第一章「それから」は、チャングムが王の主治医になってからのお話です照れ

 

ドラマではあまり詳しく描かれていなかったので、実際にチャングムやその他の登場人物がどのように過ごしていたかを想像しながら書いてみました爆  笑

ドラマ本編にはなかった新しい登場人物も出てきますキラキラ

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「新しい副提調のパク・ソンだ」
ミン・ジョンホに代わって副提調の座に就いたのは、パク・スボクの長男であり前珍島郡守(従四品、済州島万戸時代のミン・ジョンホと同階位)のパク・ソン(朴愃)であった。容姿はミン・ジョンホには劣るものの端麗で、歳も30前程であった。
「16歳で司馬試に及第し、19歳で官職に就いた者ゆえ、若いとはいえども経験は十分にある。功労心より責務を重んじ、乱れた内医院の規律を再び正してくれることであろう」
イ・グァンヒ都提調の紹介にパク副提調は一礼した。
都提調は言葉を終えると、チャングムを一瞥して席を立った。
しばらく経っても、パク副提調は言葉を発さず厳しい表情をしていた。内医院の者達は戸惑った。
「大長今様のお陰で内医院は安泰です」
チョ・チボクが我慢ならず戸惑いがちに声をあげた。
「医術に置いて最も根本となるのは、謙虚さであると思っている」
パク副提調は重い口を開いた。
「人の心を思い遣り相手の力になるべき医員が、医術を立身出世の手段とし他人の地位を奪ってまで権利にしがみつくなど以ての外」
チャングムは俯いた。シン医官やチョン医官も厳しい表情になった。
「私が副提調になったからには、そのような人間が内医院にのさばることは断固として許さないので覚悟するように」
言い終えると、パク副提調は退出した。

「一体どういうおつもりでしょう。私達の前で大長今様を侮辱なさるなんて」
医女の執務室に入るなり、ウンビが言った。
「両班なんて皆同じです。医女などが出世したのがお気に召さないんですよ」
チョボクが不満そうに呟く。
「とにかく、心配ね。ミン・ジョンホ令監は大長今様の件に賛成だったけど、パク令監に代わったことで一波乱起きそうだわ」
ウンビが答えた。
「パク副提調令監にも一理あるわ。大長今様が御医になられたことで、ミン・ジョンホ令監が流罪に処せられたのだから」
内医女ピソンは言った。

「えっ?パク令監が副提調になったの・・・ですか?」
ミン尚宮が言った。
「はい・・・」
チャングムは覇気のない声で答えた。
イ淑媛の部屋に連れられたチャングムは、ミン尚宮とチャンイに質問攻めにされていた。
「どうして?」
イ淑媛はミン尚宮に聞いた。
「それがですね・・・以前、パク・ソン令監は司饔院の主簿だったんですけど、士林派のパク・スボク令監のご子息だからオ・ギョモ大監の一派のパク・プギョム令監に免職にされたんです!」
「免職ですって?」
「はい!それで、噂によれば全羅道に移り住んだんですけど、内禁衛将令監の計らいで珍島の郡守になったそうです!」
チャングムはふと気がついた。パク副提調はミン・ジョンホと同じ年頃であり、階位も常に近い。
「もしかして、今の王様の生員試で及第なさった方ですか?」
チャングムは尋ねた。
「そう!・・・です!でも、なんで分かったんですか?」
チャングムは答えなかった。

同じ時に生員試に及第し、成均館に入り、同じ時期に官職につき、同じように出世している。お互いが顔見知り程度で済むはずがない。
しかもチャングムは思い出した。ミン・ジョンホは幼い頃、パク・スボクの書房で学んでいたのだ。
つまり、パク副提調とミン・ジョンホは、幼い頃からの友人かもしれない、ということだ。
しかし、ミン・ジョンホの口からパク・ソンの名前は1度も聞いたことがない。

夕方、チャングムはチャンドクのもとを訪れた。
「師匠様、済州島にいらっしゃった時に、パク・ソンナウリと言う方をご存知なかったですか?」
「パク・ソンナウリ?あの、冗談ばかり仰っていた方ね。奥方様が難産で、何度か出産に立ち会ったけど、それがどうかした?」
「新しい副提調におなりになりました」
「えっ?!でも、あの方は官職をお捨てになったはずよ。それに、庶子(妾の子)を隠すことが出来なくなったから、全羅道に来られたのに・・・」

