馬鹿まるだし | 俺の命はウルトラ・アイ

馬鹿まるだし

『馬鹿まるだし』

映画 トーキー 87分 カラー

昭和三十九年(1964年)一月十五日封切

製作国 日本

製作会社 松竹大船

 

製作  脇田茂

企画  市川喜一

原作  藤原審爾(『庭にひともと白木蓮』)

脚本  加藤泰

    山田洋次

撮影   高羽哲夫

撮影助手 青本澄夫 

音楽  山本直純

美術  佐藤公信

録音  松本隆司

調音  佐藤広文

照明   戸井田康国 

編集  浦岡恵一 

助監督 不破三雄

装置 中島好男

装飾 鈴木八州雄

衣装  田口ヨシエ

現像 東京現像所

録音技術 土屋勵

色彩技術 倉橋芳宏

渉外事務 秦野賢児

録音助手 鈴木正男

照明助手 内田喜夫

進行 末松昭太郎

 
 
出演
 
松木安五郎  ハナ肇
 
夏子     桑野みゆき
 

八郎     犬塚弘

伍助     桜井センリ

山形     安田伸

先生     石橋エータロー

 

日之出巡査  長門勇

主水屋    三井弘次

辰巳屋    石黒達也

浄閑和尚   花沢徳衛
赤木会長   小沢栄太郎
 
 

きぬ     髙橋とよ

小万     園千恵子

旅一座座員  桜むつ子

静子     清水まゆみ

睦子     水科慶子

旅一座座長  松本染升

      

毛利前工場長 井上正彦

草加新工場長 土紀洋児

浦上町長   野々村潔

労組委員長  穂積隆信

清十郎の妻  久里千春

泥棒     渡辺篤

 

 

清十郎・語り 植木等

 

 

 

 

       阿部脩

       末永功

       山本幸栄

       園田哲也

       長谷川竜男

       桜京美

       新山ノリロー

       新山トリロー

       滝沢ノボル

       柳沢譲二

       青柳直人

       小林志津雄

       水木涼子

       秩父晴子

       竹田法一 

       人見修

       大杉莞児

       落合進之助

       本橋正一

       芦原健二

       荒瀬友孝

       坪井洋二

       栗原嘉明

       松崎眞介

       仲子大助

       二階堂博

       遠山文雄

       高木信夫

       朝海日出男

       高杉裕児

       園田健二

       川村直巳

       野沢浩志

       山本夛美

       小野千鶴子

       那須恵子

       彫真奈美

       深山悦子

       光映子

       針生ふみ子

       比良多見子

       寺田佳世子

       谷よしの

       後藤泰子

       河村百合子

       戸川美子

       村上記代

 

 

宮さん    藤山寛美

 

萬やん    渥美清

 

監督     山田洋次

 

加藤泰通→加藤泰

 

花沢徳衛=花澤徳衛

 

小沢栄=小沢栄太郎

   =小沢英太郎

   =小澤英太郎

 

松本染升=初代松本染升

    =松本錦三郎    

 

 

長谷川竜男→竜雷太

 

山田洋次=山田よしお

 

植木等はノークレジット

鑑賞日時場所

平成二十四年(2012年)八月二十三日

南座

 浄念寺僧侶清十郎は少年時代に出会った

風来坊男性松木安五郎を回想する。

 

 瀬戸内海の穏やかな街の浄念寺の浄閑和

尚はシベリヤ帰りの安さんこと安五郎を気

に入り寺での暮らしを許した。

 

 安五郎は住職の妻夏子の美貌に感動し秘

かに恋する。浄念寺の少年清十郎を安さん

は可愛がる。

 

 安五郎は町の劇場に出演し暴れた怪力男

を倒し人気を博した。八郎という乾分にも

恵まれた。

 

 インフレの影響が町にやってきた。町の

工場にも労働争議が起こった。安五郎は労

働者の苦しみを思い赤木工場会長に談判を

申し込み要求を飲んでもらう。

 

 夏子への想いが知れ渡り、安さんは浄念

寺への出入りを禁止される。

 

 旅一座が上演した演劇『無法松の一生』に

おける車夫富島松五郎の吉岡良子への片想い

は、安五郎にとって夏子への想いと照応する

ものであった。

 

 ダイナマイトを所持した三人組脱獄囚が

辰巳屋の娘静子を拉致して立て籠もった。安

さんは静子奪回を試み救出するがダイナマ

イト事故で視力を失う。

 

 安さんが亡くなった後、その豪快な生き方

を清十郎が確かめる。

 

 夏子の弟清十郎は成人し僧侶として門徒の

家に伝道を為す。

 

 ◎純真馬鹿物語開幕◎

 

 山田洋次は昭和六年(1931年)九月十三日

大阪府に誕生した。父は満鉄のエンジニアで

洋次は二歳で満洲に渡り、昭和二十二年(19

47年)一家で大連から日本に引き揚げた。

 東京大学に学んだ洋次は学生時代、前進座

映画にエキストラとして出演したという。

 松竹に入り助監督として勤務し、脚本家とし

ても活躍した。

 

 

