和気あいあいは表面だけ?

 

 

社員数 300 名以上の大企業を対象に行った調査(資料 1)によると、「異 性と同性とでは、どちらと仕事をするほうが楽か」という質問に、「異性よ り同性と仕事をするほうが楽である」と答えた人は、管理職、一般正社員、 非正規社員いずれも男性のほうが多く、女性は「同性とは仕事がしづらい」 と感じている人が少なくないことがわかりました。  また、「女性が多い職場での困りごと TOP 5」という別の調査では、「仲 良しグループへの所属や内緒話がすぐに広まる」、「単独行動がしづらい」 などの困りごとが挙げられています。平和そうに和気あいあいとして見え る職場でも、裏にまわると、このような悩みを抱えているということです。

 

女性同士の人間関係は、仕事の一つ

 

 では、なぜ女性が女性に対して苦手意識を持ってしまうのでしょうか。  それは、女性同士の人間関係は、“感情労働”的な側面があるからだと考 えられます。  労働には、肉体労働、頭脳労働に加えて、感情労働があります。感情労 働というのは、簡単にいうと、医師や看護師、営業パーソン、飲食店など のサービス業のように、自分本来の感情を抑え、にこやかに、冷静に相手 に接することが求められ、精神的にも働いているようなことを意味します。  女性は、相手の表情から感情を読み取る能力が高い人が多い傾向があり ます。特に、感受性の強い人は、相手の「負の感情」に過敏に反応しがち です。そのため、たとえば、同調を求めているのに相手から違う反応が返ってくると、自分は「否定された」、「裏切られた」と感じてしまうことがあ ります。さらに、日頃から被害者意識が強い人だと、同調してもらえなかっ たという怒りから、相手を攻撃してしまうこともあります。  このようなタイプの女性とのトラブルを避けるために、理不尽だと感じ ながらも、そうした自分の負の感情を抑え込んでいる人は多いことでしょ う。さらに、感情を抑え込むだけでなく、相手が不機嫌そうな顔をしてい たら、努めてにこやかに振る舞ったり、同情してなだめようとしたり、自 分の感情を演出する行動を取ってしまう人もいます。誤解を与えないよう に気をつかわなければならない人と接するのは、精神的に疲れてしまうこ ともあるでしょう。  このように女性同士の人間関係は、感情労働を怠るとたちまちトラブル に発展してしまいかねないという傾向が多く見られます。そのため、トラ ブルを避けながらコミュニケーションを取りたいと思うと、本来やるべき 仕事に加えて、まるでもう一つ仕事のように感情労働に取り組まなくては なりません。そんな難しさが女性同士の人間関係にはあるといえます。

群れることで安心する女性グループ

 

「おひとりさま」という言葉が一般化しているように、最近は、一人旅や レストランで一人で食事をすることにまったく抵抗のない女性が増えてき ました。しかし、その一方で、常に誰かと一緒にいないと不安を感じてし まう女性も少なくありません。  特に女性の多い職場では、「単独行動をしていると周囲から浮いてしま う」、「集団行動は苦手だけど、どこかのグループに属していないと居場所 がないような気がする」と感じる女性は少なくありません。中には集団行 動をするのが当たり前だという「同調圧力」の強い職場もあるでしょう。  常に誰かと一緒にいたいと思う女性の心理として、精神科医の水島広子 氏は、「女性は伝統的に男性から選ばれることによって社会的地位が決まっ てきたからだ」という解釈を示しています。つまり、ひとりぼっちになる ということは、「自分に価値がないから選ばれなかった」と解釈し、自分の 心が傷ついてしまうため、仲間を求めるのだというのです。  心の中では、「ランチくらい一人で行きたい」と思っていても、グループ から抜けられない女性の心理には、「不安感」という心があるというわけで す。

「一人だけ特別扱い」を許さない

 

女性が仲間を求めるのは、大昔の狩猟時代、夫が狩りに出かけている間、 女性たちは周囲と協力して子どもや家族を守っていたことが脳に刷り込ま れているからだという説もあります。群れをつくるのは、自分たちを守る

 

ための本能に近い習性の名残があるのかもしれません。  もちろん、仲間を求めるのは、女性に限ったことではありません。男性 同士でも仲間をつくって行動するのはよくあることです。ところが、男性 グループに比べて、女性グループのほうが何かと難しいと思われているの は、女性特有の集団心理が関係していると考えられます。  とかく男性は集団になると、冒険や面白さを求めて極端な行動を競い合 う傾向があります。たとえば、高いところから飛び降りたり、自転車で急 な坂道を下ったり、度胸を試すために危険な行為を集団の中で競い合いま す。これは、「リスキー・シフト(危険な意志転向)」に陥るためだと考え られます。リスキー・シフトとは、集団になると危険なこと、冒険的なこ とをやりたくなり、そうした極論を集団の中の個人同士で競い合おうとす る心理傾向です。  それに対して女性は、その真逆の「コーシャス・シフト(慎重な意志転向)」 といって、集団になると変化を嫌い、何もない現状維持を求める心理傾向 が見られるそうです。そのため、女性集団は「横並び」であることが重要で、 お互いをほめ合いながら、仲の良い関係を維持しようとします。  そのため、一人だけプロジェクトに抜擢されたり、グループの中心人物 と違う意見を述べたりしてしまうと、とたんに距離を置かれ、悪口や無視といった理不尽な仕打ちをされてしまうことがあります。  これは、「自分は評価されなかった」、「意見を否定された」と傷ついてし まうのと同時に、集団の中で「和を乱す人物は許せない」という心理が働 くためだと考えられます。それは、とりもなおさず、自分が傷つき、不安 になることをおそれているからだといえるでしょう。  そのため、女性グループでは、自分より上に行かせないために足の引っ 張り合いなどがあり、表面上は仲が良さそうに見えても、内面ではドロド ロとした感情が渦巻いていることがあります。集団行動が苦手な女性にとっ ては心が休まることがないというのが、女性の多い職場で疲労を感じる原 因の一つだと考えられます

 

“女の敵は女”は本当なのか?

