今日、母は93歳になった。
誕生日には、自宅に一度だけでも連れて帰ってあげたいと思っていた。
しかし、もう車椅子でしか移動できない母をどう家に連れて帰ってきたらいいのか、家での移動はどうするのか。
私が頑張れば、なんとか母を家に連れて帰れるのではないだろうか?
いやいや、母を連れてくるのはとても大変だ。私は、それが億劫なだけで、その面倒から逃げてるだけなのでは?
まだコロナも流行っているから、私が家に連れて帰りたいと言ったら、施設にも迷惑をかけるだろうな。
心は決まらないまま、母を自宅に一時だけでも帰宅させてあげられない後ろめたさで、心が潰れる思いだった。
3月1日、NHKの「ストーリーズ」「コロナ禍 花束に思いを託して」という番組で、東 信さんと言うフラワーアーティストを知った。
東さんは、フルオーダーメイドの花屋としてお客一人一人のリクエストに合わせた花束を作り続けている。 店舗(ジャルダン・デ・フルール)は、花卉の買い置き保存は一輪も置かずに、客から受注後に花卉を発注して仕入れ、客個々のイメージ、目的、シーンなど要望に応じた仕上げを特長とし、「オートクチュールの花屋」とも称されている(wikipediaより)。
注文をする人たちは、いろいろな思いを花束に託し、それを東さんが花束に具現化する。
人々は、世界にひとつだけの花束に自分の心を込めて、大切な人に贈るのだ。
これだ、と思った。
夫を若くして亡くし、自分のことは二の次で子供を育て、質素に慎ましく暮らしてきた母、他人が困っているのを見ると損得を考えずに助けてあげていた母に、とびきり贅沢で素敵な花を贈ろう。
思い切り、贅沢させてあげよう!
東さんの花に私の思いを託せる、と思ったら、母を自宅に連れてきてあげることができないやり切れなさが少し和らぐ気がした。
色は母の好きな蜜柑色、元気が出るビタミンカラーをオーダー。
東さんのアトリエのスタッフに、母の今の状況や、背景をメールした。
誕生日の前日に、花が届いた。
店舗から送ってきた画像がこれ。
メッセージカード。
春の暖かさで、母に持っていく時には、フリージアも花開き、良い香りがしていた。
母は、寝ている時間も多く、起きている時に会えるか心配だったが、なんとか覚醒してくれて、無事に花を渡すことができた。
母が書いた私の育児日記も持って行き、写真も見せた。
弟と私の写真。
言葉を発することは、ほとんどなかったが、最初に発した今日の言葉は、
「遊んでいられない」。
「あんたとは遊んでいる暇はない」なのか? 相変わらずのトボケだ。
いつも付き添ってくれる夫と。
よく面倒を見てくださる看護師さんと(母の表情が一番柔らかい)。
看護師さんは、花を見て、すご~い、良い香りと何度も言ってくれた。
3人で。看護師さんが撮ってくださった。
母には、育ててくれたお礼と、認知気味になってしまった母に、私が苛立ってしてしまった幾つかのことを詫びる手紙を書いた。
もう、読んではくれないだろうけど。
例えいっときでも、感情的になってしまい、弱い立場の母を傷つけてしまったことがあったことを、私は多分、一生後悔し続けるだろう。
看護師さんに促されて、母は最後に小さい声で「ありがとう」と言ってくれた。
それが、とてもうれしかった。
花は、入居者やスタッフの皆さんも楽しめるように、みんなが集まるホールに置かれた。
花は、しばらくの間、その良い香りを漂わせてくれるだろう。
不甲斐ない娘でごめん。
もっともっと長生きしてください。