こんばんは爆  笑

 

クリスマスの夜にまさかの2度目の更新です・・・(笑)

い、いいえ!ぼっちだなんて!そんな不吉なこと・・・!(笑)

 

前回のあらすじ

イクスとスボクの一人息子チョンホは既に数え年3歳になっていた。幼いながら勉学にずば抜けた才覚を見せたチョンホは両親を驚かせた。さらに、容姿も可愛らしく、みんなから愛される子供であった。一方、スボクの息子ソンの出生を知ったイクスは、スボクと口論する。そんな中成宗が薨去し、燕山君が即位した。燕山君は即位後間もなく成宗の鹿や自分の師を殺してしまい、イクスを含めた臣下たちは震え上がった。そんな中、チョンホの将来を案じたソリは、イクスにもし何かあったら自分を犠牲にしてでもチョンホを助けるように願い出る。そんなソリの願いを、イクスは不安から受け入れられなかった。

 

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不吉な予感

 

1496年の春だった。チョンホは既に5歳になり、漢字の読み書きは愚か小学すら読破していた。その秀才ぶりは既に世に知れ渡っており、彼の将来を楽しみにする者たちがおこぼれにあずかろうとやってくることさえあった。

イクスは心配だった。チョンホの噂が勲旧派の重臣たちに伝われば、きっと目の敵にされるであろう。それだけならまだしも、燕山君の側近たちに伝わればただでは済まないのは目に見えている。ただでさえ燕山君にやましい過去のあるイクスは、自分の失態によるつけがソリやチョンホにまで及ぶことを恐れた。

そんな中久々に宮中でイクスはスボクを見かけた。スボクは相変わらず素っ気なかった。というのも、つい先日もソンの件でスボクと言い争ってしまったのである。イクスは彼と仲たがいするのは不本意だと思っていたので、彼に近寄り先日の件を詫びようとした。

ところが、気まずそうな表情のスボクは開口一番にこんなことを言った。

「イクス、お前の息子は神童らしいな」

イクスは慌てて周りを見た。

「しーっ!おい、お前、何を考えている?」

スボクは目を丸くした。

「えっ、何が?」

「馬鹿野郎、勲旧派のやつらに知れたらどうするんだ。おれが大変なことになるんだぞ」

スボクはあっ、と言って口をつぐんだ。

「それとも何だ、お前まで仕返しにおれを嵌めようってか?頼むから家族まで巻き込むのはやめてくれよ。そっちがその気ならこっちも同じ手を使うぞ」

「それはこっちの台詞だよ」

スボクは気まずい表情を捨て笑顔を見せた。

 

