2024年7月19日放送のNHK『土スタ』(『事件は、その周りで起きている』特集)に笠松将さんが登場。小さな警察署を舞台に、事件ではなくその周りで起きるトラブルを描く、1話完結15分のコメディー。合理的で効率重視の刑事・宇田川和人役の笠松将さんがドラマの見どころを語ります。今回は、笠松さんが朝ドラ『らんまん』の出演に際して話を伺った、2023年4月18日のインタビュー記事を再配信します。




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2023年4月3日から始まった、NHK連続テレビ小説108作目の『らんまん』で、主人公・槙野万太郎の酒蔵で働く蔵人・幸吉役を演じる笠松将さん。映画・ドラマに多数出演し、2021年に放送された大河ドラマ『青天を衝け』では主人公・渋沢栄一の孫、敬三役で登場。注目を集める笠松さんが今回の出演にかけた思いとは――。
(撮影◎奥西義和)


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◆『らんまん』オファーの口説き文句が嬉しくて

朝ドラ『らんまん』のオファーをいただいたときは、率直に嬉しかったです。僕が演じるのは峰屋の酒蔵に出入りする幸吉という青年ですが、親はもちろん、それこそおばあちゃんなんて、僕が主演くらいの勢いでめちゃくちゃ喜んでくれて。多くの人に見てもらえる作品に出演できる喜びを感じました。

あともう一つ。お話をいただいたときに、“幸吉役を笠松さんが受けてくれるなら、彼の描き方を変えます”って人づてに聞いたんです。そう言っていただけたことが本当に嬉しくて。出番が多い役ではないですが、「あなたに合わせて描くよ」という期待に応えるために、一生懸命やらせていただきました。

初日の撮影は、今は使われていない本物の酒蔵で行いました。すごく迫力があり、貴重な経験になりましたね。舞台が高知県なので台詞は土佐弁。でも実を言うとあまり方言のことは考えていなくて。「ヘタクソ」って思われるかもしれませんが、僕が魅せたいのは方言ではなく、もっと違うところにあります。

幸吉は、秋・冬の農業がない期間に来ている蔵人の子の1人で、小さい頃から手伝い、成長して正式に迎え入れてもらいます。お酒を造る流れなどは一通り勉強して臨みましたが、1番力を入れたのは、仕事に対する幸吉の解釈です。お酒造りが幸吉にとってどんな意味を持つのか、そこを突き詰めたかった。演じる人物の原点を探すことは、どの作品にでも共通する部分で、楽しくもあり難しくもあるところです。

そして幸吉がお酒を造ることは、僕にとって役を演じることと同じだと思いました。大切にしたい部分は人それぞれ異なるので、自分にとっては重要なことでも、周りの理解が得られないことがある。僕も、作品に対する考え方とか、僕なりの愛っていうものが周りに伝わりにくいなと感じることがあります。そういう点で、悩みながらも酒造りに向き合う幸吉と、俳優としての自分が自然と重なりましたね。


自分のことより佐久間さんのことばかり話しているかもしれない(笑)




◆佐久間由衣さんとの撮影現場

4月6日に放送された『らんまん』第4話では、幼い綾(幸吉が出入りする酒蔵「峰屋」の長女)が“女人禁制”の酒蔵に足を踏み入れてしまい、大人に厳しく責められるシーンがあった。そのとき、綾が落としていったかんざしを拾い上げ、懐に入れた少年が幸吉。最初の出会いから時が経ち、幸吉は蔵人として酒蔵を支える立場に。綾を演じる佐久間由衣さんとのシーンが多かったとのことで、2人の撮影を振り返る。

佐久間由衣さん演じる綾様は、周りには理解されない幸吉の思いをしっかり理解してくれる人です。そして「自分も酒を作ってみたい」と言って挑戦するんですよ。女性が酒造りをやるなんてありえない、という理不尽に立ち向かっていく姿は同じ俳優としてとてもかっこいいなと思いました。

