今回は、消費税の増税が日本の景気を冷え込ませてきた主要原因だという事について、日本経済の通貨システム(※信用創造量の全体像)から考えてみる。

※銀行がお金を作り出す営みを「信用創造」と呼ぶ。

 

先日亡くなったエコノミストの森永卓郎氏は、2013年に消費税を増税した事が順調に言っていたアベノミクスの景気浮揚を失敗させた原因だと述べている。

以下の動画の16分10秒から。

 

また、日本の失われた30年といわれる90年代以降の長期不況の主な原因は、

消費税の増税や社会保障の増額による消費不況が原因だと述べている。

 

私も森永卓郎氏が述べているように消費税の増税が経済に悪影響を与えたと思っている。

 

その悪影響について主流派の経済理論とは違った視点(お金の向かい先を実体経済と金融経済に分ける非主流派の経済理論)から解説していく。

 

まず消費税の増税を日本経済の通貨システムの全体像(信用創造量の全体像)にすると、以下の図になる。

上記の図は、中央銀行と民間銀行のみが法定通貨である円を創造する(銀行は蛇口、お金は水、市場は水槽)全体像だ。政府はお金(水)を作れない。税金と国債発行をするだけである。

実体経済向けのお金(購買力という意味)は赤い水で表す。実体経済向けの水槽で貯まる。

金融経済向けのお金は青い水で表す。金融経済向けの水槽にたまっている。

・❶まず、政府が消費税を増税する。(赤丸の❶の部分)

・❷次に増税した消費税を市場(水槽)から吸収する。

・❸消費は主に実体経済(❸の赤い水の部分)で行われるために消費税の増税は、実体経済の消費に影響を強く与える。増税の結果、物価が高くなるため消費を圧迫する。

 

しかし、この増税だけでは、お金(水)は増えも減りもしない。

税金の出し入れだけでは、市場(水槽)のお金は変化しない。

市場のお金が増減するのは、銀行業(日銀と民間銀行の蛇口)が貸し出しや資産購入をした時であり、減少するのは、銀行業に借りたお金を返済したり、銀行業が資産を売却した時である。

 

それでは、消費税の増税は何に影響を与えるのかというと、

 

1 実体経済向けのお金(赤い水)を吸収し、金融経済向けに一部を流す

2 実体経済のお金の使用する速度を減少させる

 

この2つの面から悪影響を与えると考える。

 

まず上記の1の理由についてだが、政府は消費税によって実体経済(赤い水)からお金を吸収し、歳出によって4分の1を国債の元利払いにあてている。

そうすると、上記図でいえば、赤い水の水槽の実体経済からお金を吸収し、金融経済(青い水)にお金を流す事を意味する。

これは実体経済にとってマイナスになる。

国家予算の歳出の4分の1が国債の利払いに充てられている事は以下を参考。

 

次に上記の2の消費税増税が「実体経済のお金の使用する速度を減少させる事」について。

消費税は実体経済(赤い水)の消費から約24兆円以上を吸収し、そのお金を上記の様々な歳出(地方交付税、社会保障、防衛関連など)に分配する。

消費税の増税は、消費を直接的に圧迫する一方で、それを財源として分配されたお金は全て消費に使われるわけではない。

そうなると、市場のお金は増減させないが、実体経済のお金の使用速度を減少させることになる。

このお金の流通速度とは、市場(水槽)におけるお金の回転率のことだ。

主流の経済学では、お金の量と使用速度と、経済規模を表した以下の公式が用いられる。

 

・主流の経済学の貨幣数量説

貨幣供給量(預金+現金)×貨幣の流通速度=名目GDP(物価×実質GDP)

以下の図の赤文字のところがこの公式である。

 

しかしこの主流の経済学の公式が不十分なのは、お金の向かい先を実体経済(赤い水)と、金融経済(青い水)に分けていない事である。

貨幣供給量(預金+現金)では、実体経済向けと、金融経済向けに分割することが出来ないからだ。

そのためエコノミストのリチャード・ヴェルナー氏は以下のように分解するのが、より正しい経済変動を表わすのに適していると指摘している。

 

・実体経済向けの信用創造量(赤い水=銀行が実体経済向けに供給した貨幣量)×実体経済向けの信用創造量の流通速度=名目GDP(物価×実質GDP)

 

このヴェルナー氏の公式の特徴は、金融経済向けの信用創造量(青い水=銀行が金融経済向けに供給した貨幣量)を省いたところにある。

これを上記図の貨幣数量説の交換方程式の図にすると以下のようになる。

 