「じゃあ、チョンホはもう小学を読破したのか?」

「うん。おれと違って、勉強が好きなようだ」

イクスは神妙な表情だった。

「しかし、一体誰に似たんだろう。ソリも、子供の頃は勉強は嫌だったようだ。まあそう言ってもある程度は謙遜だろうがな」

「なあに、書房を営む家柄だ、そういう子が出ても当然だろう」

「それはお前もじゃないか。何だ、自慢するのか?まったく、どいつもこいつも、お世辞でもおれに似たとは言わないんだな」

スボクは笑った。

「何言ってるんだ。まあ、お前も元は賢いさ。お前の家は科挙状元をずっと出してきただろう」

「うむ、まあ、おれの世代で途切れたがな。まあいい、チョンホはあのままだと確実に状元だ」

「あと聞いたんだが、容姿も素晴らしいんだとな」

「ふん。それは両親に似たのさ」

「まったく、お前は。だがそんなに容姿端麗で賢いなら探花郎にもなれるんじゃないのか?」

「状元がだめでもその道があるな」

イクスは言った。

「おい、ところでお前は気が利かないな。おれの息子のことも聞けよ」

「えっ?ああ、てっきり聞いてはいけないかと」

「馬鹿言うな。誰がなんて言おうと、おれの息子として育てるって決めたんだ。お前にだって文句を言わせないよ」

「はいはい、分かったよ」

「・・・お前は本当に意地が悪いな。ソンだってすごく賢いんだ。まあ、まだ小学をやっているが、あの子は競争心がすごい。姉がいるから猶更だ」

「姉と競うのか?」

「ホヨンがソンをすごくかわいがっていて、しょっちゅうからかうんだ。ホヨンは本当に男の子みたいだよ」

「好きだからこそってやつか。かわいいな」

「まあな。だが、チョンホが神童だって知れたら確かにまずいよな。これからはおとなしくさせたほうがいいと思うぞ。書房に行かせる時も気をつけなければ」

「そうなんだ。どこに行かせようか本当に迷うよ。どこかあったら教えてくれ。ところでお前はソンを家で教えるのか?」

「そのつもりだ。あの子はいささか純情すぎる。目の届くところにいないと、良からぬことに巻き込まれそうだからな」

イクスは笑った。

「お前にそっくりじゃないか」

「自分で言うのもなんだが、本当にそうなんだ。おれの移り気なところが似てしまった」

「親と欠点が似たんならいいじゃないか、対策が分かるから。おれなんてチョンホをどう扱ったらいいか分からないんだ。自分とあまりにも違い過ぎるんだよ。おれはあんな繊細でもなければ、泣いてばかりでもない」

「そんなに泣くのか?」

「ああ。花が枯れたり、葉が散っただけで泣くよ。この間バッタが庭で死んでいて、一人で埋葬して泣いていたよ」

「確かにお前と全然違うな。繊細で優しい子だ」

「なあ、スボク、思うに、あいつはおれよりお前に似ているから、大きくなったらお前が直接勉強を教えてやってくれないか。ソンと一緒に」

スボクは驚いた。

「しかし・・・」

「悪いようにはしない。それに、チョンホがソンを悪い方に誘惑するとは思えない。お前に似た子が2人だ。お互いに競争し合っていいと思うんだが」

「・・・お前の頼みなら、わかったよ。2人が上手くいくとは限らないがな」

「きっとうまくいくさ」

スボクは彼らが仲良くなるとは到底思えなかった。チョンホの話を聞いていると、ソンとまるで正反対のようだったからだ。ソンは、典型的な『男の子』だった。庭のアリの巣を掘り起こしては姉を怖がらせ、忍び込んできた子猫を泥だらけになって追いかけた挙句、親猫に襲われて体じゅう引っ掻かれても強がって泣いていないふりをした。時には姉のソッチマに落書きしたり、両手を結んでホヨンを激怒させることだってあった。そんなソンを、実の子でないチョン氏は本気で叱れなかった。

それゆえ、スボクもソンをどう育てたらよいか迷っていた。やんちゃでわんぱくなソンをこのまま書房に行かせたら、きっと問題を起こすに違いない。しかし、一方でソンにはチョンホと似て人を引き付ける魅力があった。会う人会う人がソンを可愛がったのである。それが無ければ、スボクは無理を押してソンを書房に通わせただろうが、協調性のあるソンにはその必要はないと感じたのだ。

一方、イクスは2人がきっと仲良くなると信じていた。チョンホとソンは正反対だが、それゆえに互いに引かれ合うものがあると考えたのだ。まるで、イクスとスボクのように。

 

 

ある日、ミョンホンがやってきてイクスとしばらく酒を呑み交わしながら政情について話し合ったのち、帰ろうとしたところにチョンホを偶然見つけた。庭の桃の木の下に生えた雑草をじっと見ている。

「おや、チョンホじゃないか。どうしたんだね」

ミョンホンは声をかける。チョンホは慌てて立ち上がり一礼した。顔が涙で濡れていた。

「この間まで咲いていた草が、全て枯れてしまったのです。毎年夏になると綺麗な花を咲かせていたのに」

ミョンホンは微笑んで腰をかがめ、チョンホに視線の高さを合わせた。

「なんだ、ただの雑草ではないか」

「はい。でも強くてとても美しいのです」

ミョンホンは笑った。

「お前はそういうのが好きかい」

「はい。私は、冷たい土の中にあっても芽を出し咲いている花が好きです」

「はははは。そうだな。だがチョンホ、覚えておくとよい。全てこの世にある者は、いつかなくなってしまうんだよ。でも、去りゆくものを悲しんではならない。彼らの新たな門出なのだからな」

