皆さん、こんにちは照れ

 

そろそろ年末ということで、スーパーは正月準備の買い物客で大賑わいでしたデレデレ

あー今年はちゃんとお雑煮練習しよう・・・・・

 

 

前回のあらすじ

ソリとイクスは漢陽から歩いて半日のウナム寺に行くことになった。出立までの数日間、彼らは家族水入らずで過ごす。しかし、出立まであと3日という日の夜、チョンミンが来て水面下でソリを捕らえようとする動きがあることを伝えた。それにはイ・グァンヒらが関与していた。危険を知り、イクスはすぐにソリとチョンホを寺に向かわせる。しかし、道中、チョンミンがつけてやった内禁衛の軍官の数人が裏切り、ソリを殺そうとする。黒幕に心当たりのあったソリは、最期の瞬間チョンホに手掛かりとなる言葉を残す。数刻後、ウナム寺の居士が探しに来た時にはもう全て終わっていた。母の体にしがみつくチョンホを居士が介抱し、寺に連れて帰った。

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怒り

 

 ソリの死から3ヶ月が経っていた。

イクスは毎晩酒を浴びるように飲み、スボクらが時々訪れ彼を介抱した。あれからチョンホはウナム寺にいた。居士に連れられた後、高熱を出し数日間目を覚まさなかった。その後回復に向かっているという知らせが来たものの、イクスはまだチョンホを迎えに行く気にはならなかった。

イクスは免職で済んだ、本来なら大罪であるが、スボクらが尽力して各方面に働きかけ、さらに燕山君にとっても有害な人物ではなかったことから、不注意による失態として免職になり、領地の多くは没収された。だが、命が助かっただけまだましであった。

チョンミンは内禁衛の軍官の裏切りに真っ先に気が付き、内禁衛将に訴えた。その結果、彼も免職になった。軍官は、政治闘争に直接関わってはいけない、ただ静かにやり過ごし、組織を守る。これが内禁衛将の方針だった。そのため、チョンミンが内密の命令をイクスに漏らしたことは当然罪に値するだけでなく、軍官としてふさわしい行為ではなかったと。

当然納得できる言い分ではなかったが、燕山君が日に日に士林派を目の敵にする中、彼自身も身の危険を感じた。さらに、スボクの助言もあり、チョンミンは目立たないように暮らすため漢陽を離れた。イクスに詫びの手紙を残して。

ミョンホン、スボクは官職を自ら辞した。イクスの二の舞を恐れたこともあるが、宮中に希望を失ったからでもある。しかし、ミョンホンは諦めていなかった。いつかこの乱れた世を正すため、今は着実に勢力を増やそうと考えていた。

一方のスボクは複雑であった。普段からイクスへの友情と嫉妬が内心渦巻いていたスボクは、今後に及んで激しい罪悪感を持った。ソリの死で打ちひしがれるイクスを見て、彼らの結婚を一瞬でも阻止したいと思ったことを悔やんだ。彼はついに、自らの力量の限界を知った。自分は完全な善人でもなければ、完全な政治人でもない。彼が必死に打ち込めることは、昔からただ一つ。儒学であった。彼は父親の書房を継ぐ決心を固めた。

 

そして、最も問題なのが、まだたった5歳のチョンホである。

才能豊かな彼を潰しかねないと、皆がイクスの憔悴ぶりを見て案じた。スボクは遂に決心し、チョンホをウナム寺からイクスのもとに連れて帰ることにした。

しかし、チョンホを見るなりスボクは衝撃を受けた。チョンホはもとのチョンホではなかった。あのはつらつとした雰囲気は消え去り、人の気配がすると怯え、隅でじっと固まっていた。何より、スボクのことを覚えてさえいなかった。いや、それどころではない。彼は全ての記憶を失くしていたのだ。

スボクは、チョンホなら何か知っているのではないかとずっと考えていた。そのことをイクスに言うと、何も言わずまた酒を一杯空けるだけだった。だが、きっとソリは何かチョンホに言い残したに違いない。もしその言葉をイクスに伝えることが出来たなら、この父子にとってせめてもの救いになるかもしれない。

だが、チョンホが何もかも忘れてしまった今、全ては水の泡だった。むしろ、より大きな試練となってしまった。スボクは不安を感じたが、怯えて何も言わないチョンホを無理やり連れ、漢陽に帰ってきた。

