①夫れ禍福の転じて相生ずるや、其の変見難きなり。

②近ごろ塞の上の人に、術を善くする者有り。馬故無くして亡げて胡に入る。

③人皆之を弔ふ。其の父曰はく、「此れ何遽ぞ福ひと為らざらんや。」と。

④居ること数月、其の馬駿馬を将ゐて帰る。人皆之を賀す。其の父曰はく、「此れ何遽ぞ能く禍ひと為らざらんや。」と。

⑤家良馬に富む。其の子騎を好み、堕ちて其の髀を折る。人皆之を弔ふ。其の父曰はく、「此れ何遽ぞ福ひと為らざらんや。」と。

⑥居ること一年、胡人大いに塞に入る。丁壮の者は弦を控きて戦ひ、塞の上の人、死する者十に九なり。此れ独り跛の故を以つて、父子相保てり。
⑦故に福ひの禍ひと為り、禍ひの福ひと為るは、化極むべからず、深測るべからざるなり。

 

①そもそも不幸と幸福が入れ替わりお互いを生み出すことは、その変化は見極めるのが難しい。
②近ごろとりでの近くの人に、占術が上手な人がいた。※あるときこの人の※馬が理由もなく逃げ出して胡の領地に行った。

③人々はこのことに慰めを言った。その老人が言うことには、「このことがどうして幸福にならないだろうか。」と。

④数か月たって、その馬が胡の名馬を連れて帰ってきた。人々はこのことにお祝いを言った。その老人が言うことには、「このことがどうして不幸になることができないだろうか。」と。
⑤家はよい馬をたくさん持つようになった。その息子は乗馬が好きで、落馬してももの骨を折った。人々はこのことに慰めを言った。その老人が言うことには、「このことがどうして幸福にならないだろうか。」と。
⑥一年たって、胡の人が大勢とりでに攻め込んできた。成人の健康な男性は弓を引いて戦い、とりでの近くの人は死んだ者は十人中九人に及んだ。この息子だけは片足が不自由だったゆえ、父と子はともに生き延びた。
⑦だから、幸福が不幸になり、不幸が幸福になることは、その変化をよく知ることができず、奥深さをはかり知ることはできないのである。