「でも、私にはまだ母上が必要です」

「母上?」

「はい。父上が、この花は母上でこの桃の木が天から母上を見守る母上の姉君だとおっしゃりました。ですが、花が枯れてしまっては、母上は長く生きられません」

ミョンホンは驚き戸惑っていると、後ろからイクスがやってきた。

「そんなところで何をしているのだ、ミョンホン」

「父上!大変です」

イクスは近づいた、そしてふと桃の木の根元に目を向けると、たちまち顔が真っ青になった。

「大監、大丈夫です。たかが雑草です。奥方様とはきっと何の関係もございませんよ」

ミョンホンは慌てて言った。

だがイクスは納得した様子ではなかった。泣き顔のチョンホを抱き上げ、ミョンホンに今日は帰るよう促した。

その足でソリのもとを訪れたイクスは、事の顛末を語った。

ソリはイクスの話を聞きながら、チョンホの顔の涙を拭ってやっていた。

「私も、気に留めることではないと思います。この子が泣いていたのも、繊細過ぎる故でございますわ」

「たしかに、この子は男の子にしたら泣き虫だし少々繊細過ぎる。だが、何だか嫌な予感がするのだ。何かの虫の知らせかもしれない。思うのだが、そなたとチョンホはしばらく遠くに行ってみてはどうだ」

ソリは驚いてチョンホから目を離し、イクスを見た。

「書房様、まだ何も起きていないのにそのようなことをなさる必要が・・・?」

「ミョンホンとも話していたのだが、最近、イム・サホン大監や尚温らの様子がおかしいのだ。何か企んでいるとしか思えない。殿下は士林派を嫌っておられるのだ、いつ士禍が起きてもおかしくない。そのとき、そなたは奴婢となり、男の子のチョンホは殺されてしまうぞ」

「でもその時は書房様は・・・!」

「私は自分が危険になったら何とでもできるし、1人だと身軽だから大丈夫だ。だが、そなたらは違う。私も不本意だが、しばらく遠くの寺で隠遁してくれないか。落ち着いたら必ず呼び戻す」

「書房様・・・」

ソリは涙ぐむ。

「父上と離れるのですか?」

それまで黙って両親の話を聞いていたチョンホが不安そうに聞く。

イクスは答えない。チョンホは再び目に涙を溜めた。

「おいで」

イクスは手を広げる。チョンホは父親の胸に飛び込んだ。

「少しの間だけだよ。お父さんは強いが、お前とお母さんは弱い。これから先危ないことがあっても、お父さんは2人をいっぺんに守れないんだ。だけど、お前は男の子だろう?お父さんがいなくても、お前がお母さんをしっかり守ってくれるとお父さんは信じている。だろう?」

チョンホは泣きながらうなずく。

「ようし、いい子だ。いい子だからもう泣くのはやめなさい。男の子だから、泣いてばかりいてはいけないよ。さあ、わかったらお母さんに茶を持ってきてあげなさい。

チョンホは涙を両手で拭い、立ち上がって素直に部屋を出て言った。

部屋にはイクスとソリの2人きりだった。

ソリは涙を流していた。イクスはソリの傍に寄り、彼女を抱きしめた。

「しばしの間だ。ほんの、しばしの間だ」

イクスは言い聞かせるようにそっと言った。

「書房様、どうか、御無事でいるとお約束ください」

ソリはイクスの胸の中で言った。

「ああ。必ず、無事にそなたを迎えに行く。それまで、苦労を掛けるが、チョンホを頼むぞ」

ソリは頷いて泣いた。

 

燕山君の治世が続く以上、危険がいつも彼らに付きまとうであろう。その治世が終わるまでは、イクスがソリとチョンホを迎えに行ける保証はない。すなわち、彼らが再び一緒に暮らせるのは、何年、いや、何十年先か分からないのだ。

それでも、イクスは先の失敗で慎重になっていた。ソリをメチャンのようにやすやすと失いたくなかった。失うくらいなら、何十年も会えなくても自分の手の届くところにいてほしい。苦渋の決断であるが、そうせざるを得なかった。

 

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さて、今回はここで終わり。

一刻も早く、チョンホさまやソンを成長させて2人の話を書きたいのですが、ここは我慢・・・。

さて、今回出てきた探花郎ですが、今回は科挙の合格者について少し説明します。進士科という科挙の試験の一種に合格した者の中で第三位の成績だったものを探花と言います(一位は状元、二位は榜眼と言いました)。この探花の由来は、唐代の科挙で使われていた探花郎という制度です。これは、進士科合格者のうち最年少2人に宴会の場で庭園から牡丹の花を探させるという制度で、宋代の科挙では既に廃止されました。したがって、スボクが言いたかったのは、チョンホは万が一状元は無理でも最年少で科挙に合格できるのではないか、ということです。

 

では、皆さんメリークリスマス!クリスマスツリー