特に、綾様が大勢に対して異議を唱えるシーンがあるのですが、そこが本当に印象的で。撮影が終わった後、マネージャーに思わず「佐久間さんめっちゃすごくない!?」って言ってしまうほど感動しました。普段お芝居しているときは、相手にそんなことを思っている余裕もありません。でも、今回は本当にすごかった。気合が入っているのはもちろんなのですが、この場の空気を完全に掌握している、よく言う“華がある”という感じだったんです。多分オンエアを見てくださったらすぐに「このシーンだ」って分かると思います。

この場面をきっかけに、さらに気が引き締まりましたね。撮影した日が11月4日で、実は僕の誕生日。だから余計に印象に残っています。現場の皆さんがお祝いしてくれました。その後に、撮影の段取りに入って。佐久間さんは、段取りまでは普通だったんですけど、本番ではしっかりスイッチが入っていて。すごく力を貰えました。

幸吉と綾様の関係性を表現することは、すごく難しかったので、監督や佐久間さんと何度も話し合いながら進めました。2人の間にお酒造りを置きながら、幸吉が綾様に抱く思いを視聴者にどう見せていくか。気を遣いながら絶妙なところを探したつもりですけど、あれで良かったのか…反省会はしないでください(笑)。放送が怖くもあり、楽しみでもありますね。



もともと佐久間さんとは映画『君は永遠にそいつらより若い』(2021年9月公開)で共演していましたが、特別仲が良いというわけではなくて。『君は永遠にそいつらより若い』では、佐久間さんが僕に寄り添い応援してくれる役でした。僕が淡々と台詞を言う役どころだったので、しっかりと目を見る機会もないくらい。『らんまん』で初めてちゃんと目を見てお芝居させていただきました(笑)。今のところ、自分のことより佐久間さんのことばかり話しているかもしれない。(笑)



◆今後は同じ思いを後輩にさせないように

僕はエキストラから始めて、何年もかかって今の場所に立っています。デビュー1発目で仮面ライダーなどの大きい役をつかめる方もいますが、チャンスが手に入らない子の方が圧倒的に多い。今はエキストラをやっているけど、これから先何をするべきなのかわからなくて、最初の一歩が踏み出せずに悩んでいる方はたくさんいると思います。

僕も最初は先輩がいない立場でした。ある程度仕事が増えてからは、良くしてくれる先輩方がたくさんできました。頼れる人たちと出会うまでに10年くらいかかっています。同じように悩んでいる子がいたら、その時間がもったいない。僕はグループのセンターのなり方とか、デビューでいきなり大きい役を掴む方法は分からないけど、エキストラから、朝ドラや大河ドラマ、さらにハリウッドに出るような挑戦をしていくやり方は分かります。

情報を上手く共有して、悩んでいる子たちと一緒に考えるような場所を作りたい。そういう人たちをまとめて底上げして、世界でも戦えるようなチームを作る、むしろできないとまずいなって思っています。事務所を立ち上げたいとかではなく、お互いの考えを共有することのできる場というか。例えるなら、孔子が魯で始めた塾のような、そんな場を作りたいですね。

◆俳優を続ける“心の支え”

昨日も深夜からTwitterライブをしました。自分の顔は映さずに、ラジオみたいな感覚で話すと、精神的にリラックスできるんです。『らんまん』の話もして、「ここから先はネタバレになるから、今はちょっと言えない」とか(笑)。「何時にやります」という告知はせず、やりたいときにぱっとやる。それでも数百人くらいは遊びに来てくれるので、「ああ、見てくれているんだな」って嬉しいですね。

おかげさまで、今まで映画やドラマ、ショートムービーなど数多くの作品に出演させていただきましたが、僕自身が100%満足のいった作品はまだないんです。それがコンプレックスでもあり、心の支えでもあります。

全ての作品に覚悟を持って出演していますが、親戚でも見てくれていない人がいるんですよね(笑)。大変な思いをして挑んでいるのに、それが本当に悔しい。だから、『タイタニック』や『アラジン』のような、全人類が見ているような作品に出ないとなって。生まれたばかりの子から、今まさに寿命を全うするだろうご高齢の方まで、全世界の老若男女が見ている作品をつくることが今の目標です。

(撮影=奥西義和)