イクスは相変わらず昼間から酒を飲んでいた。このままでは死んでしまうのではないかという量であった。

「イクス。少し聞いてくれないか」

スボクはイクスの前に座った。

イクスは全く反応しない。

「チョンホを連れて来た」

イクスは顔を上げた。

「あの子はまだ体が悪いようだが、お前と同じく傷ついている。2人で・・・」

「チョンホなら、あの子なら知っているのではないか?」

唐突にイクスは声を上げた。スボクは驚いて彼を見た。

イクスは身を乗り出し、彼の胸倉をつかんで前後に振った。

「あの子なら、全て知っているよな?そうだよな?あの子は賢いから、きっと全て話してくれるよな?」

イクスは血走った目でスボクを見た。

「ああ、そうだが、実は・・・」

イクスはスボクの言葉をまるで聞いていないようだった。彼は立ち上がり、異様な様子で部屋を出た。スボクは慌てて彼を追った。

「チョンホ、チョンホ!!!!」

イクスは庭にチョンホを見つけ、叫びながら駆け寄った。

何故だか、チョンホはあの桃の木の下にしゃがんでいた。

異様な様相で走ってくるのが父親と分かってかそれともそうでないのか、チョンホは恐怖で顔を引きつらせて後ずさりした。

それを見た瞬間、イクスはぱっと立ち止まった。

急いで追ってきたスボクは、この光景を見て、まずい、と思った。スボクは長年イクスを見ている。これは、嫌な予感しかしない。

「お前・・・なぜ・・・逃げるのだ?・・・お父さんに挨拶は・・・・?」

イクスは低い声で呪文のように言い、ゆっくりとチョンホに迫っていった。

チョンホはさらに怯え、後ずさりした。そして、気づけば彼は桃の木の下の雑草を踏んでいた。

「お前・・・自分が一体、何を踏んでいるか、分かっているのか・・・・?」

イクスの声は恐ろしく、後ろで聞いているスボクをも震え上がらせた。

「そなたの母上の花を踏んで・・・・そのようなこと・・・・どうしてできるというのだ・・・?」

「私には母上はいません」

チョンホは怯えながら突如、はっきりとした口調で言った。

イクスの足が止まる。

「・・・・・・何?」

「私の母上は、私を産んですぐに亡くなりました」

チョンホは答えた。

スボクが居士から聞いた話では、記憶を失くしたチョンホに僧侶らがそう教え込んだのだという。だが、この場でこのようなことを説明してもイクスには通じまい。

イクスの肩に緊張が走るのが分かった。スボクはとっさにイクスに駆け寄った。

スボクはイクスを掴んだ。だが、イクスはその手を払いのけ、チョンホの小さな体を全力で突き飛ばした。チョンホの体は吹っ飛んだ。

側にいた従者たちが急いで駆け寄り、スボクとともにイクスを抑え込んだ。イクスは暴れながら鬼の形相で叫ぶ。

「放せ!この野郎、おれを放せ!この汚い親不孝者め!!!一体どの口が、母を知らぬと言えるのだ!!!!放せ!!!!!!」

チョンホは地面に倒れ、痛みと恐怖で震え泣いていた。そんなチョンホに、イクスは懲りずに罵声を浴びせ続けた。

 

 

 あれからチョンホの身が心配だったスボクは何度かしばらく引き取ろうとしたが、何故かそう言うとイクスは激怒した。

イクスはチョンホを束縛していた。家からは一歩も出さず、まだ幼いチョンホに身の回りのことはもちろん、イクスの世話まで何でもさせた。勉強は決まった時間しかすることを許さなかった。チョンホは憂鬱な生活の中、勉強に癒しを求めた。そして、ただでさえ優秀だったのにこの頃から彼は猛勉強を始めた。イクスの目を盗んで、本を読むことさえあった。

イクスはといえば相変わらず酒浸りで、それどころか結婚後一度もしていなかった妓生遊びを再開した。その様子はひどいものだった。若い妓生を何人も屋敷に呼び、一晩中彼らと戯れていた。それも、チョンホが見ている前でである。屋敷の金はどんどん無くなり、反対にチョンホの妓生への憎悪は日に日に増していった。

スボクは罪悪感と使命感から何度も屋敷を訪れた。彼は書房を継ぐための準備で忙しかったが、落ち着いたらチョンホをそこで学ばせようと考えていた。彼はソリがいなくなる前のチョンホをよく知っていた。はつらつとしたかわいい子供だった。ところが今は、借りてきた猫のようにおとなしく、無口で、人見知りが激しい。イクスのもとにいては彼の才能が潰れてしまうのは時間の無駄だった。スボクが近くで見てやることで、もとのチョンホを取り戻そうと思っていた。

荒れた生活を送っているイクスであったが、その心の傷は誰にもわからなかった。愛する妻をあのような形で失い、亡骸は完全なものではなく、犯人も分からず、唯一の目撃者である息子は記憶を失い、日々罪悪感と恐怖、後悔、様々な感情が彼を襲っていたのである。彼はチョンホと接するのを恐れた。チョンホは彼に様々な記憶を呼び起こさせた。彼にとっては、それはあまりにも辛すぎたのだ。

そうして、一家の母を失った父子は互いにいつくしみ合うべきであったが、様々な事情が絡み合い結局それは叶わなかった。むしろ、父子の間には到底埋めることのできない大きな溝が出来てしまったのである。

 

夏が過ぎ、また秋が来た。

イクスは漢陽で晒し者のようになっていた。人々は屋敷の前で笑い、指をさした。彼の屋敷に入っていく妓生に石が投げつけられた。

チョンホは相変わらず屋敷で本の虫であった。会うたびにみるみる痩せ、今では病弱な少年の様相を呈したチョンホを見、堪り兼ねたスボクはイクスを説得した。全羅道に居を移して数年になるキム・チソンに頼み込んで彼の家の近くに適当な屋敷を見つけてもらった。そこに移り住むようにスボクが何度説得してもイクスは耳を貸さなかったが、ある日噂を聞いたミョンホンがイクスのもとに現れた。

全羅道にいたことのあるミョンホンは、その地のことをイクスに事細かに話した。なにより、全羅道の妓房が素晴らしいらしいと伝えるとイクスは俄然やる気が出たようだった。

 

そして、結局彼らは漢陽を去ることになった。

去り際、イクスは屋敷を振り返って遠い目で見つめた。

ソリとの思い出が詰まった、大事な場所である。しかし、今の彼にはここに居続けるのは辛すぎた。イクスはソリを忘れることを決心し、前夜ソリの遺品をことごとく燃やした。ただ1つの翡翠のカラッチを除いて。

 

 

そうして時がたち、いつの間にかチョンホは10歳になっていた。

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さて、今回はここまで。

全羅道に行ったって、全羅道のどこだよ!って感じですが・・・(笑)

今回は余談はありません!(またかよ)

ではみなさんまた次回~ちゅー