風が強い日だった

鎌倉の海に近いところに住んでから
風が強いか弱いかを気にするようになった
強弱以外に風向きも気になる
北風が南風かで全然違うのだ
(南風だと温かい、けど湿度が高い)

その日は南風が強い日だった
夫は朝から洗濯機を回した
そんなに洗濯物が貯まっているわけでもないのに
こんなに風が強い日なのに

私なら明日にしようと思う
しかし夫はしたいと思ったら
躊躇なく洗濯するのだ

その日,夫の予定は
健康診断の結果を聞きに行くことと
潮が引くのを待ってサーフィンに行く
この2つ

まず健康診断の結果を聞きに行った
ものすごい勢いで帰ってきた

思いのほか病院が混んでいたからなのか
健康診断の結果が思わしくなかったのか
早くサーフィンに行きたいのか
どれかなのかその全てなのか
わからない

玄関から真っ直ぐにベランダに突き進んだ

強い南風に吹かれた洗濯物は
ハンガーから物干し竿に絡まったり
落ちかけたり
暴れた後のようになっていた

どうやら
洗濯物にかまってないのが嫌だった様子

家にいた私は
(ほらいわんこっちゃない)
と知らん顔を決め込んでいた
→(サーファーとして風も潮も読むのに
なぜこんな日に洗濯して外に干すかな
せめて室内干し用のバーがあるのだから
そっちに干すか
浴室乾燥使うとかじゃない??という心の声)

物干し竿に絡まった夫のティシャツは
物干し竿の汚れがついてしまっていた
夫「あーあまた洗わなあかん」

「こんな日は室内干しでしょう」→私の心の声

しゃあないなぁと重い腰を上げ
私がベランダの物干し竿を
室内用物干し竿ホルダーに移動させようとすると
先にベランダに出ていた夫は
洗濯バサミが連なったピンチハンガーを握り締め
私に突き出してきた

私「?!」

ピンチハンガーを受け取ってしまうと手が塞がる
物干し竿を室内に移動できなくなる
窓ガラスやサッシにぶち当てないように
物干し竿の移動は両手と神経を使う

夫はそのまま部屋に入りたそうだったけれど
私が立ち塞がる形になってしまった

数秒待たれへんか?

無言の押し問答

ピンチハンガーの端を私に押し付けてきた
さすがに腹立つ

「ちょっと待ちいな」←絞り出した私の言葉

外した物干し竿を
室内用物干しの輪っかに通すのは
サッとできない
長ーい竿を
あの直径5センチほどの輪っかに通すのは
若干フラフラする
と言っても数秒で終わる

なんとか物干し竿の移動だけして
私は去った
一秒でも早くこのイラチパワー炸裂男から離れたい

ハンガーの移動や
ピンチハンガーのことはもう知らん

室内干しに洗濯物の移動を済ませ
やっと座って落ち着いた様子の夫

そんなに急いでるのなら
すぐにサーフィンに飛び出していくのかと思いきや
潮が引くまであと30分くらいあるという

じゃあなんで物干し竿の移動の
数十秒が待てなかった??
恐るべきイラチ

夫「コーヒー飲みたい」

今朝の夫はコーヒーも飲まずに
健康診断の結果を聞きに行ってたことを思い出し
ハイハイと淹れてあげる優しい妻←あなたのイラチパワーになんて負けません、自分の機嫌は自分で取らなくちゃ


コーヒー飲ませ、30分経って 
なんとかサーフィンに出て行った
海水カッパだから
頭の皿を海水に浸して帰ってくれば
ご機嫌さんになってるはず
波があってもなくてもちゃんとご機嫌さんになる
海の懐の広さたるや

