椎茸などのキノコ類は、事故以前からセシウムを濃縮しやすいことが知られています。福島原発からみてちょうど風下に入った昨年3月21日から2~3日降った雨には、地域によって差があるものの、放射性セシウムなどが含まれていました。その雨に原木が晒されてしまったため、比較的汚染の少ない三浦半島においても原木椎茸から放射性セシウムが検出されています。
*測定結果
以下の結果は、ORTEC社製ゲルマニウム半導体検出器で測定した生椎茸の放射性セシウムの濃度です。
傾向を見ると、概ね三浦半島内の土壌汚染差の傾向と同じになっているようです。2012年4月から適用される食品出荷の基準値は、放射性セシウムの合算で100 Bq/kgですので、横須賀市坂本町の原木椎茸は出荷制限がかかるレベルということになります。ちなみに、事故以前(2000年)に市場に出回っていた原木椎茸のセシウム137の濃度は、2.02±1.55 Bq/kgでした(岩手・福島・茨城・千葉産6サンプルの幾何平均と標準偏差)。また、セシウム134(半減期 2年)については、チェルノブイリ事故から20年以上経過しているのでほとんど含まれていなかったはずです。
*椎茸摂取による内部被ばくの見積もり
不必要な放射性物質は摂取しないに越したことはないのですが、自家栽培されている方の中には、基準値以下であれば椎茸を食べても大丈夫かどうか自分で判断したいという方も多いかと思います。そこで、これらの椎茸を1年間食した場合の放射性セシウムの摂取量と被ばく線量を概算してみました。その結果が表1になります。なお、日本における生椎茸の年間一人当たりの摂取量は、0.27 kg(原木栽培)、0.58 kg(菌床栽培)であり、合計0.85 kgということですので、ここでは生椎茸の摂取量は年間一人0.85 kgであるとします(出典)。この値は、原木椎茸の(生産量+輸入量-輸出量)/(5歳以上の人口)で得られたものです。
表1. 各地の原木椎茸を1年間摂取した場合の放射性セシウム摂取量と内部被ばくによる被ばく線量
① 国内の地域による自然放射線の年間被ばく線量の違い: 380μSv (事故以前の神奈川県の年間被ばく線量810μSvと、岐阜県の年間1190μSvとの差:出典)
② 航空機利用による被ばく線量: 約10μSv (成田-グアム間の往復)
③ 原木椎茸中に含まれる天然放射性物質(カリウム40)による被ばく線量: 1年の摂取で約0.4μSv (原木椎茸のカリウム40濃度はおよそ80Bq/kgなので年間約70Bqの摂取。成人の実効線量係数は0.0062μSv/Bq)
これらはいずれも避けようと思えば避けることのできる被ばくですが、事故以前からこれらを気にして生活していた人はほとんどいないかと思います。ちなみに、一般公衆10万人に平均1000μSvの被ばくが起こると、この放射線起因の生涯がん死亡数は5人です(日本人のがん死亡数は10万人中約3万人)(出典)。だからと言って椎茸中の放射性セシウム摂取を気にするなと押し付けている訳ではなくて、これらのリスク比較を元に自家栽培された原木椎茸を食べるのかどうかの判断材料にしていただければと思います。
*付録: 被ばく線量の計算例
横須賀市坂本町の原木椎茸を例に、これを1年間摂取した場合の内部被ばく線量を見積もって見ます*1。まず、セシウム134の濃度は107 Bq/kg、生椎茸の年間摂取量は0.85 kgですので、この椎茸を1年間食すことによって体内に取り込むセシウム134の量は、
107 [Bq/kg] × 0.85 [kg] = 91 [Bq]
となります。このセシウム134は、血中に取り込まれ筋肉などに分布し、やがては尿などとともに体外に排出されるたり、一部は放射線を出し別の元素(安定バリウム)に変化したりして体内から無くなります。その間に体内から浴びる被ばく線量は、実効線量換算係数と呼ばれる数値をかけることによって計算することができます。成人がセシウム134を食べ物から摂取した場合の実効線量換算係数は、0.019 μSv/Bqですので、1年間この椎茸を食べたことによって体内に取り込まれたセシウム134が体内からなくなるまでに浴びる被ばく線量は、
91 [Bq] × 0.019 [μSv/Bq] = 1.7 μSv
です。セシウム137に関しても同様に計算することが出来て、この椎茸を1年間食すことによって体内に取り込むセシウム137の量は、122 [Bq/kg] × 0.85 [kg] = 104 [Bq]
体内に取り込まれたセシウム137による内部被ばく線量は、
104
[Bq] × 0.013 [μSv/Bq] = 1.4 μSv
となり、2種類の放射性セシウムからうける総被ばく線量は3.1μSvということが分かります。
*1ここで得られる線量は預託実効線量と呼ばれるもので、放射性セシウムを体内摂取してから、セシウムの物理的な減衰や人体の代謝などによって体外に排出されるまでに浴びる放射線量になります。