「えっ?!・・・庶子なんですか?」
チャングムは驚いた。庶子が責められもせず出世した例など見たことがない。
「とにかく、あんたは庶子の事は黙ってなさい。私はパクナウリの屋敷に行ってくるわ」
チャンドクは立ち上がる。
「どうしてですか?」
チャングムは制止した。
「放っておいた方がいいと思います。パク令監は私が御医になったことに反対でした。師匠様も何か言われてしまうのでは・・・?」
チャンドクはチャングムの手を振り払った。
「なら尚更よ!パクナウリのことは私がよく知ってるの。官職に就かれるような方でも、あんたに反旗を翻すような方でもないわ。行って説教しないと」
チャンドクは止めるチャングムにかまわず薬房を出た。
 

---------------------------------------------------


冷たい風が吹き荒れ、猛吹雪の中、みすぼらしい屋敷の納屋で、書物を手に送られてきた野菜を分類する男がいた。
新鮮さと保存できる期間で野菜を分け、すぐに腐りそうなものを食台の上に置いた。
「ナウリ、私どもの家で作った海老の塩辛です。差し上げる程の物ではありませんが・・・。腐らせてしまうくらいなら、ナウリにお渡ししようと思いまして。こちらに来られてからというもの、御親類の少ないナウリが食料を集めるのに苦労されていると聞きました。三水は冬も長く、どんな所でも根を張るという雑草ですら1つも生えませんので、村の者達は皆市場で鮮度の落ちた下級品を買う以外にないのです。海も遠く、山も険しいため、海産物は全く手に入りません。唯一手に入り、保存も出来て身体にも良いのが海老の塩辛なのです」
「では、ここでは百薬よりも貴重な物ではありませんか。私にはこの恩に報いる手立てがない」
「とんでもないですナウリ!ナウリが従事官でいらっしゃった頃、賎しい身分の私が貧しさ故に誤った道に進みそうなところを正して頂いたどころか、生活の援助までして頂いたご恩は、たとえ千年経っても返せません」
ミン・ジョンホはありがたそうに微笑んだ。
「困っている時は手を差し伸べるのが人の道だと仰ったではありませんか。私はナウリの教えをただ守っているだけです」
商家の奴婢であるヨンスは、塩辛の入った壺を納屋に並べた。
「それでも有難い。このような流刑の地で、人の心の温かみを感じることなどそうないでしょうから。それで、厚かましいですが、もう1つお願いがあります」
ヨンスは手を止めて顔を上げる。
「はい、なんなりと」
「この野菜の漬け方を教えていただけないでしょうか。初めてなので、うまくできる自信がなく・・・。せっかく頂いたものを腐らせてしまう訳にはいきませんから」
「それぐらいでしたら、お安い御用ですナウリ。ところで、ご自分でお漬けになるのですか?ソンビがそのようなことを・・・」
「私はソンビである前に1人の人です。それに、私には妻子も、頼れる人もいません。自分の身の回りのことは自分で始末しないと」
チョンホはそう言いながら袖を捲った。
 

---------------------------------------------------

「旦那様は不在です」
パク副提調の正妻である淑夫人(正三品の官職を持つ官員の正妻に与えられた称号。夫と同じく正三品の階位を持つ)オム氏は言った。

「令監に伝言があるので伝えていただけますか」
チャンドクは怒りを込めた口調で言った。
オム氏は目を丸くする。
「旦那様が朝廷に復帰されたことにご不満なようだけど、チャンドク、うちは貧しいのよ。それに、珍島に新しく赴任してきた大護府使ナウリが勲臣派の方で、郡守として働けなくなったのよ」
「でも同副承旨だなんて...」
「それには事情があって押し付けられたのよ。旦那様もご機嫌斜めなんだから、焚き付けないでよ。ところで、あなたが漢陽に戻ったのも驚きだわ」
「私も事情があって押し付けられたんです!それでは」
チャンドクは皮肉を言って踵を返し、屋敷を去った。
「やれやれ・・・。変わらないわね、あの人も」
オム氏はそう呟くと、部屋に戻った。


