著者の本は 「四十九日のレシピ」「風待ちのひと」「ミッドナイトバス」「なでし子物語」についで5冊目となります。相変わらず 地味な中年おっさんが主人公ですが 今回舞台となるのは バレエ団。今までの地味な作風から いい意味でエンタメ色の強い作品に仕上がっていました。

 

主な主人公は二人、製薬会社からスポンサーになっているバレエ団への出向を命じられた青柳と 自身もバレーボールの選手でありながら 今はトレーナーとなった由衣。そんな2人が  社の至上命令「バレエ団の公演を成功させること」に 愚直に取り組んで行くものがたりです。由衣の 高校バレー部監督の言葉「努力・情熱・仲間」が 全編を通してキーワードになっています。

 

社名を変更する有明製薬会社が 世界的プリンシパル高野悠を迎えて、スポンサーになっているバレエ団(社長の娘沙良がプリマドンナ)の公演を計画する。高野によると 「努力 情熱 仲間」は 「レッスン・パッション・カンパニー」と置き換える事が出来るとの事で そこらバレエ団とか 仲間を意味する「カンパニー」が タイトルになったようです。劇団四季の舞台を 時どき観ますが 団員自身は 劇団四季の事を カンパニーと言っていて、少々違和感を覚えていたのですが 納得しました。

 

青柳は 仕事は卒なくこなすけれど…のタイプで 妻と娘にも見捨てれて公私共に崖っぷち。そんな青柳の孤軍奮闘、読んでて応援したくなります。バレエ公演は 「白鳥の湖」のいわくつきの新解釈もの。しかも王子役には 話題作りのため、バレエダンサーではなく Jポップ、バーバリアン・Jの人気アーティスト那由多(エグザイルが浮かんできました)。オデットには 有無を言わさず、社長の娘の沙良というスポンサーサイドのごり押し。

 

公演は 思ったようにチケットは売れず、ロットバルト役の孤高のダンサー高野は 故障を抱えてるのに トレーナーの由衣に 心を開かず・・・と 難題山積と ページを繰る手が止まらなくなりました。何と この小説、宝塚月組で来春公演予定との事で ちょっとびっくりしました。舞台が バレエ団というのが ピッタリなのでしょう。宝塚もいいけれど ドラマでも見てみたいな~と思ってます。

 

孤高のダンサー高野に 先日観た「ダンサー~世界一優雅な野獣」のセルゲイ・ポルーニンを重ね合わせていました。トップに立ち続けると言う事は 何と厳しく険しいものなのでしょうか?でもそんな努力をしてもトップになれるのは ほんの一握りの選ばれた者だけなのも現実です。バレエ団のNO2プリマドンナの美波と青柳、それに高野と由衣の ほのかな恋模様も暗示されていて 読んでいて こちらもときめいて来ました。

 

公演を成功させるために 動画サイトやSNSなど駆使する様に 「今」を感じました。それと印象的なシーンは 公演直前の 新宿アルタ前で撮影された「フラッシュモブ」の場面です。フラッシュモブとは 最近よく目にしますが 街角で 通行人を装ったパフォーマーたちが 突然いっしょに踊り始める・・・というサプライズ、ハプニングを装った集団ダンスです。公演の宣伝のために みんなが一丸となってフラッシュモブを踊る場面は 目に浮かぶようで 本当に印象的でした。

 

本公演の3日間でも やはり突発事故?が発生したりして ハラハラドキドキ、最後まで目が離せませんでしたが エピローグのそれぞれのその後に ホッと一安心。満ち足りた気持ちで本を閉じる事が出来ました。伊吹有喜の本、やはり私は大好きです。宮部みゆきのように 何か人への暖かいまなざしを感じます。本作、来年の「本屋大賞」に一押しの私です。