Never Let Me Go(「わたしを離さないで」)(カズオ・イシグロ著) | 今日は何を読むのやら?(雨彦の読み散らかしの記)

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カズオ・イシグロの小説は、これまで「遠い山なみの光」、「夜想曲集」、「忘れられた巨人」などを読んできていますが、作品の舞台や手法が一作毎に大きく変わっています。それでも、この人にしか書けない唯一無二の小説を送り出し続ける力に、畏敬を感じずにはいられません。

 

この本は、英語のペーパーバックを買って途中で挫折していたのですが(緻密な描写が淡々と続くので、最初は少し忍耐力が必要)、オーディブルの助けも借りて再挑戦し、ようやく読了できました。

(ペーパーバックは字が小さくて、ちょっと老眼にはキツいんですよね((笑)。もしかすると、新装本はサイズが大きくなっているかもしれませんが)

原文で読んだあと、ハヤカワepi文庫で土屋政雄さんの日本語版で読み直しましたが、これも原作のイメージが違和感なく再現されています。言葉遣いも滑らかで読みやすく、良かったです。

 

読んだ本をここでご紹介する時、いつもであれば、ネタバレかどうかをあまり気にせずに書いているのですが、この本に関しては、どこまで書いてよいか悩んでしまいます。

ミステリー的な要素がある作品ということもありますが、筆者が緻密に考え抜いて作り上げた小説を読む感動を台無しにしたくないというと気持ちになります。

(日本でも、綾瀬はるか、三浦春馬、水川あさみのキャストでテレビドラマ化されていて、内容はある程度知られているとは思いますが)

 

ストーリーの最小限の紹介だけすると、登場人物たちは、ヘールシャムという場所にある施設で生活する子供たちで、主人公は、やがて介護人(ケアラー)となるキャシー。トミーという男の子、ルースという女の子の友達と共に成長し、大人になっていきます。外の世界とは隔離された施設で教育を受ける生徒たちは、他の人間たちとは違った存在で、悲しくも残酷な運命を背負わされていました・・・というところでしょうか。

(彼らを見守ってきた人は、ヘールシャムの生徒たちを、”poor creatures”(かわいそうな子たち)と呼んでいます)

 

世界には、愚かさがもたらす悲劇もありますが、ここで描かれるのは、人間たちが合理性を追求した末にたどり着く世界の残酷さであり、人間という生き物の宿命的な性分を感じてしまいます。

 

作品の背後には、そうした倫理的な問題への意識ももちろんあるのでしょうが、それだけではなく、抒情的な風景や、登場人物の心情の繊細な動きが、静かな語り口によって丁寧に描かれていることで、人の悲しみと切なさが一層強く胸に迫ってくるところが、物語としての魅力なのでしょう。

 

成長してヘールシャムを後にした主人公たちは、イギリス国内でいくつかの町を移動しますが、その中でもノーフォークへの旅が心に残ります。

 

 

かつて、生徒たちへの地理の授業で、エミリー先生がこういう話をします。

「ノーフォークは国の東端です。海に突き出す半島にありますから、ここからどこかへ行くということができません。北へ行く人も、南へ行く人も・・・」

「いまでも僻地であるのはそのためです。静かないいところですが、見方によっては、イギリスのロストコーナーとも言えます」

"Lost corner"という英語には、「忘れられた土地(僻地)」という意味と、落とし物が保管される場所「遺失物保管所」という意味があり、生徒たちは、イギリス中の落とし物が、ノーフォークに集められるのだという冗談を言って面白がりました。

 

そのノーフォークへの旅で、大人になったキャシーたちは思いがけず、いろいろなものに出会い、発見をするのです。それは、彼らが幼い頃から失い続けていたものとの再会や、空想を与えてくれる、秘密の場所だったのかもしれません。

 

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今日もお読みいただき、ありがとうございました。

 


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