「茶斎軒をくれと、殿下に申し上げたそうだな」
内医院の集まりの場で、パク副提調は言った。
「はい。痘瘡の治療法をもっと調べる必要があり、殿下にお願いして病舎にしました」
チャングムは答えた。
「宮廷の菜園であるのに、痘瘡の患者だと?それで、御医であるそなたや、茶斎軒の者達に痘瘡が移ったらどうするつもりだ」
これに、シン内医正は反論した。
「予防法は既に大長今様が確立して下さいました。病舎も畑や宿舎から離れた丘の上に作ったので、感染の可能性は低いです」
「低いだと?例え1人が痘瘡にかかっても皆かかったのでなければ低いと言えるではないか。それが医官の言葉か」
パク副提調はシン内医正を怒鳴りつけた。
師匠を侮辱されたチャングムは黙っていられなかった。
「では、治療法が見つかりつつある病を、感染を過度に恐れて諦めるのが医員の道でしょうか?殿下の玉体は民の体に等しいものです。玉体を預かる御医として、民の苦しみにも耳を傾けるべきです」
パク副提調は返す言葉がないようで、黙り込んだ。
「・・・いいだろう。だが、何かあったら全てお前が責任を取る事だ。まさか責任も取れないのにこのような大口をはたいた訳では無いだろうからな」

「責任を取る覚悟なら出来ています」
副提調はチャングムを睨みつけ、退出した。
「・・・副提調令監は酷すぎます。殿下の信頼の厚い大長今様を侮辱なさるなんて!」
チボク医官が叫ぶように言った。
「ほほう、口を慎みなさい」
チョン医官はチボクをたしなめた。


「新しい副提調令監が大長今様を毛嫌いなさっていて、しょっちゅう内医院に来られては牽制なさるんです」
イ淑媛に呼ばれたシンビは言った。
「きっと、右議政大監の差し金よ。チャングムを疎ましく思うあまり、腹心の部下だったミン・ジョンホ令監まで切り捨てたんだから!」
ミン尚宮は言った。
「しかも、大長今様の前でわざとミン・ジョンホ令監の話をなさるんです」
シンビは珍しく怒ったように言う。
「チャングムを気遣ってあげて頂戴。ミン・ジョンホ令監のことで傷ついているでしょうから」
イ淑媛は心配そうに言った。
「それにしても、チャングムもミン・ジョンホ令監なんていなかったかのように振る舞うんです。私達の前ででもですよ」とミン尚宮。
「そうなんです。たまにうっかり話してしまいそうになるんですけど、いつもはぐらかされるんです」
チャンイも身を乗り出して言った。
「きっと、ミンジョンホ令監の為にも忘れようとしているのよ。御医として務めることが令監のご意思だから」
「それにしてもですよ!カン熟手の話では、家でも全く仰らないし、今まではあんなにお転婆だったのに、最近はただ黙々と仕事をしているだけで、ちょっと微笑んでも、昔みたいに笑ったり泣いたり怒ったり走り回ったりなんてことは全くないそうです」
イ淑媛は不安げな表情を浮かべた。
「次の王の代でも復権できないということは、お二人はもう永遠に会えないのでしょうか」
悲しげに尋ねるシンビ。イ淑媛は瞬きをし、黙って目を伏せた。


痘瘡の治療法に発展はなかった。チャングムが以前確認した症状を辿った患者だけが助かるようであった。しかし、チャンドクとともに予防法の整理をしているうちに、どれが効果がありどれが効果がないかがはっきりした。
茶斎軒の他の患者にそれらの予防法のみ試したところ、やはり同様に痘瘡には罹患しなかった。チャングムは王の朝の散策の際にその話を切り出した。
「・・・ほほう、では、今すぐ民に伝えねば。直ちに各地方に連絡しよう」
「殿下、まだそれには及びません」
「及ばないだと?なぜだ?予防法はもう明らかではないか。一刻を争う訳では無いが、痘瘡はいつ流行するかわからない」
「殿下、予防法はあくまで、漢陽で私が診た物乞い達や自主的に予防法に従った民、そして茶斎軒に集めた患者たちのみに役立つと分かっただけです」
「・・・それで?」
「老若男女、身分の上下を問わず診たわけではございません。病は貴賎を問わぬと言いますが、食すものや触れるもの、寝る時間や起きる時間は男女や年齢、身分によって異なります。それにより証が異なるだけでなく、病へのかかりやすさも違うのです。老人には私の予防法が効かなかったり、強すぎてしまうことも有り得ます。先の流行では、緊急時のためやむを得ず実施しましたが、本来は治療法と同じように予防法にも慎重な判断が必要です。早急な判断は、逆に民を害します」
「そなたの言いたいことはわかった。だが、それではどうすると言うのだ」
「各地方のグァナの薬房に協力してもらい、診察に来る患者たちに予防法を試させて欲しいのです」
「グァナの薬房だと?」
「はい。その効果や患者の様子を事細かに記録してもらい、一年後に再びその記録を回収して私が取りまとめます」
側で聞いていた尚膳は驚いた。
「大長今、しかし、それはそなたの職責を超えているのではないか?」
「尚膳、良いのだ。大長今の言葉に従おう」
「しかし、殿下・・・」
「民の体を案ずることも余の務めだ。そして、それに従うのが大長今の仕事である」
「ありがとうございます、殿下」
チャングムは喜び、一礼した。尚膳も微笑んで礼をした。
 

