アロカ製シンチレーションサーベイメータによる汚染土壌の放射能濃度簡易測定 | 三浦半島における放射線情報 (tokokのブログ)

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横須賀を中心とした三浦半島における放射能汚染状況を話題したブログです。3月に起きた原発事故以降、ひたすら環境放射線の計測を続けています。三浦半島だけに限るなら、公園・幼稚園の空間線量、土壌放射能、農作物など、誰よりも手広く測定を行っているかも。


とある筋からの問い合わせにより、アロカのTCS-151(1インチNaIシンチレーション式サーベイメータ、2011年2月28日に千代田テクノルによる校正済み)を使って、現場レベルで側溝などの汚染土壌の放射能濃度を
迅速に測定できるか検証してみました。

測定に利用した土壌サンプルとその容器は以下の通り。


*土壌サンプル

試料A: 浦賀5丁目第2公園 (0~5cm) 6月13日採取、158g
試料B: うみかぜ公園すべり台脇の砂 (表層) 4月22日採取、347g
試料C: 防衛大多目的講堂軒下の水はけの良い窪み (0~5cm?程度) 4月29日採取、197g
(試料Cは、いわゆる局所汚染の土:採取時に表面で2.5μSv/hだった場所)

*容器

誰でも購入できるダイソーの「Good pack 230ml 丸 3個入」
本体:ポリプロピレン、ふた:ポリエチレン


tokokのブログ-測定サンプルと容器
図1. 測定試料(左)と使用した容器(右)。試料は上から試料A、B、Cの順です。

土壌サンプ ルの放射能と放射能濃度は、前もってORTECのゲルマニウム半導体検出器で測定してあります。測定日から現在まで時間が経過していますので、その間のセシウム134、137の減衰効果を考慮した値を以下に示します。

*8月17日現在のサンプル放射能と放射能濃度

サンプルA: Cs-134... 25.8 Bq 164 Bq/kg,Cs-137... 31.8Bq 201Bq/kg
サンプルB: Cs-134... 210 Bq 605 Bq/kg,Cs-137... 240Bq 693Bq/kg
サンプルC: Cs-134... 4.08 kBq 20.7 kBq/kg,Cs-137... 4.13 kBq 21.0 kBq/kg
(サンプルCの単位がkBq = 1000Bqであることに注意)

いざ測定

図2にTCS-151を用いた簡易測定の様子を示します。サーベイメータのセンサー部を試料ふたの上に垂直に立て、読み値を15秒以上の間隔をおいて10回読みました。なお、時定数は8.2秒です。3つの試料ついて測定を行い、何もない状態でバックグランドのデータも同様に測定します。

tokokのブログ-サーベイメータによる簡易測定の様子
図2. アロカTCS-151サーベイメータによる土壌サンプ ルの簡易放射能測定の様子

ちなみに、10回分のデータを打ち込むだけで、平均値や平均誤差、バックグランドとの差が有意かどうかを判定する便利なツールがあります。
 みかげさん作「
測定値の平均差の計算ツール
みなさまどうぞお試しあれ。今回自分もこれを使ってみました。

以下に得られた平均の線量率と平均誤差を示します。

バックグランド: 0.085±0.002 μSv/h
試料A: 0.088±0.001 μSv/h
試料B: 0.115±0.002 μSv/h
試料C: 0.630±0.004 μSv/h

また、バックグランドとの差は以下の通り。

試料A: 0.003±0.002 μSv/h
試料B: 0.031±0.002 μSv/h
試料C: 0.545±0.004 μSv/h

有意な差かどうかの判定基準を標準偏差の3倍と見なせば、試料Aはバックグランドと有意な差はなく試料B、Cに関しては有意な差がある(すなわち汚染している)という判定になります。この場合、検出限界は0.006μSv/hとなります。

 では、得られた線量率と試料放射能に相関があるか確認してみます。図3は、横軸に試料に含まれる放射性セシウムの放射能(両核種合算)を、縦軸にバックグランドを差し引いた線量率をとって、試料3つ分のデータをプロットしたものです。3つの試料しか測定していませんが、きれいな直線状のグラフになることが分かります。
tokokのブログ-土壌簡易測定のグラフ








図3. 試料放射能とサーベイメータの読み値との関係。赤線は3点の直線フィット。

従って、ここで得られた係数 0.067[(μSv/h)/(kBq)] を使って、バックグランドを差し引いた試料(汚染土壌)のサーベイメータの読み値から、試料の放射能[kBq]が算定できます。さらに、試料の重さを測定しておけば、汚染土壌の放射能濃度[kBq/kg]を求めることができます。

上述した検出限界0.006μSv/hを、この係数を使って試料放射能に換算すると、TCS-151とダイソーの容器を使った簡易測定の検出限界は、試料放射能で 90Bq です。仮に試料の密度が1.0 g/cm3だとすると、容器の容量は 230mlなので、土壌の重さは0.23 kg。従って、この場合の放射能濃度の検出限界は 390 Bq/kg となります。

なお、図3の横軸を放射能濃度にとったグラフは線形になりません。恐らく図3のように横軸に試料放射能をとることで、試料の密度差による自己吸収分がうまく打ち消せているのだと考えています(例えば試料Bの密度は1.6g/cm3ですが、試料Cは0.91g/cm3なので、自己吸収が無視できない)。

また、得られる放射能はあくまでセシウム134と137の合算です。ですので、今後両核種の比率が変わってくると、図3の関係式の係数も変わってくると考えられます。(Cs-134の方が、1壊変あたりに放出するガンマ線の数が多いため、Cs-134が減衰すると線量率も相対的に減ってくる)。

まとめ

*アロカ製サーベイメータ(TCS-151)による簡易測定で、230 mlのプラスチック容器に封入された汚染土壌の放射能濃度が測定可能であることを確認し、その検出限界が試料放射能で 90Bq であることが分かった。仮に汚染土壌の密度を1.0g/cm3とすると、放射能濃度の検出限界は 390 Bq/kgに相当する。


*バックグランドを差し引いた読み値[μSv/h]から試料放射能[kBq]を求めるためには、読み値を係数 0.067
[(μSv/h)/(kBq)] で割ればよい。その後、試料放射能[kBq]を容器内の試料の重さ[kg]で割ることによって、汚染土壌の放射能濃度[kBq/kg]が求められる。