【みかりんのFacebook講座】その173
~シラノ・ド・ベルジュラックの悲劇~

皆様こんばんは。
“シラノ・ド・ベルジュラック”
という名前は、ご存知だと思います。

戯曲で有名な主人公が、
ぱっと浮かぶかと思いますが、
実は17世紀フランスに
実在した人物で、文武両道の侯爵。
博学で有名な秀才でした。
理学者でもあり、
剣豪としても知られます。

とりわけ光っていたのは文才で、
作家として、劇作家モリエールにも、
大きな影響を与えたといわれますが、
36歳で亡くなっています。

作品の中の劇中シラノは、
詩人であり、剣術家です。
いろんな意味で一流ですが、
彼には一つだけ、
大きなコンプレックスがありました。

シラノは鼻の大きな醜男でした。

彼はひそかに、美しい従妹、
ロクサーヌに恋をしていました。
醜い容貌を恥じていたシラノは、
想いを打ち明けることができません。
そして美男の恋敵クリスチャンを
応援するはめになります。

クリスチャンは美しいけれど、
本を読めば、またたく間に熟睡し、
深く物事を考える習慣もない、
ようするにアホだったので、
恋文を書くセンスはありません。

シラノはせっせと恋文を代筆し、
戦場の飛び交う弾をくぐって
ロクサーヌにとどけます。

教養あるロクサーヌは、
クリスチャンの美貌と、
その恋文の格調高さに魂をうばわれ、
クリスチャンに夢中になります。

クリスチャンが戦死した後も、
シラノは14年にわたって、
何かにつけてめんどうをみて、
ロクサーヌに尽くします。

あるとき闇討ちにあい、
深手を負ったシラノは、
最期の力をふりしぼって、
ロクサーヌのいる修道院に
たどりつきます。

朦朧とした意識で、
シラノはかつての恋文を
そらんじていました。
暗闇の中で聞いていたロクサーヌは、
初めて、手紙の主が
シラノであったことに気付きます。

ロクサーヌの胸で息を引きとる時、
シラノはつぶやきます。

「俺が天国に持って行くものは
俺の“心意気”だ」

天国に持って行くのは、
ロクサーヌへの想いでは
なかったのですか?
と、思わずツッコミたくなります。

恋ではなく、“心意気”という
そこが、いかにも武人です。

“心意気”とは誇りや生きざま
のよりどころでしょうか?
シラノは多分に人の目のために
生きていたと思います。

これほど優れた男性であれば、
美しくない容貌は、
欠点の内にも入らなかったはず。
いや、それにですね!
自分が不細工であることを
よくわかっているというのは、
知性がある証拠であって、
むしろ好感を持てます。
顔のよさに自惚れがあって、
鏡の前でうっとりされるより
なんぼかええやないの?
と、私は思います。

シラノの恋は片想いのまま、
天国へ行ってしまった!
と、皆様は同情するでしょうが、
正確には、恋ではないですね。

クリスチャンとロクサーヌを
応援していた間、
劇作家モリエールのゴーストも
していたシラノ。
その助力も、全く
報われていません。

結局シラノは、容貌が醜いからこそ、
心は誰よりも美しいつもりでいた。
いつでも、どこでも、
いい人でいたかったのです。

シラノは自分の持つ才能を
惜しげもなく他人のために使い、
その自己犠牲によって、
自分の価値を信じることができた。
それを“心意気”と呼ぶなら
あまりにも切ない
シラノの生涯でした。

いい人でいるために、
たった一人の好きな女性さえ
差し出すシラノ。
損をすることは自分の本意であれ、
ロクサーヌにも損させています。
自分よりずっと格下の相手に
顔が美しいというだけの男に
なぜロクサーヌを
ゆずらなければならなかったのか?

聡明なロクサーヌはおそらく
早い段階でクリスチャンに
知性が無いことに気付き、
そのとき心をかすめたのは、
優しい従兄ではなかったでしょうか?

シラノは、戦場においては、
数々の武勇伝を残し、
「月世界旅行記」、
「太陽世界旅行記」等の
著書も残しています。

フランス古典主義3大作家の1人
モリエールにも尊敬され
あらゆる分野に通じた一流の
人物。
それでもシラノの自己評価は、
終始高くありませんでした。

物語のテーマは本当はそこにあり、
エドモン・ロスタンも
恐らくそうしたシラノの悲劇を、
書きたかったのではないでしょうか?

みかりんLINE@
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