次の図は、ヴェルナー氏が2003年に出版した『虚構の終焉 マクロ経済学新パラダイムの幕開け』という本に掲載されているグラフ。

上記のグラフは「実体経済向けの信用創造量の流通速度」は、名目GDPに対して「ほぼ一定」であり、「貨幣供給量(預金+現金)の流通速度」は名目GDPに対して「減少」していることを表している。

これは、貨幣供給量は金融経済向けを含んだ購買力のため、つまり赤い水と青い水を両方含んだ「紫色(赤+青)の水」になっているためだ。

名目GDPに影響を与えるのは、赤い水の実体経済である。青い水の金融経済にお金を供給しても、実体経済の名目GDPには殆ど影響を与えない(アベノミクスで約500兆円を金融経済向けと銀行向けに供給した量的緩和政策がその典型)。

その観点から、2003年以降の流通速度をグラフにすると以下のようになる。

 

上記グラフの上の青い線は、「実体経済向けの信用創造量から測定した流通速度(金融経済向けの信用創造量を除いた)」である。

下の赤い線は、主流派の経済学が用いている「貨幣供給量から測定した流通速度」だ。

 

貨幣供給量から測定した流通速度は、2003年の0.77から、2023年は0.47と39%も減少している。

貨幣供給量は、金融経済向けに作られたお金も含んでいるため、名目GDP(実体経済の赤い水槽)に反映されない分、流通速度は大きく減少していく。

一方で、「実体経済向けの信用創造量」から測定した流通速度も、貨幣供給量ほどではないとはいえ、15%ほど減少している。

これは、消費税の増税や社会保障の増額などで、実体経済の消費が圧迫され、実体経済で使われる流通速度が減少したことが原因だと思われる。

消費税増税は、このような点から実体経済の取引に使われるお金の流通速度を減少させ、景気に悪影響を与えてきたと考える。

 

しかし主流派の経済学では、上記で用いた通貨システムの全体像の図も、実体経済向けの信用創造量という観点も殆ど存在しないので、このような分析にはならない。

 

この信用創造を分割する経済理論の観点から消費税の増税を考えると、

 

・消費税の増税は、物価を上昇させ、消費を圧迫し、実体経済の購買力の流通速度を減少させた。また国債の元利金の支払いの原資となることで、実体経済から金融経済に購買力の一部を移動させた。この両面(流通速度の減少と、実体経済から金融経済への購買力の移動)から日本の実体経済の成長率には悪影響を与えた

 

・一方で、消費税の増税が行われたとしても購買力の流通速度が減少し、一部のお金が金融経済向けになっただけである。流通速度が減少しても実体経済向けの信用創造量の十分な増加が行われていれば、名目GDPの増加は十分に可能である。そのため、消費税の増税は、実体経済に悪影響を与えたが、実体経済向けの信用創造量を十分に増加させる政策を政府が行っていれば、その悪影響は打ち消すことができる類のものだ。実際、過去の89年に消費税を3%増税させたが、その時は実体経済向けの信用創造量の伸びが強く、その結果、好景気は続いた。欧州などでも消費税や税金が高い国は多数あるが、それでも成長は続いている。

名目GDPの需要面を構成する「消費+投資+政府支出+純輸出」のどの項目にでも、実体経済向けの信用創造量が十分に増加すれば、消費や投資の落ち込みによる不況は直ちに改善できたはずである。

結論としては、日本の失われた30年の原因は、実体経済向けの信用創造量の十分な増加に失敗し続けたことが主要因である(消費税の増税は悪影響を与えたが、実体経済向けの信用創造量の十分な増加でその悪影響を補える類のものであり決定的な要因ではない)。

 

主流派の経済学で用いられている「貨幣供給量(預金+現金)」と、「実体経済向けと金融経済向けに分けられる信用創造量」の違いについては以下の図を参考。

(上記図は拙著『フリーメイソン最上層部により隠されてきた民主主義の真の原理』より転載)

 

ヴェルナー氏の信用創造理論の特徴と貨幣の流通速度の低下の原因については、以下のリンク先で生成AIが上手くまとめてくれている。

 

 

消費税が主に実体経済から徴収する税金であることは次を参考。

 

 

 

・関連動画

2024年11月30日 その2【10月の衆議院選挙で取り上げられなかった通貨発行権 通貨発行権と信用創造の向かい先が経済の最重要問題である事を、消費税や国債と絡めて解説】天野統康 真の民主社会を創る会

 

 

 

(記事終了)

 

 

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