「君は、名前を二つ持っているの?」

 アハハ、可笑しいよね、何を聞きたい?

「ひょっとして、名前を二つ持っている人?」

 なんて、夫も若い頃に水商売をしていた頃、カウンター越しに時々尋ねられたことが有ると言う。

 いわゆる通称名、略して通名、それは日本名だが、もう一つ韓国名もあって、どうやらこちらが本名らしい‼だから二つの名前があるという理屈である。

  日本人ではなくて、韓国人なのか、それがあんたにどんな関係があるというのか、でも人は、それが気になるらしい。

 

 私は一時韓国名を名乗っていた時がある。短大の入学書類に韓国名を書いて出したのだが、それは、全くの気まぐれである。

 私を指す名前は、生まれた時から日本名だった。それが多分私の名前である。

 

 私が短大生の頃は学生デモが盛んで、若者は毎日学生運動に明け暮れていた。大学は封鎖されて機動隊がやって来て、学生たちともみ合うという、そんな時代だった。

 何故か私もデモに参加したことが有る。きっかけは分からないが、”パンチョッ○○”というプラカードを高く掲げた団体がいたのを覚えている。パンチョッ○○、半分日本人、良くない言葉ではあるが、妙に感心してしまったことを覚えている。在日韓国人学生の団体だったのか、それとも日本人学生がふざけて名乗っていたのかも知れない。

 

 韓国名を名乗っていると、ある講師が興味ぶかげに寄って来た。どうやら韓国人だと思って、韓国語を教えてもらいたいらしかった。 

 私は中学3年生の頃に、民団と言う在日韓国人団体の事務所で韓国語を習っていて、ハングルは読み書き出来るが、文章の意味はよく分からない。かつての韓国語の文章は、漢字交じりで、丁度日本語のひらがなの部分がハングルといった感じで、理解しやすかったので、まだ柔らかい頭の私は直ぐに覚えてしまったものである。

 私が在日で、韓国語が堪能ではないと知ると、その講師は落胆したようだった。

 ところで私の年齢で、短大まで進む女の子は少なかったので、裕福な家の娘だと思われがちだが、その短大は入学時の費用は一万円にも満たない学校で、私でも行くことが出来たのだった。

 

 二年間、韓国名を名乗って、気づいたことが有った。韓国名は私には、まるで着慣れない衣服の様でどうも落ち着かないことをだ。

 私は日本人ではない、けれども韓国人でもない、ならば何か、在日韓国人‼と言う別の人種か?

 それこそ、パンチョッ〇〇なのか?