 

女性は、他人と比較される ことを嫌い、個々の能力を加 味した絶対評価をされるべき だという考え方が強い傾向が あります。  その理由を、精神科医の水 島広子氏は、「女性は『男性 から選ばれる性』だから」だ と分析しています。それは、 日本人の中に、女性は家庭を 守り、子どもを育てるものだ という役割分担意識が、未だ 根強く残っていることと関係 しています。  実際、女性の社会進出が進 んでいるとはいえ、男性と 同等の条件で働ける環境はま だ少なく、どんな男性と結婚 するかで生活水準が決まると いう現実が少なからずありま す。  そのため、“選ばれる”と いう受け身の生き方をしてい る女性は、比較されて優位に 立てなければ「負けた」と感 じてしまい、大した努力もし ていないと感じる相手に嫉妬 してしまいます。 「女の敵は女」とよく言わ れるように、誰よりも目立と うと外見を磨いたり、仲間の ように見える相手の足を引っ 張り合ったりするのも、異性 をめぐる闘いがその背後にあ るというわけです。  しかし、「女の敵は女」は 本当にそうなのでしょうか? 女同士の関係を醜い争いに貶 めるようにも感じられるこの 言葉には、どこか女性を蔑視 しているようなニュアンスを 感じませんか? 敵のように 感じる相手は「女」ではなく、 あくまでも「その人」である はずです。  女だから苦手、女だから嫌 いなのではなく、一人の人間 としてその人に向き合うと、 ベストな関わり方が見えてく るのではないでしょうか。

 

女性なら空気を読めて当たり前という圧力

 

職場での人間関係のいざこざの多くは、相手の自分への接し方から始まっ ていることが多いものです。特に女性は、「その気持ちよくわかる」と言わ れると、その人との距離が縮まり、親しみを感じます。これは、女性は相 手に共感を求める傾向が強いからです。逆に言うと、「相手を否定しない」 ことによってトラブルを避けられるということでもあります。  共感の裏返しは、否定や疎外感で、その根底にあるのは「不安感」です。 多くの女性が共感を求めるのは、その深層心理に不安感があるためです。 共感を得られないのは、自分の存在を認めてもらえないからだと、不安を 感じてしまうのです。  そのため、女性社会では、業務を遂行し、達成するということよりも、 人間関係を維持することのほうが主たる目的になりやすい傾向があります。 従って共感とともに、人間関係を壊さないように「場の空気を読む」とい うことも強く求められます。女性なら空気を読めて当たり前という意識も 強く、それができない人は疎まれ、嫌われる存在になってしまいがちです。  しかし、自分の職場を見渡してみてどうですか? 本音を言えば、共感 できない人の一人や二人はいるのではないでしょうか。その原因・背景の 一つとして、女性の置かれている立場や役割の多様化を挙げることができ ます。  30 年くらい前の男女雇用機会均等法が施行される以前は、女性は会社に勤めていても、結婚を機に退職するのが当たり前だという風潮でした。仕 事の内容も、男性のサポート的な業務や地位しか与えられず、同じような 立場や状況の中で、職場の女性はお互いに、ある程度共通の悩みの中で、 比較的簡単に共感し合える関係だったといえます。  ところが現代は、同じ職場に正社員、契約社員、派遣社員、パート・ア ルバイトといった雇用形態の異なる人がおり、独身、子育て中、既婚で子 どもがいない、親の介護中など、抱えている事情や背景も実にさまざまです。  当然、仕事に対する考え方も、「家計のため」という人もいれば、「仕事 が好きだから」という人もいます。仕事を続けるために結婚や子どもなど、 何かを諦めてきた人、反対にすべてを獲得している人もいます。状況や考 え方の異なるさまざまな人が同じ職場で仕事をしているわけですから、共 感できない言動があって当たり前なのです。  ましてや、最近は、政府が女性管理職比率を 2020 年までに 30%以上に 引き上げるという目標を掲げています。さらに、少子高齢化対策の一環と して、育児休業制度の充実など、子育てと仕事の両立支援にも積極的に取 り組んでいます。女性に求められる役割も負担も大きくなる中で、ストレ スを感じている人は多いことでしょう。感情は、ストレスによって不安定 になります。ストレスフルな職場でネガティブな感情がぶつかり合い、も めやすくなるのは当然といえば、当然のことなのです。  このような現代社会の中で、職場という閉鎖された環境下で、長期間に わたって良好な人間関係を築いていくには、対人関係の「スキル」が必要 になっているということを理解しておきましょう。