しかーし
こっちはなんかわからんとばっちりを受けた気がする
気持ち切り替えたつもりが
やっぱり腹の虫が治らない

これまた出かけていた娘Bが帰ってきたので
「あんな海ガッパ、
一生サーフィンからかえってこんかったらええのに」
と呟いてしまった

娘「私のベッド空いてるよ」
なんと!部屋に匿(かくま)ってくれるという

「ママならペタンコやから、
上から布団かけたらわからへんのちゃう」という
泣けてくる優しさ

そうこうしてる間に
「あ,パパ帰ってきた!」

慌てて娘のベッドに駆け込み上から布団を被った

「ママー♪ママー♪あれ,ママは?」
予想通りばっちりご機嫌さんで帰ってきた

「、、知らん」
リモートワークのパソコンに向かったまま
娘がそっと答える

「そっか、海散歩に行ったんか」
夫は疑う余地もなく
台所で海上がりのエネルギー補給に
甘いものを探している
うちの台所は
娘の部屋のすぐ近く
これは、動けない
頭の上までの布団は息苦しい
そんなに変わらないのにお腹を凹ませる私

やっとどこかへ行ったと思ったら
乾いている洗濯物を取り入れ出した
夫は乾いたものから取り入れる←まめまめしい
取り入れたものから畳む←まめ
ついでに言えば、乾きやすいように
途中でひっくり返したりもする←したことないわ
それが夫流の洗濯技

畳んだ娘の洗濯物を届けにやってくる
ベッドの上、私の足の上に洗濯物を置く
息を止めて、ぺったんこになっている私
ドキドキが激しくなる

ホッ、見つからなかった!

布団の中は快適だけど何もできない
ペタンコでいるには寝るしかない
ウトウト睡魔が襲ってきた

暇やな
これ,どのタイミングで出て行こ?

そう考えてると
ピンポーン♪
インターホンが鳴った

「あ,ママや!」夫が解錠を押す
何か声がしたけれど
ルーニーの吠える声でいつもかき消される
「ママ帰ってきた!」

え?!
なんで?!
私はここにいる
だれ?!

「ママーお帰りー!」

え!
思わず布団から顔を出して
娘と顔を見合わせる

だれ?!

この瞬間、ラヴィリンスの扉が開きそうになった
いや,パラレルワールドかも

もう一人の自分が
玄関から入ってくる映像が見えた(ような気がした)

ドッペルゲンガー来た?!

鳥肌が止まらん

え?!え?!だれ?

我が家はカメラ付きインターホンだから
見えてるはず

ド、ド、ド、ドッペルゲンガーと鉢合わせ?!



玄関を開ける夫
夫「ママ、おかえり!!」

♂「電気の点検に来ました」


おぉ、そうか、そうだった
今日の午後は電気設備の点検だった
冷蔵庫に日程が記された紙を貼っておいたけれど
すっかり忘れてた

おぉーーーー、ドッペルゲンガー違ったー!!

布団の中でホッとした
汗が止まった

「〇〇ヨォーシ!◯◯ヨォーシ!」
電気設備の指差し確認をしてる様子が聞こえる
丁寧な人だ

ヒューズのところだけだよね?
各部屋回らないよね?
これはこれでドキドキする

無事に点検を済ませて
玄関ドアがバタンと閉まる音がした

早速,娘Bに報告に来る夫の足音が近づいてくる

私は布団から顔を出して待っていた


「!」真顔の夫

「いつの間に帰ってたん!」

海散歩からそっと帰ってきて
仕事中の娘の横のベッドに潜り込んだと思ってる

「一歩も外に出てません」私

「?!」なんとも言えない真顔


はぁ、腹立つから娘に匿ってもらってたなんて
通用しないんだろな、この人には

それよりも娘と2人で
ドッペルゲンガーに怯えた私たち
これまたなんかおかしい

懲らしめようと隠れたのに
知らない影に怯えさせられた

夫の「ママが帰ってきたに違いない」と
信じる力に完全に引っ張られたよね

なんなん、あのエネルギー!

何度思い出してもおかしい
自分で笑いが止まらない
思い出しながら涙出るほど笑った

ハイハイ、
犬も食わないデス


今日もありがとう
いつもありがとう