中国・昆明の寒空の中、すべての宿に断られた時。

でもなく。

インドの怪しげな旅行会社に軟禁され、法外なツアーを組まれた挙句、断ったらキルユーと言われた時。

でもなく。

灼熱のヨルダン・ペトラ遺跡で迷子になりかけた時。

でもない。

はたまた、ネパールで高山病にかかり標高3000mで嘔吐した時。

でもない。

カンボジアのトイレで謎の錠剤を強制的に買わされそうになった時。

でもない。

そして、
ヨルダン・アンマンで荒野に連れられ、強盗にボコボコにされた時。

でさえない。
(↑旅行、向いてないかなぁ…)

今回は、
最も身の危険を感じた。

テロの恐怖の話。





2011年のゴールデンウィーク。

ぼくは一人でバリ島にいた。

ダイビングをすべく、タクシーでバリ島の北側にある海沿いの街へと向かっていた。

運転手は40歳近いのに、大きなピアスをした、DA PUMP一茶似の男。
通称、一茶。

一茶とは前日もウブド周辺を回っていた。明るい性格で、話しも弾み、ケイタイの待受にした息子の写真を見せてきたりもした。


そして今日も、ぼくを北の街まで運んでくれるはずだった。


一茶のタクシーに乗って一時間程経過した時だろうか。

一茶は運転しながら、ケータイで誰かと話しをしていた。外国ならよくある光景だ。ちなみにバリではお客さんは助手席に座る。


電話を終えた一茶はケータイを左手に持ちながら、運転に集中したようだった。

ふと、

ぼくは一茶の左手に握りしめられたケータイを見た。

かわいい息子の写真をもう一度見たかったのかもしれない。


目を向けた瞬間、ぼくは固まった。


ケータイの液晶画面には昨日まであった子供の幸せそうな笑みはなかった。

シニカルな笑みが、その顔にはあった。あご髭をたくわえる、白いターバンを巻いた男性…

誰もが知る。

ウサマ・ヴィン・ラディン

だった。

いや、ただそれだけでは、ぼくは固まらない。

鮮明に覚えている。
けさ、Yahooニュースを見ていたら、飛び込んできたニュース。


「ウサマ・ビン・ラディン死亡」



そのニュースは、

今後、世界各地でテロ活動が活性化する可能性がある

という言葉でしめくくられていた。

そして、僕の運転手は、カワイイ息子の写真を、一夜にしてテロリストの写真に変えていたのだった。

もしや運転手、一茶はテロリスト!?



2002年10月12日
バリ島いちの繁華街、クタで自動車爆弾が爆発し、ディスコを含む大きな建物が吹き飛んで炎上。外国人観光客など202人が死亡した。

バリ島はヒンズー教徒が多いが、インドネシア全体で見れば、イスラム教国家。イスラム過激派も存在する。



何分バックライトに照らされたケータイの中のウサマ・ビン・ラディンを見つめていたのかわからない。

気づけば、運転手の一茶がじっとこちらを見ていた。

ヤバイ…


平静を装わなければ。

瞬時に目をそらし、流れる景色を、まるで少年の様に興味津々の表情で楽しんでいる振りをした。

そして考える。

奴はテロリストなのか?

耳の派手なピアスが、彼の野蛮振りを象徴しているかのような気がしてくる。

もし奴がテロリストなら、ぼくは一体どこに連れてかれるのだろうか?

アジトに監禁されて……

はたまた爆弾を積んだ車を運転させられて…

その先にあるのは、死。

それでも車は猛スピードで北上していく。もう止まれないのだ。

こんなことなら、ちゃんとインフォメーションでタクシーを頼めばよかった…



一茶「これがだれか分かるか?」


突然、

一茶は左手でぎゅっとつかんだケータイを軽く持ち上げて、僕に聞いてきた。

穏やかな口調で。

え?

強張る表情。

どうやら僕が無意識のうちにチラチラ彼のケータイを見ていたようだった。


一茶「誰かわからないのか?」

わからないわけがない。

僕「ウサマ・ビン・ラディン。昨日、死んだ」

殺された、と表現した方がよかったか?しかし、こんなデリケートな場面を乗り切るほど、ぼくは英語が達者ではない。


一茶「マイ ファザーだ。」

ぼくは耳を疑った。

僕が「ユア、ファザー…?」

大きく縦に首を振る一茶。


父なるビン・ラディン


ってことか。

かれはテロリストなのか。

そして、ぼくはそれを知ってしまった。

ケータイなんて見なけりゃよかった。

窓の外をバリののどかな風景が流れる。
一方、ガラスを挟んで絶望的な僕がいる。
田植えを行う農夫。
楽しそうに笑う親子。
ああ世の中はなんて不公平なのだろうか。

一茶「君はアメリカをどう思う?」

人生で一番難しい質問だった。

僕「戦争はよくないと思います。」

そっと一茶の方を見る。

一茶「アメリカのやり方はダメだ!」

つよい口調。

一茶「でもビン・ラディンはファックだ!」

?????

僕「でも、ファザーって…さっき…」

突然笑い出す一茶。

一茶「ファザーのわけないだろ。人種が違う。」

???

一茶「ジョークだよ。」

どうやらバリジョークのようだった。

これが一番命の危機を感じた話。