今日ご紹介するのは、Carta ao Tom 74です。
Vinícius de Moraes(ヴィニシウス・ジ・モライス)が歌詞を書き、Toquinho(トッキーニョ)が作曲したボサノヴァの名曲です。

ヴィニシウスは、ブラジルが生んだ最高の知性で、詩人、作家、ミュージシャンであり、外交官でもありました。


TomとはAntônio Carlos Jobim(アントニオ・カルロス・ジョビン)のことで、Carta ao Tomとは、トムへの手紙と言う意味です。


Tom Jobimは手紙魔で知られ、暇を見つけてはせっせと手紙を書いていました。

歌詞の冒頭に出てくる番地は、彼が実際に住んでいたイパネマの住所で、それをヴィニシウスが冗談めかして節をつけてトッキーニョに語ったところから、この曲が生まれたと伝えられています。


Rua Nascimento Silva 107(注1)

そこで君はエリゼッチ(注2)に教えている
“Canção do Amor Demais” (注3)
の愛の歌を

あの幸せな時を覚えてる?
ああ、何て懐かしい!
イパネマは幸せに溢れていた
愛が安らぎの中で痛むかのように


あの有名な娘(注4)も知りやしない
この街がどれほど翳り
愛の街リオが失われたかを

悲しみさえも今より美しかった
それに加えて
窓からは天の一角と
キリスト像(o Redentor)が見えた


友よ、ただ一つ確かなことは
この悲しみを終わらせ
新しい愛を見つけるべき
と言うこと


(注1)Tom Jobimが1953年から1962年まで住んでいたイパネマにあるアパルタメントの住所
(注2)Elizeth Cardoso(エリゼッチ・カルドーゾ)のこと
(注3) Elizeth Cardosoが1958年にリリースしたアルバム
(注4)Garota de Ipanema(イパネマの娘)のモデルとなったHeloísa Pinheiro(エロイーザ・ピニェイロ)のこと


まずは、ヴィニシウス、トッキーニョと、Quarteto em Cy(クァルテット・エン・シー)のコーラスをご紹介します。

クァルテット・エン・シーは、ヴィニシウスが目をかけていた女性4人のグループで、メンバーを入れ替えながら今も活動しています。



こちらは、Vinícius、Tom Jobim、Toquinho、Miúchaの4人がリオデジャネイロにあったカネカォンで行ったコンサートでの録音です。


後半部はCarta do Tomとなっていて、Tom Jobimが書いたパロディ調のお返事になっています。

かつての風光明媚なリオデジャネイロの景色が、商業化で失われていくことへの皮肉が込められており、オーディエンスの笑いを取っています。


Rua Nascimento Silva、107
私は異臭の中から抜け出し
エレベーターに乗ろうとしている

私の窓は1メートル四方にも満たず
昔はキリスト像が見えたけど
今じゃセルジオ・ドウラード(注5)しか見えない

友よ、ただ一つ確かなことは
自然を終わらせ
私たちの愛を切り売り(分譲)すべき
と言うこと

(注5)セルジオ・ドウラードは、リオデジャネイロの不動産市場を独占していた実業家



こちらはTom Jobimのピアノ弾き語りです。
お返事部分も歌っていますよ。


Toquinhoのギター弾き語り。


★ポルトガル語の歌詞とコード進行はこちらをご覧ください。
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