 加藤泰(かとう・たい)は大正五年(1916年)

八月二十四日に兵庫県神戸市に誕生した。昭和

六十年(1985年)六月十七日に六十九歳で死去し

た。                         

 映画監督・脚本家・映画史研究者・評論家と

して昭和日本映画・日本テレビドラマを支えた。

男女の愛における情念を深く華麗に撮った巨匠

である。叔父に山中貞雄がいる。伊藤大輔に師事

し、師が活動大写真で現した抵抗精神に学び、

自作において確認し新たに明かした。

 明朗軽妙な演出においても才気を見せた。昭和

三十三年(1958年)三月十一日封切の東映京都製

作による監督作品『源氏九郎颯爽記 白狐二刀流』

に山田洋次は感動した。山田洋次と加藤泰は文通

を始めた。加藤泰は好きなチャンバラ映画を作った

だけと返事を山田洋次に送ったが、手紙は嬉しかっ

たと伝えた。

 

 

 昭和三十六年(1961年)十二月十五日封切

『二階の他人』が山田洋次第一回監督作品であ

る。昭和三十八年(1963年)四月十八日に第

二回監督作品『下町の太陽』が公開された。

 

 第三回監督作品『馬鹿まるだし』は山田洋次

初のカラー監督作品である。野村芳太郎が忙し

くて脚本の直しを加藤泰に頼んだ。加藤泰・山田

洋次のチームが具現した。

 

 主演はハナ肇が勤める。ハナ肇は昭和五年(

1930年)二月九日に誕生した。本名は野々山

定夫(ののやま・さだお)である。平成五年(1

993年)九月十日、六十三歳で死去した。

 三十四歳で暴れん坊で純情一徹な安五郎を熱演

した。

 

 犬塚弘・石橋エータロー・安田伸と「ハナ肇

とクレージー・キャッツ」メンバーが共演した。

谷啓は出ていない。

 植木等は清十郎・ナレーターで出演した。東宝

との関係でノークレジットとなった。植木等自身

がクレージー・キャッツの要リーダーハナの映画

への期待を山田洋次に伝え、自身の出演も熱望し

実現したという。東宝へは植木等自身が説得を

試みノークレジットで快諾を得たという。

 

 2012年8月23日南座上映で植木等の濃い声の

語りがスクリーンに響き、「あれ、クレジットに

植木等の名前無かったよな?」という想いが湧い

てしばらく疑問が心に起こっていた。鑑賞時事情

を知らなかったのでノークレジット問題が心に引

っかかってしまった。

 

 清十郎が少年時代に会った風来坊安さんの豪放

磊落な生き方を回想する。馬鹿を極めて驀進する

安五郎は無敵の暴れん坊だ。夏子への片想いの切

なさをハナ肇が繊細に尋ねる。

 

 桑野みゆきが綺麗だ。

 

 犬塚弘が兄貴分思いの八郎をじっくりと演ずる。

 

 劇中劇に『無法松の一生』が上演され、松五郎

の片想いと安五郎の片想いが呼応する。

 

 馬鹿に徹する暴れん坊がやくざな在り方を貫く。

こころには美しい女性への片想いを秘めている。

山田洋次監督が大切にする物語の在り方だが、最

初の男性スタアはハナ肇であったことを強調し

たい。

 

 花澤徳衛・石黒達也・初代松本染升・小沢栄

太郎といった名優達が短い出番で豊かな存在感を

見せている。

 

  誰でもがとても好きになってしまうような、

  そういう男として愛して描こうという気持

  で、作ってみたんだけれども、オールラッ

  シュを見たら、バランバランのひどい映画

  で、もうだめだと思った。しかし、映画館

  に行ってみたらばかばかしくみんな笑うん

  ですよ。自分でもびっくりしたことがあり

  ますね。何でこんなにおかしいのかと。こ

  のとき初めて、待てよ、これは喜劇なるも

  のが僕にも撮れるのかと思いましたね。

  (『世界の映画作家14 加藤泰 山田洋次』

   「山田洋次・自伝と自作を語る」

   昭和四十七年一月一日発行 キネマ旬報社)

 

 山田洋次はラッシュを見て「駄目だ」と無念を

感じたが、映画館観客が笑う光景に客席において

接して、喜劇を撮れるかもしれないという感覚を

確かめたことを語っている。

 

 安五郎の献身を清十郎が回顧し想うという構成

で切なさが心に染みる。笑わせてしみじみと心を

打つ。

 

 藤山寛美・渥美清にとって、初の山田洋次監督

作品出演となった。

 

 安五郎の生涯が確かめられ、大人の僧侶になった

清十郎がバイクで檀家のお宅に伝道に行く。植木等

の笑顔が強烈な印象を与えてくれる。

 

 ハナ肇・山田洋次の馬鹿野郎純情片想い活動大写

真が幕を開けた。

 

 喜劇よりも哀切物語の印象が強いが、山田洋次が

馬鹿に徹する生き方を主題に選んだことを本作は

教えてくれる。

 

 安五郎の初心な馬鹿っぷりをハナ肇が体当たりで

表した。

 

 

                     合掌

 

                     合掌