---------------------------------------------------

「牧使ナウリが令監に、薬房に来るよう命令されました」
使いの兵士がミン・ジョンホの屋敷に来た。
「薬房?流人は、施療を禁じられているはずだが・・・」
チョンホは戸惑った。

「令監。わざわざお越しいただき申し訳ありません」
流人であるチョンホに対し、牧使は礼節を見せた。
「とんでもない。ところで、一体どういうことでしょうか」
「実は、宮より連絡があり、痘瘡の予防法を患者に試してその様子を記録するように命が下ったのですが、流刑地では流人に試すべきだと観察使大監が仰るものでして・・・」
「痘瘡の予防法?」
「ええ。何しろ、医女が殿下の御医になったとかで、痘瘡の治療法を見つけ慶原大君を施療した功労者だから、その医女に殿下が痘瘡の予防を一任なさったそうです」
チョンホは目を見張った。では、チャングムの計らいで?
「しかし、医女が御医とは・・・医女に妓生をさせないと命じておきながら、結局はお傍に置きたくなられたのでしょうか...」
「きっと、すぐれた医員だったからです。ところで、痘瘡の件ですが、もし、私に出来ることがあれば何でも協力します」
チョンホは言った。
「しかし、痘瘡に罹患すれば・・・」
「牧使が私を呼び出したのはその為ではないのですか」
「それはその・・・ええ、まあ、そうですが・・・」
「お気になさらず。喜んで協力しますから」
チョンホが具体的な内容も聞かずに協力を申し出るので、牧使は困りながらも受け入れるしかなかった。

痘瘡の予防法・・・。
中殿の、チャングムに対する立場を変えた一件だ。
チョンホは深い雪の中早足で屋敷に向かった。
いつしか、手を取り合い雪道を行ったことをチョンホは思い出した。不安こそあったとはいえ、その道は寒くとも希望に満ちていた。
今はどうであろうか。

板を立てても隙間風を防げず、余りの寒さにオンドルも凍ってしまったので、グァナから戻ったチョンホはオンドルを修理しなければならなかった。
鎌を振り下ろし藁を混ぜていると、ふと脳裏に声が浮かんだ。
『ナウリ、もう止めてくださいよ。ソンビがオンドルの修理なんて!』
『オンドルの修理が好きだからじゃないですよね?チャングムの部屋のオンドルだからですよね?』
チョンホは鎌を持つ手が緩み、地面に落としてしまった。その拍子に鎌が足首に当たり、擦り傷が出来た。
オンドルを修理したチョンホは部屋に戻り、麻布を細く破って怪我した足首に巻き付け、傷の手当をした。
『意識を失っていても、この手の温もりは忘れられませんでした』
チョンホの耳に済州島の荒波が岩に打ち付ける音が響いた。
首を横に振り、本を広げた。
しかし、流刑の地に珍しい本などなく、気が付いたら医書を読んでいる自分に気づいたチョンホはたまらず、懐から3色ノリゲを取り出した。
『私には忘れられません!・・・私・・・私には出来ません!・・・せめてこれだけでも持って行って下さい!』
誰の言葉だっただろう、と思いたかった。しかし、言葉の主の声や姿、思い出は日に日に鮮明になるばかりであった。チョンホはいつしか、この言葉が自分のものだったかのような気がしていた。
チョンホはノリゲを固く握りしめ、俯いた。チョンホの手は震えていた。
 

