新国立劇場『コジ・ファン・トゥッテ』オペラパレス | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 『コジ・ファン・トゥッテ』はモーツァルトのオペラの中でも上演頻度は高いものの、一般的な人気ってどうなんでしょうね。これぞ、という有名なアリアもないし、全編にわたって盛り上がりがなく、尻切れトンボに音楽がぶつ切りで終わる曲が多くて、知名度も低め。3時間聴き続けても耳に残るメロディがまったくないというある意味奇蹟的な作品。何度も観てるんですけどね。ソプラノ・メゾ・テノール・バリトンが同等で主役なので音大オペラや研修所公演で取り上げられることが多い作品です。

 

 印象に残らない音楽ゆえか「良かった」と思える上演になかなかお目にかかれない難作品ですが、プロの中のプロの上演になるととたんに至福の時間になるのがモーツァルト・マジック。今日は主要キャストがこぞって美声。6人全員が極上ってそうそうないこと。そして、モーツァルトにふさわしい品のある歌唱(モーツァルトは品がなかったりするのにねw)。個人的に「モーツァルトが幸せに聴ける時は精神状態が良い時」と思っているんですが、男声同士、女声同士、高音同士、低音同士、高音と低音などなど組み合わせも多彩。発声が素直な方の歌を聴いていると、帰路の鼻歌のコンディションが良くなるのも不思議です。

 

 タンクトップ×短パンで登場する(できる)プリマってそうそうないし、回り舞台をグルグル回しまくる舞台転換も単調なお芝居を見事にカバー。(ただ、日頃、東宝系・松竹系の劇場でダイナミックで流れるような転換を見慣れていると、新国の舞台転換はセリにしろ盆にしろ「動いてるの?」なノロノロ運転です)。フィオルディリージとドラベッラの真面目ぶったキャラクターはまったく魅力がないけれど、デスピーナの生き生きしていることといったら! 九嶋香奈枝は歌に芝居に仮装に大活躍。芝居歌のレベルが誰よりも突出した、素晴らしいデスピーナでした。モーツァルト作品はニンにあってますね。ニンといえば、フェルナンドとグリエルモを脱がせまくる必要はあったのかなぁ。おぼこなフィオルディリージとドラベッラは喜んでたけど、オペラ歌手が脱いだところで誰得? 

 

 男と女が騙し合い、年上が年下にトラウマを与え、くっついたり離れたりのあげく人間関係がバラバラになる……。高校生か大学生の体育会系の合宿でのストーリーだったら納得、と常々思っているので、ミキエレットのキャンプ場に置き換えた演出は、歴代『コジ・ファン・トゥッテ』の中でも断トツの説得力と面白さ。大好きなプロダクションです。

 

 

【キャスト】
フィオルディリージ:セレーナ・ガンベローニ
ドラベッラ:ダニエラ・ピーニ
デスピーナ:九嶋香奈枝
フェルランド:ホエル・プリエト
グリエルモ:大西宇宙
ドン・アルフォンソ:フィリッポ・モラーチェ

合唱:新国立劇場合唱団
合唱指揮:水戸博之
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

【スタッフ】
指揮:飯森範親
演出:ダミアーノ・ミキエレット
美術・衣裳:パオロ・ファンティン
照明:アレッサンドロ・カルレッティ
再演演出:三浦安浩