ご紹介にあずかりました、千葉県旭市の総合病院国保旭中央病院 研修医2年目の星野と申します。
8月の1か月間、千葉を離れてここ奄美大島にて働かせていただいています。
南の島に来たのは初めてで、きれいな海というのはほとんど行ったことがなかったので、くる前は楽しめるのか少し不安なところもありましたが、結局そんなことは全くなく、1か月間楽しむことができました。
もともと色白ではないですが、それなりに日焼け致しました笑
とてつもなくきれいな海で、
ウミガメと泳いだり、
のんびりしたり、
(林先生のドローンで取った写真です、すごいですね)
海からの帰りにダブルレインボーが見えたこともあります。
雨・風の影響もあったりで、やり残したこともあるのは残念ですが、充実した1か月間となりました。
もう1か月ここで研修できる同期たちを羨ましく思うばかりです。
たくさん遊ばせていただきましたが、研修でも学ぶこと、感じることは多かったです。
普段いる病院でもご高齢の方はたくさんいらっしゃいますが、土地柄、そして療養病院の側面もあることからも、患者さんの年齢層はさらに上を行っていました。元気に退院していく90代も多かったですが、入院に伴って様々な問題を起こしてしまう方もいらっしゃいました。
さて今回は入院中によく起きる問題の一つである「転倒」について考えてみました。
WHOの報告によれば、長期療養施設入所者の30~50%が1年間に転倒し、そのうち40%は複数回転倒するとされています。日本では、1年間に地域高齢者の10~20%程度、介護施設でも入所者の20~50%が転倒すると報告されています。高齢者の不慮の事故死の第2位を占めています。そのうち、骨折などの重度の外傷は1~10%にみられるとのことであり、相当多いことがわかります。
では、高齢者はなぜ転倒してしまうのでしょうか?
ぱっと考えてみただけでも、明らかな原因はたくさん上がります。高齢者は筋力が落ちているし、とっさのことに反応しにくいし、注意力・判断力が低下していることも多いし、薬が影響することも多いし...
しかし、あらためて文献を読んでみて、私が気づいたことには以下のようなことがありました。
①視力障害:たしかにそうですね。80代では白内障の有病率はほぼ100%ということで、緑内障、加齢黄斑変性なども進行を抑制すれば転倒を減らせるでしょう。
②抑うつ:抑うつがあると転倒リスクは約2倍になるんだそうです。
③身体拘束:身体拘束は転倒の増加、外傷、骨折などと関連しているそうです。ベッド柵の使用により外傷や死亡が増加する一方で、転落は減少しなかったという報告もあるようです。これは意外でした。
このほかにも原因は様々ありますが、結局筋力低下、注意力低下などは不可逆な面が大きく、努力で若者と同じ水準に戻すことはできません。最も可逆的な原因は薬剤でしょう。
抗うつ薬、抗精神病薬、鎮静薬/睡眠薬、そのほか降圧薬、NSAIDs、利尿薬なども転倒のリスクと関連するとされており、これらの処方は最低限にしたいところです。
なんてことはわかってはいますが、一応必要と思ったから始まっているわけで、薬というのはどうしても増えていきやすいものです。どうやって抑えていけばいいのでしょうか?
今回は「潜在的に不適切な薬剤(potentially inappropriate medications: PIMs)」に注目しました。高齢者では若年者に比べて有害な副作用のリスクがかなり高くなるとされており、処方された当時は必要なものであっても、加齢の進行に伴い、ベネフィットよりもリスクのほうが大きくなる可能性があるため、適宜処方の見直しが必要です。
PIMsのスクリーニングツールとして日本では「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」というものが作成されています。これらは中止を検討すべき薬剤をエビデンスに基づいてかなり明確にまとめており、実臨床で役立つものになっています。
例えば、不眠症の項目は以下のように書かれています。
少しのぞいてみます。ベンゾジアゼピン系に比べて、非ベンゾジアゼピン系などω1受容体に選択性の高い薬剤ほど筋弛緩作用が弱く、転倒しにくいです。これらとは別に、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体阻害薬など別の機序の睡眠薬は転倒との関連が少ないとされています。
不要な薬剤を削るだけで高齢者の転倒を防いでADLを保つことができるとすれば、それは重要な仕事ではないかと感じました。
次は2か月目に突入するドローンつかいの林先生、お願いします。
【参考文献】
日本老年医学会,日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班: 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015.メジカルビュー社. 2015.
小川純人. ベンゾジアゼピン受容体作動薬と転倒、骨折. 精神医学62巻4号2020年4月, pp409-414.
松本浩・家研也. 潜在的に不適切な薬剤-クライテリアや減薬プロトコールについて. medicina 56巻13号, 2019年12月, pp.2180-2183.
世戸博之. 転倒へのアプローチ. Hospitalist 5巻4号, 2017年12月, pp.751-765.