---------------------------------------------------

「なぜ反対しなかったのだ。殿下の不当な命令をお諌めするのが同副承旨の役割であろう」
大臣たちはパク・ソンを呼び出した。痘瘡の件でチャングムの越権行為を止めなかったパク・ソンを責めるためだ。
「左議政大監、だからでございます」
「だからとは?」
「確かに大長今の行為は越権ですが、大義があります。その為、我々が反対すれば少なからず傷がつくでしょう。しかし、この件で各地方の薬房は自分達の権利を侵害されて黙ってはいないはず」
「なるほど」
「我々が、実際に行われる前に反対しても殿下の我々への信頼が揺らぐだけですが、各地方からの上訴があれば、殿下も大長今を放ってはおけないでしょう。手を打たずとも事は解決します。それゆえ、放っておくべきだと判断しました」
大臣たちは目を見張った。

「そなたは親譲りの策士であるな」
右議政と内禁衛将はパク・ソンを呼び出した。
「右議政大監には及びません」
右議政は笑った。
「ミン・ジョンホがあのようになって、そなたの父上の推薦でそなたに空席を埋めてもらうつもりだったが、そなたの方がずっと気概があるではないか。ただ空席を埋めるだけでは勿体ない人材だ」
パク・ソンは黙って聞いていた。
「これからは我らに協力してくれ」
「元よりそのつもりです、大監」
右議政と内禁衛将は満足げに頷いた。

「書房様(ソバンニム:ソンビである夫に対する敬称)、おかえりなさいませ」
パク・ソンの帰宅を淑夫人オム氏は待っていた。
「子供たちは寝たか?」
「ええ。今日はユンが上手に詩を読んだから餅を振舞ってやったんです」
「そうか。ユンももう10歳だ、許嫁を決めなくてはな」
オム氏は呆れて笑う。
「私達が許嫁なんて・・・。言える口ではありませんわ。それに、うちと約束を結んでくれる家なんてあるでしょうか」
「ほほう、もう家は追放された貧乏両班ではないのだ。私は堂上官の仕事を得、そなたも既に淑夫人なのだぞ。」
「堂上官と言えば、すっかり忘れていましたわ」
「どうした?」
「済州島首医女のチャンドクが、何日か前に訪ねて来たんです」
「・・・チャンドクが?では、都にいるのか?」

「ええ!理由を聞いても話しませんでした。どうやら、書房様が再び官職についたのが不満なようで」
「理由は話したか」
「いいえ!余りの剣幕だったから、話せませんでしたわ!」
「・・・わかった。また訪ねてみよう」
ソンはやれやれと食卓についた。オム氏は酒を注ぐ。
「それにしても、女が御医なんて・・・。しかも、これでは書房様に後始末を任せたようなものではないですか」
ソンは黙っていた。
「あの方もおかしなことをなさるものですわ。書房様を差し置いて出世なさった癖に、医女なんかを御医に推すだなんて。あれほど女を嫌っておられたではありませんか」
「・・・今日はよく喋るな」
「書房様が静かですわ。どうかなさいましたか?」
ソンは一瞬躊躇ったが、首を横に振って微笑んだ。
「・・・それより、昔のそなたでは考えられないことだな」
「・・・何のことです?」
「女ごときが、と言う話だ。昔なら、女も男も技量さえあれば対等に立つべきだ、と言っていただろうに」
オム氏は座り直す。
「それは、御医とは関係ありませんわ。医術を極めたいなら、何も殿下の玉体に触れる必要はありませんから」
ソンは答えなかった。


