今回は,「損害賠償請求権について」です。
1 損害賠償請求権とは
他人の行為により損害を受けた場合,その損害を行為者に対して弁償してもらうことができる権利を損害賠償請求権といいます。
損害賠償請求権の法的根拠としては,行為者との間に契約関係がある場合は,契約に基づく損害賠償請求権,契約関係にない場合,不法行為に基づく損害賠償請求権となります。
契約に基づく例として,AさんがBさんにカメラを無償で貸したとします(これは前回説明した使用貸借になります)。
Bさんは,借りたカメラを誤って落としてしまい,修理も不能となってしまった場合,Aさんは,Bさんに対し,貸したカメラの価額を賠償するよう請求することが出来ます。
これは,AさんとBさんの間に使用貸借という契約があり,その契約によれば,Bさんは,借りた物を返す義務がありますが,これが出来なくなったため,債務不履行として,損害賠償をする義務が発生するわけです。
次に,契約関係がない例として,Cさんが車を運転中,誤ってDさんをはねて怪我をさせてしまったとします。
もちろん。CさんとDさんとの間には,「はねて怪我をさせた場合,○○円支払う」という契約は存在しません。
Cさんは,偶然の事情で,全く何の関係もないDさんに「怪我」という「損害」を与えたわけです。
この場合,Dさんは,不法行為という,契約とは別の法的根拠で,Cさんに,怪我の治療費等を請求することが出来ます。
2 損害賠償請求権の相続
上の例のAさんやDさんが,実際の賠償を受けないうちに亡くなってしまった場合,損害賠償請求権は,相続されるでしょうか。
損害賠償請求権も他の財産権と異なるところはありませんので,当然,相続されます。
相続人は,法定相続分に応じて,BさんやCさんに対して,損害の賠償を請求することが出来ます。
3 慰謝料の問題
ここまでは,特に問題は無いのですが,損害賠償請求権の一種である「慰謝料請求権」については,理論的な問題があります。
慰謝料というのは,精神的苦痛に対する損害賠償金のことで,「痛い」,「辛い」,「苦しい」といった感情を引き起こしたことに対する慰謝(慰める,謝る)を金銭で評価して弁償するものです。
同じ物的損害を受けても,感じ方は人それぞれなので,慰謝料の額を決める客観的な基準というのは,なかなか難しいものですが,これまで裁判例が積み重ねられてきて,だいだいこういう場合はこれくらいであろうという相場的なものが形成されています。
ただ,全く同じ事件はありませんので,絶対的なものではありません。
さて,慰謝料の何が問題なのかというと,民法は,一身専属的な権利の相続を認めていないことと関係があります。
慰謝料というのは,精神的苦痛に基づくものであり,どのように感じるかは主観的なものです。
また,これを行使するかどうかも本人の自由です。
この性質から,慰謝料が一身専属的な権利といえるとすれば,相続されないことになります。
しかし,そうすると,不都合な場合が生じます。
4 生命侵害に基づく慰謝料の問題
例えば,先ほどの,CさんとDさんの交通事故の例を見てみましょう。
交通事故にあったDさんが,怪我をして,半年間,入通・通院をしたとします。
当然,Dさんは,精神的苦痛を受けますので,慰謝料が発生し,これをCさんに請求することが出来ます。
ところが,もし,Dさんが,その請求をする前に死亡してしまったらどうでしょうか。
Dさんが感じた苦痛は,Dさんしか分かりませんし,それを請求するかどうかもDさんが決めることです。
生前,Dさんが,慰謝料を請求しないと明確に述べていれば,いくら親族であろうとも,Dさんに代わって請求することは認められないでしょう。
でも,Dさんが慰謝料について何も言わないまま亡くなった場合,相続人は,Dさんに代わって慰謝料を請求できるでしょうか。
また,それを認めるべきでしょうか。
Dさんが,事故によって意識不明となり,意識を取り戻すことなく亡くなった場合,Dさんには精神的苦痛はあったのでしょうか。
さらに,仮に,Dさんが即死であり,苦痛を感じる間も無かった場合,理屈の上では,Dさんには,慰謝料が発生する余地はありませんが,それは妥当でしょうか。
5 裁判例の変遷
このような,様々な疑問が,理論的,実際的に問題となりますが,かつては,以下のような裁判例が存在しました。
交通事故で被害者が亡くなった場合については,慰謝料を請求する意思が確認出来る場合は,相続を認め,確認できない場合は,慰謝料の相続を否定する,としました。
そして,慰謝料を請求する意思は,できるだけ広く解釈し,被害者側の救済を図るというスタンスでした。
例えば,被害者が亡くなる前に「残念,残念」,「痛い,苦しい」,「悔しい」,「相手が悪い」といえば,相手を責める意思があるとして慰謝料を請求する意思と認め,相続を肯定しました。
これに対し,「助けて!」では,相手を責める意思とは認められないとして,相続を否定しました。
しかし,死亡という,怪我よりも重大な侵害を与えておきながら,慰謝料の発生を認めないのは公平を失します。
また,即死に近い場合,そもそも本人には請求する機会もありません。
さらに,裁判例のように,死ぬ前に何と言ったかによって,慰謝料の発生や相続が決まるというのは,あまりに偶然的・技巧的すぎるという批判がありました。
そこで,最高裁は,昭和42年11月1日の判決で,戦前から裁判例の方針を変更し,被害者の特段の意思表示の有無に限らず,慰謝料請求権は発生し,相続の対象となると判示しました。
現在の実務では,慰謝料請求権が相続されることは,当然の前提として運用されています。
これで,もし交通事故に遭って死にそうなとき,何と言い残せば慰謝料請求権が相続されるかを考えておく必要は無くなったわけです。(^^;)
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