夏の日の思い出 | 【引き寄せの法則】の講話録 

 

 

あれは、いつのことだったのか……。

 

 

時は昔、季節は真夏で、蒸し暑い夜のことでした。まだ私が若かった頃の話です。

 

 

当時から、どこにでもいる平凡な占い少年であった私は日々、占いの研究に勤しんでいました。

 

 

友人に占ってほしいと依頼されては、恐ろしいまでの的中率を誇り、私の友人界隈と、その周囲という、狭い世界に限って言えば、ちょっとした有名人となっていました。

 

 

私のアドバイス一つで、幸運を掴んでいく友人達からは感謝され喜ばれていました。

 

 

 

しかし、当時の私はそれでも一抹の不安がぬぐえませんでした。世の大半のオカルト好きがそうであるように、頭の半分では信じている自分と、もう半分では信じていない自分とが常に同居していたのです。

 

 

それと言うのも、占いという物は、どうでも良いものと、重要すぎる案件の両極端な内容は、比較的外れやすかったのです。

 

 

そして、中程度のほどほど重要という案件にこそ、高度の的中率が出るものだということに、私は経験から気づいていました。

 

 

しかし、それがなぜかという明確な真理に行き着くことが出来ずに、日々悩み暮れていました。

 

 

 

 

そんなある日、私は友人たちとドライブに出かけることになったのです。当時は、日々、車で遠出をするのが、慣例となっており、その日も、出来るだけ遠くへ行こうぜ、という事になったのでした。

 

 

友人たちと集まってドライブ、しかも青春まっただ中の時期と言ったら、決まって誰もが通る道なのが、『心霊スポット巡り』という恒例行事です。

 

 

当時は仲間内全員が、心霊スポット巡りに熱中しており、次はもっと恐いところ、次はさらに恐いところと、段階的にエスカレートしていっている時期でした。

 

 

今思えば、その時は、最大の過渡期だったのかもしれません。

 

 

友人の一人が言いました『今日は○○に行こうぜ』 と、ここでその場所を告げるのも恐ろしいので、都内某所。もっと言うと西の方の森の中、とだけ言っておきましょう。

 

 

 

 

私たちは当時、茨城県に住んでいたので、そこから東京都内、ましてや西の方になると、道中、かなりの時間がかかりますが、当時としては反対する理由などありませんので、全員が諸手をあげて賛成しました。

 

 

車中、その言い出しっぺの友人が、誇らしげに、いかにその場所が恐ろしいかを熱心に説明していました。それは丁度、夏の怪談話のようで、如何に盛り上げるかが大事だったからです。

 

 

肝試しの類いというのは、行ってからというよりも、行くまでの過程を如何に盛り上げられるのか、という事にこそ、その真の醍醐味があるのです。

 

 

その友人の話によると、その場所は深い山の中にある、今は使われていない小さなトンネルとのことです。元々は、戦時中、防空壕として使われていた場所のようなのですが敗戦後に、その穴をトンネルに改良したものだと言うのです。

 

 

 

その話の内容だけを聞いて、私は、さほど恐いとは思いませんでした。なにか怖さに欠けると思ったのです。

 

 

車は丁度、国道六号線を走り抜け、東京都内に入り込んだ頃でした。おそらくは、夜とは言え都会の喧噪のまっただ中を走っていては、どんな怪談話も迫力に欠けるのでしょう。

 

 

今、振り返ってみれば、身の毛もよだつような話しに感じます。が、そのときは、それまでに行っていた数々の心霊スポットの方がよっぽど、恐そうなネタを持っていたからでした。ある意味、感覚が麻痺していたのかもしれません。

 

 

途中、新宿付近のコンビニに寄り、食料と飲料水、ろうそくやライターなどを調達し、大型のデイパックに詰め込みました。

 

 

 

 

夜は長い。

 

 

頑張れば日帰りできる距離とは言え、出発は遅かったわけです。そのまま、心霊スポットの、ど真ん中で、野宿をする位の算段でいました。それでこそ、当時、怖さに慣れすぎてしまっていた私たちの心に火をつけるというものでした。

 

 

しかし、都内とは言え、西へ進めば進むほど、だんだんと雰囲気が変り始めました。

 

 

煌びやかな夜のネオン街を横目に滑走していたはずが、ほんの少しの時間の間に、東北の田舎の山並みのような景色へと徐々に移り変り始めたのです。

 

 

 

 

車中、窓から見える夜の色は、新宿の都会を走っている頃は、黒だったのですが、同じ黒でも何かが違う、墨汁のような黒へと変わり始めました。

 

 

それを感じていたのは、私だけではなかったというのを、証明するかのように、調子に乗っていた仲間達の口数も減り始めます。

 

 

一刻ほどの時間が過ぎた頃でしょうか。

 

 

車は、路肩に引き寄せられるように、滑らかに吸い込まれ、完全に沈黙しました。

 

 

『ついた……』それが、静寂の中に、生まれ落ちた最初の言葉でした。

 

 

私たちは、恐る恐る車を降り、周囲を確認しました。そこは闇の中に、奇怪にねじくれた草木が生い茂っているだけで、人里離れた、穏やかで静寂な空間が広がっていました。

 

 

 

 

しかし、その静けさは、どこか立ち入ってはいけない、禁忌のような荘厳さをも同時に、醸し出していました。

 

 

そんな中、唯一の救いは、月の灯りが私たちの顔を識別させてくれる事でした。

 

 

言い出しっぺの、友人が先頭を切り、道なき道を行き、深い闇の中へと進行を開始して、二十分ほどたった頃でしょうか。

 

 

そろそろ、怖さにも慣れ始めてきた頃です。一人一人が雑談を、始めだし思いの外、怖さが消えかけてきた頃に衝撃が走りました。

 

 

 

 

仲間の女性のひとりが、急に叫び声を上げて、うずくまってしまったのです。

 

 

心臓を吐き出すほど驚いた私たちは、何があったのかと聞き出そうとしましたが、すでに話せる状態ではありませんでした。

 

 

とにかく、落ち着かせようと、私たちは、そこで腰を下ろし、ろうそくを灯し全員で囲みました。

 

 

なんとか落ち着きを取り戻してきた彼女から、聞き出せた事は、『誰かが、こっちを見ていた……』と言う事だけです。

 

 

 

 

こういう肝試しの場では、だいたい誰かが、ふざけてそのような事を言い出して、みんなを怖がらせるのが恒例行事なのですが、このときの彼女の雰囲気は異常でした。

 

 

それを全員が、感じ取っていたためか、重たい空気が漂い始めたのです。

 

 

こういう場合、退却するのか、進むのかを話し合うことになると思います。私たちもそこで、会議を繰り広げました。

 

 

中止という案も強かったのですが、結局は、今回は遠出だったため、目的地に着きもせずに退却するのはもったいないという事と、『これでこそ心霊スポットだ』という、もっともらしい意見が飛び交い、一度、彼女を車に戻し、また戻ってきて目的地を目指すという事になったのです。

 

 

今思えば、あれは、警告だったのだと思います。

 

 

素直に、そこで引き返していれば、読んで字の如く、警告だけで済んでいたのではないかと悔やまれます。

 

 

若さ故の好奇心が、結果、あのような凄惨な事態を巻き起こすことになろうとは、そのときの私たちには知る由も無かったのでした。

 

 

続く