チャングムは朝早く、ミョンイの墓前で野いちごを供えていた。
御医になって3ヶ月。チャングムの顔はやつれきっており、既に眉間には深い皺が刻まれていた。
「お母さん、不便はないですか」
チャングムは墓をそっと撫でる。
「ハン尚宮ママニムもお元気そうですか」
辺りは薄明るくなり、小鳥のさえずりが聞こえ始めた。
「ハン尚宮ママニムのパルガタンはもう召し上がられましたか。私は結局、1度も頂けず・・・」
医女として御医を務めるということは、想像していたよりも荷の思い仕事であった。国中を代表するだけではなく、賛成してくれた全ての人達の誇り、母ミョンイの教えと無念、チョン尚宮やハン尚宮の遺志、中殿の期待、ヨンセンやミン尚宮、チャンイの支え、王の厚い信頼と男としての決意、そして、ミン・ジョンホの全て・・・。それらを全て背負う事に他ならない。チャングムは重圧に押し潰されそうで、逃げ出したい気持ちを抑えようと仕事に精を出した。しかし、宮は狭く酷な場所で、どこにいてもチャングムに色々な思い出を想起させる。
「お母さん、私、これでよかったんでしょうか・・・」
チャングムの手が震える。
「お願いします。お母さんにしか聞けなくて・・・。教えてください。私は、このまま突き進んでも良いのでしょうか」
日は既に高くなり、ミョンイの墓とチャングムを照らした。
チャングムはそれが答えであるかのように、立ち上がって礼をした。
「お母さん、私もう行きます」
そう言ってチャングムは墓を後にした。


「一体この上訴文は何だ!」
中宗は自分の前に置かれた山盛りの上訴文を見て、机を叩きながら言った。
「恐れながら殿下、医女大長今が御医としての職権を破り、各地方に痘瘡に関する命を下したことで、職権乱用であるとの不満が多く出ております」
「職権乱用とは!医術に関する命を下すべきなのは、御医である大長今に他ならないではないか!」
「しかし殿下、御医とは殿下の玉体を・・・」
「余の身を案ずることは、民を案ずることと同じなのだ。同じでなければならないのだ。それを、医女からの干渉を嫌うが故に上訴するとは!今後この件に関するどのような上訴も受けない。出したものは重罪に値すると告げておけ」
中宗は拳を握りしめた。


疫病が漢陽の近くで発生し、パク副提調が監賑御使に任命された。

「医官からはチョ奉事を派遣する。医女長は誰を行かせるか決めなさい」

シン内医正は言った。

「チョドン、チョボクを派遣します」

医女長は答えた。

「よろしい。三人は今すぐ準備するように。今回の疫病は都から近い。あちらでの報告を受け取ったら、我々も行くようにとの殿下のご命令だ」

「はい」

 

チャングムは王の朝の散策に向かった。

「殿下、お願いがございます」

「願いとな。そなたは願いがまことに多いな。何だ。気にせず申せ」

中宗は微笑んで答えた。

「殿下、今回の疫病はわずか数日で何里も先の集落にまで広がったとの噂を耳にしました」

「・・・そうだ。シン内医正もかなり心配しているようであった。都まで広がるのも時間の問題だとな」

「はい。ですので殿下、私が直接行って見てきても構わないでしょうか」

傍で聞いていた尚膳は戸惑った。

中宗も驚きを隠せない。

「・・・そなたが?いや、しかし、御医であるそなたが直接行っては、誰が余のことを診るというのだ」

「内医院には優れた医官が2人おりますゆえ、御心配なさらないでください。殿下の御医として、私はまだ見聞に乏しく、疫病を直接診る機会もそう多くはありませんでした。医官たちに劣らぬ医術をより精進して見に付けなければならないのです。どうか殿下、ご配慮下さい」

「全く。そなたが願いと言うと、毎回寿命が縮まるようだ」

「恐れ入ります、殿下」

「・・・よかろう。だが、必ず無事で帰ってきて、また余を診るのだぞ」

中宗は切ない気持ちを押し殺し言った。

チャングムはその気持ちをありがたく思いつつも、態度に示すことはしなかった。

 

 

「疫病地域に派遣してほしいと、殿下に直接申したそうだな」

パク副提調はチャングムや医官達を呼び出すと、鋭い口調で言った。

「そなたはやはり自分が目立たぬと気が済まぬようだな。だが、監賑御使は私だ。村での勝手な行動は許さんからな

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

疫病地域に自ら派遣されたチャングム、そしえチャングムを目の敵にするパク副提調。

果たしてチャングムは無事に疫病地域から帰ってこられるのでしょうか。また、パク副提調の真意はいかに。

 

 

ミン・ジョンホの幼少期を中心とした物語もあります流れ星

二次小説の目次はこちら下矢印下矢印

チャングム二次小説目次